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新型コロナショックによって混乱するプロテニスツアー(前編)欧州クレーシーズン消滅!全仏は9月へ延期 

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
5月から9月へ延期になったローランギャロス(全仏テニス)(写真/神 仁司)

 ワールドプロテニスツアー(男子ATP、女子WTA)は、新型コロナウィルスのパンデミックによって未曾有の影響を受けている。

 3月18日には、男女共にツアーは6月7日まで中断されることが発表された。WTAチェアマン&CEOのスティーブ・サイモンは次のようにコメントしている。

「簡単な決定ではありませんが、疑いもなく適切な行動です。大会でのプレーは、関係当局と公衆衛生局から提供される安全ガイダンスに基づいています。80を超える国と地域から集まった選手たちが、6大陸にまたがって激しい競争が行われるシーズンの中、この世界的な危機を終わらせるための手助けなら何でもやることが、WTAがやるべき最も高い優先事項です。熱心なファンを含めてWTAファミリーの幸せ以上に大切なことはありません」

 今回の決定には、男子ツアー下部のATPチャレンジャー大会も含まれており、加えて国際テニス連盟(ITF)主催の男女のツアー下部大会、ジュニア大会、車いすテニス大会、シニア大会、ビーチテニス大会も同様に6月7日まで行われないとしている。

「この(新型コロナウィルスと対峙する)困難な時期に、今回の(大会の)延期の影響を受けるすべての人々に、可能な限り確実なものを提供するため、われわれのスポーツ(テニス)が協力していくことをこれまで以上に重要とされています。われわれは、これらが巨大な影響を与えることを承知しています。しかし、最終的には、選手、関係者、そして観客の健康と安全を最優先に考えなければなりません。ITFは、すべてのテニス関係者と協力して、あらゆるレベルの選手が、できるだけ早く安全にプレーを再開できるようになるために、責任あるアプローチをとっていくことをお約束します」(ITFデビッド・ハガティ会長)

 なお、男子ATPと女子WTAの世界ランキングは、3月9日の時点のまま凍結されることになった。

 今回のATPとWTAの決定は、すなわちヨーロッパでのクレーシーズン(赤土コートのシーズン)の消滅を意味する。クレーシーズンには、スペインのマドリード大会やイタリアでのローマ大会の男女大型大会も含まれていた。

 ATPは1972年に組織ができ、WTAは1973年に創設されたが、ツアーが始まってから、これほど長期にわたって中断されることは史上初めてのことだ。人の命に関わることだけに、ATP、WTA、ITFが下した迅速な処置は適切だったといえる。

 3月18日(日本時間)には、さらなる衝撃が走った。

 フランステニス連盟(FFT)が、テニス4大メジャーであるグランドスラムの第2戦・ローランギャロス(全仏テニス)(フランス・パリ、5/24~6/7)の日程を、9/20~10/4に延期することを突然発表したのだ。

「われわれは、前例のない状況下で、勇気ある決断を下すことは困難だった。責任ある行動をとっていきたい。皆さんの健康と安全を確保するために戦い、一緒に取り組んでいかなければならない」

 このようにFFTのベルナール・ジウディセリ会長は語った。2020年ローランギャロスでは、センターコートにあたるコート フィリップ・シャトリエに開閉式の屋根が付けられ、完成した新センターコートのお披露目になる予定だが、センターコートを含め会場内のリニューアルをしており、莫大な工事費がかかっているため、大会を開催することによってその経費を少しでも回収したいという思惑が見え隠れする。

 だが、このFFTの決定は独断によるもので、オーストラリアンオープン、ウィンブルドン、USオープンといった他のグランドスラム、ATP、WTA、ITFの反発を今後招くのは必至だ。

 例年9月の後半に、ツアーの中心はアジアシーズンに移行する。だが、ローランギャロスの突然の日程変更によって、日本で開催されるWTA広島大会(9/14~20)とWTA東京大会(9/21~27)と日程が重なってしまい、もろに影響を受けることになった。

 特に、東京大会は、東レ パン・パシフィックオープンテニスとして長年テニスファンに親しまれている。2019年には、有明コロシアムが東京オリンピックのための改良工事を行ったため、初めて大阪で開催されたが、大坂なおみが生まれ故郷で見事な初優勝を飾ったのだった。

 また、FFTが独断で、ローランギャロスをアジアシーズンに日程を重複させてくるところに、アジアを軽視しているようにも感じられる。

 USオープン決勝からわずか7日後に、ローランギャロスが開幕するという前代未聞のことになるわけだが、コートサーフェスがハードからクレー(赤土)へ変わり、ニューヨークからパリへの移動による時差も伴うため、選手たちの調整は至難の業となるだろう。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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