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北朝鮮権力層に変化? 存在感を強める抗日ゲリラの子どもたち

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩第一書記の現地視察に同行する与正氏(2015年1月2日付労働新聞より)

金正恩氏が足首の手術を終えて再び姿を現した昨年10月以降、北朝鮮権力層にある変化が起きている。崔龍海(チェ・リョンへ)氏、呉日晶(オ・イルジョン)氏など「抗日パルチザン第二世代(※)」の存在感が強まっているという。

韓国の統一部は15日に発表した「2014年金正恩の公開活動現況」のなかで「金正恩のリーダーシップが反映された随行グループの割合が拡大した。とりわけ、金正恩が一時的に姿を消して以後、パルチザン第二世代が随行する割合が大幅に増加した」と分析した。

正恩氏は、昨年9月上旬から40日にわたり動静報道が途絶えたが、10月14以降に杖をついて公開活動を再開した。韓国の情報機関である国家情報院は左のくるぶしに腫瘍(しゅよう)ができ、欧州の専門医を呼んで手術を受けたと報告している。

手術前には、崔龍海氏の随行率は28%だったが、活動再開後は50%に増加した。また、呉日晶(オ・イルジョン)労働党軍事部長も、手術を境に0.76%から25%へと大幅に増えた。

崔龍海は、金日成の抗日パルチザンの仲間である崔賢元人民武力部長の息子であり、呉日晶はパルチザン第一世代呉振宇(オ・ジヌ)元人民武力部長の息子だ。

北朝鮮では最高指導者に随行する回数が当事者の序列を表す目安であり、その時の権力模様をうかがい知る材料となる。随行回数の急増の背景には、金正恩体制を確立するためにパルチザン一世代の役割がより大きくなっていると見るべきだ。

第二世代ではないが「白頭の血統」を受け継ぐ実妹の金与正氏(労働党副部長)も今年5回の全ての現地視察に同行するなど存在感が強まっている。一部の北朝鮮専門家からは「労働党組織指導部副部長」や正恩氏の書記実務を務めている可能性があると見られている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、内部消息筋の話を引用しながら与正氏は政治キャリアを積むため、あえて一般人にまぎれて軍事パレードに参加するなど着々と正恩氏の側近としての側存在感を強めていると伝えた。

金正恩に随行した回数は黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長が126回で最も多く、韓光相(ハン・グァンサン)労働党部長が65回、崔龍海氏57回、李永吉(リ・ヨンギル)軍総参謀長42回、馬園春(マ・ウォンチュン)国防委員会の設計局長39回の順だ。

昨年金正恩の公開活動回数は40日間姿を消していた影響で2013年の209回より17.7%減少した172回となった。分野別に経済62回、群56回、社会・文化29回、政治24回で2013年と同様の傾向だった。

※抗日パルチザンとは 1930年代に中国の東北地方(満州)で共産主義者たちが展開した抗日ゲリラ闘争のこと。北朝鮮史では金日成氏が抗日パルチザンのリーダーとしており、このグループが「朝鮮民主主義人民共和国」建国の際の中心的役割を果たした。現在においては北朝鮮の精神的淵源であり自国を正当化するための理論的支柱でもある。金日成とともに抗日闘争を展開し、建国後も支えた人脈を「パルチザン第一世代」と呼び、その子ども達の人脈を「パルチザン第二世代」と言う。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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