流出した警察庁極秘「朝鮮総連捜査マニュアル」が物語る北東アジア安保と市民生活の危機
警視庁はいま、北朝鮮産マツタケの不正輸入事件を入口として、朝鮮総連の内部実態をさぐるべく動きを活発化させている。こうした捜査に対して、世間からは「拉致問題」の解決のための北朝鮮に対する圧力の一環として捉えられている。
しかし、総連ビル問題もそうだったが、なぜ総連への圧力が北朝鮮への圧力に繋がるのかが、曖昧なまま捜査が進んでいる印象が否めない。一般的には、「総連は北朝鮮の金庫番だ。そこを叩けば北朝鮮本国への大きな圧力になる」と言われているが、それを裏付ける資料をデイリーNKジャパンは入手し全文を公開した。
警察庁が作成した秘密文書「北朝鮮への不正送金対策推進計画」は、朝鮮総連に対する「捜査マニュアル」とも言うべきものであり、警察当局が何を狙っているのかが、見えてくる。
まず、この文書が作られた背景には、北朝鮮の核開発問題をめぐる、1990年代半ばの米朝間の軍事的緊張の激化があった。
米朝の交渉で行き詰まりと打開が繰り返されるうちに、1993年になると米韓両軍が中止していた大規模演習「チーム・スピリット」を再開させ、北朝鮮が「準戦時体制」を宣布するなどの軍事的示威行為の応酬がなされた。
そして翌1994年6月、アメリカが国連安保理常任理事国などに北朝鮮制裁案を示めすと緊張は最高潮に達する。当時のクリントン政権は、北朝鮮の核施設の空爆を検討し、北朝鮮は「空爆には、砲撃でソウルを火の海とする」と猛反発。第2次朝鮮戦争は不可避と思われる一触即発の情勢に発展した。
ちょうどこの時期、アメリカと日本では朝鮮総連が北朝鮮に不正送金を行っており、その額は年間6億ドルに達するという「対北600億円送金」説がささやかれていた。
それを解明すべく練られたのが、最初に述べた「捜査マニュアル」なのだ。
マニュアルを読んでいただければわかるが、そこに示されている手法は、捜査のターゲットにしたい対象者の選定からまず行い、各種法令に触れるような事実を見つけ出して意地でも「事件化」するというものだ。
核開発問題のような、東アジアの安全保障の根幹にかかわる問題については、あらゆる手段を動員して謎を解明せねばならない場面もあるだろう。しかしこうした捜査手法には、対象者の人権侵害にもつながりかねない危険な側面があるということにも留意しておく必要がある。
実際、2010年には国際テロの関連情報を収集している警視庁の内部文書がインターネットに流出し、テロとは関わりのないイスラム教徒の個人情報がさらされるという事件が起きている。
社会の安全保障のためには、プライバシーの保護も必要である。捜査当局も、ギリギリのところでバランスを保つことが大事だろう。