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大坂なおみが、再開したプロテニスツアーに参戦!!ニューヨークからの再出発は、健康維持が活躍のキーに!

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
リモート会見に応じた大坂。彼女らしいユーモアを交えながら語った(写真/神 仁司)

 ついに、大坂なおみが、プロテニスツアーに帰って来た――。

 ワールドプロテニスツアーは、新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)によって中断となっていたが、女子WTAツアーは、8月3日の週から再開された。

 そして、大坂は、USオープンの前哨戦(8/21~28)に参戦するため、ロサンゼルスからニューヨークに入った。本来なら前哨戦は、アメリカ・オハイオ州シンシナティで開催されるが、今回はパンデミックが起こっていることを考慮し、選手の移動リスクを減らすため、USオープン(8/31~9/13)と同じ開催場所、ニューヨークのUSTAビリー・ジーン・キングナショナルテニスセンターで開催されることになった。

 もちろん無観客試合なのだが、大会期間中に選手たちは、大会会場や選手のオフィシャルホテルなど、“バブル”と呼ばれる感染症対策を施した隔離空間の中だけしか行動を許されない。

 本戦が始まる前に、大会プレ会見がリモートによって行われ、大坂も参加したが、普段とは違う見慣れない会見の光景に、リモート会見が始まる直前に自分のスマホで写真を撮影したり、「リモート会見に50人も参加しているなんてすごい!」と思わず感想をもらしたりした。

 新型コロナウィルスのパンデミックによって、大坂は、誰もが予想しなかった思わぬ形でテニスをしない時間ができ、いろいろと自分を見つめ直す時間もできた。

「不思議なことはありません。でも、すべて(コロナのパンデミック)が始まった以前より、私は、今では以前と違う人かもしれませんね。ここに来られて以前より感謝の気持ちをより感じています。今回のような長くテニスをしないことはこれまでありませんでした。私が対処し、考えることができたことが間違いなくたくさんあります」

 ツアー中断中に、大坂は、自身のツィッターやインスタグラムで情報を発信し続けた。

 インスタライブでは、ガエル・モンフィス(フランス)やステファノス・チチパス(ギリシャ)と交流し、大坂らしいユーモアを交えながらのトークでファンの笑いを誘った。ちなみに、大坂は、チチパスのことを親しみ込めて“チチちゃん”と呼ぶ。

 5月にアメリカ・ミネソタ州で警官による米黒人男性暴行死亡事件をきっかけにした人種差別反対の動きが起こり、“Black Lives Matter”のスローガンが掲げられた時には、「何も言わないのは賛成しているのと同じ」と語りながらSNS上で持論を展開した。

 スポーツ選手は政治に関わるなという反論が読者側から起こると、大坂はさまざまな意見に耳を傾けながらも、「イケア(スウェーデンの家具メーカー)で働いている人は、ソファのことしか話せないの」とか、「アスリートは、政治に関して口を出すなと、たくさんの人が言うのが大嫌いなのよ」と、自分の意見をしっかり主張しながら戦った。

 あるいは、姉・まりと共同でデザインしたマスクを販売して、利益を国連児童基金(ユニセフ)に寄付する活動も行った。

 さらに、世界的なスポーツメーカーであるナイキと、ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団と連携して、遊びとスポーツを通じて女の子たちの人生を変えるプログラム「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」を設立した。

 もともと内気で口数の少ない女の子であった大坂からすると、想像を超えるようなアクティブな活動ぶりだが、「シャイでいるのはやめにするわ。時間の無駄だと思う。これからは(自分の)リミッターを外していきたいの」と宣言したことを有言実行した形になった。

「本当に長くテニスをする時間はなかったですし、機会も減っていましたからね」と大坂自身が振り返るように、プロテニスツアー中断の時には、今まで当たり前のようにできていたテニスができなかったというかつてない厳しい経験を経たからこそ、改めて「私は、テニス選手であることをより感じます」という感覚を大坂はもつようになった。

 大坂が試合をするのは、2月上旬の女子国別対抗戦・フェドカップでのスペイン戦以来となる。ツアー中断中には、フィットネスコーチをIMGアカデミーの中村豊トレーナーに変更して、みっちりトレーニングを積んできたようで、「すごく厳しくトレーニングを積むことができたとも感じています。フィジカル的には、今とてもフィットしています」と大坂は自信をのぞかせる。

 大坂は、USオープン前哨戦で第4シードになり、ドローのトップハーフに入った。上位シードのため、1回戦はBye(不戦勝)で、2回戦から登場する。

 ニューヨークは、2018年USオープンで大坂がグランドスラム初優勝を成し遂げた、彼女にとっては忘れられない場所であり、幼少期を過ごした思い出の地でもある。そこで、彼女がプロテニスの活動を再始動させるのは、ちょっとした運命のようなものが感じられる。「私はここ(ツアー再開の場所であるニューヨーク)にいられて本当に幸せです」と語る大坂が、果たして復帰初戦でどんなテニスを見せてくれるのか非常に楽しみだが、これまでと異なるのは、コロナ対策をしながら健康維持を実践するのが活躍するためのキーポイントにもなることだ。

 そして、USオープン前哨戦の再開までこぎつけた大会関係者の尽力と熱意には敬意を表したいが、コロナ禍である厳しい現状は、根本的には変わっていない。大坂をはじめとした出場する選手、選手帯同者および大会関係者やスタッフの体調管理が、大会期間中にしっかり行き届いて、“USオープン・クラスター”が発生しないことを願わずにはいられない。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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