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マイアミオープンテニス3回戦敗退の大坂は世界1位陥落の可能性も。彼女がランキングに固執しない理由とは

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
世界1位の大坂なおみは、第1シードながらマイアミオープンで3回戦で敗れた(写真/神 仁司)
世界1位の大坂なおみは、第1シードながらマイアミオープンで3回戦で敗れた(写真/神 仁司)

 大坂なおみにとって、4回目のマイアミでの戦いはほろ苦いものになった。

 マイアミオープン3回戦で、第1シードの大坂(WTAランキング1位、3月18日付け、以下同)が、シェ・スーウェイ(74位、台湾)に6-4、6-7(4)、3-6、逆転負けを喫し、マイアミでの初の4回戦に進出することができなかった。

 これまで大坂は、シェから2勝を挙げているもののいずれもフルセットの勝利で、直近の対戦である2019年オーストラリアンオープン3回戦では、5-7、1-4まで追い詰められてからの薄氷の勝利だった。

 試合前に大坂は、「予測ができない」と曲者プレーヤーであるシェを最大限に警戒していたが、今回のマイアミでの対戦でも、両サイド両手打ちのシェは、カウンター気味にフラット系のボールを打ち、球威こそないが、際どいコースを徹底的についてきた。

 第1セット第2ゲームで先にサービスブレークを許した大坂だったが、第6ゲームから5ゲーム連取をしてセットを先取した。

 第2セットも第1ゲームを大坂がブレークに成功して、大坂が5-4、第10ゲームでサービングフォアザマッチを迎えた。大坂は30-30として、勝利まであと2ポイントまでこぎつけたが、ここからシェのしたたかな反撃が始まった。

「今日は自分が未熟だった。たぶん自分自身を過大に評価していた」と振り返った大坂は、ファーストサーブが入らないと、シェが先にラリーを展開して、大坂は左右に走らされてストロークのミスを強いられた。がまん強いプレーを求められた大坂だったが、フラストレーションは溜まる一方で、ラケットでシューズを叩いたり、ラケットをコートに置いたり、コートにいた虫を捕まえて逃がしてやったり、あらゆることをして気持ちを切り替えようとしたが、勝利をたぐり寄せることはできなかった。

 結局、ファイナルセットでは大坂のセカンドサーブでのポイント獲得率が25%まで落ちてしまった。

 マイアミ大会3回戦で第1シードが敗れたのは、1995年のアランチャ・サンチェスビカリオと2018年のシモナ・ハレプに続いて3回目だ。また、これまで大坂は、第1セットを奪うと63回連続で勝利を収めていたが、ついにその記録も途絶えた。

 1年前の大坂は、WTAインディアンウエルズ大会でツアー初優勝を成し遂げ、世界ランキングを22位に上げてマイアミ入りし、まさに急成長の過程にあった。

 今回は、2018年USオープンと2019年オーストラリアンオープンで連続優勝して、グランドスラムチャンピオンになり、そして、世界1位にも輝いて、彼女の立場は、1年前と比べられないほど激変した。

 さらに、ここ1年で数々の成功を共にしたツアーコーチであったアレクサンドラ・バインコーチとは、全豪優勝直後の2月上旬に関係を突然解消して周囲を驚かせた。

「成功より幸せを優先することはない」と語った大坂は、3月上旬のWTAインディアンウエルズ大会から、ジャーメイン・ジェンキンスコーチと新たなスタートを切った。ジェンキンスは、2015年7月から、グランドスラムで7回優勝したヴィーナス・ウィリアムズのヒッティングパートナーを務めていたことで知られていた。大坂は、ジェンキンスの印象について次のように語っている。

「(ジェンキンスとは)以前から話したことがあったわけではありません。でも、多くの人から彼の良い評判は聞いていました。(ツアー帯同中には)長い時間一人の人間と一緒に働くことになるわけですから、(彼の評判がいいことは)私にとってはいいことでした。私は、チームの人間とは長い時間を共にしたいのです。毎年人を変えたりはしたくないです。彼(ジェンキンス)については、ポジティブなことしかありません。そして、実際に彼に会ったら、本当に彼は素晴らしい人間だったんです。だから(決めました)」

 今回のマイアミは、大坂がジェンキンスコーチと戦う2大会目となったが、インディアンウエルズでは4回戦で負け、マイアミでは3回戦敗退となり、まだ大きな結果は残せないでいる。

「私にとって、コーチを変えた時にはいつでも、アジャストするために時間があるわけですが、それが楽しかったりもします。ここ(マイアミ)が、ジャーマインとは2大会目でした。実際、今日(3回戦)は、負けたという事実はありますが、結構いいプレーができていたと思います。たくさんいいラリーもありました。もちろんウィナーを取ろうとして、打ち急いだショットもありましたけどね。それでもネガティブなことはありません」

 マイアミ大会終了後に、大坂は、世界ナンバーワンから落ちる可能性がある。ペトラ・クビトバ(2位、チェコ)かシモナ・ハレプ(3位、ルーマニア)が、マイアミ大会で決勝に進出すれば、大坂を抜いて1位になる可能性がある。

 だが、もとより大坂は、世界1位には固執しておらず、「ランキングは目標にはならない」と日頃から話している。以前、大坂が、大会の予選に出場しなければならない時は、ランキングを気にしていたが、そのレベルをクリアした後は、あくまでランキングは結果の後についてくるものだと捉えている。現在の大坂は、ランキングよりいいテニスをすることをいつも心がけている。

「私たちには、お互い交換し合うべきたくさんアイデアがあります。たくさん話し合っていく必要がありますね」

 21歳の大坂は、世界の頂点に登り詰めたとはいえ、まだプロテニスプレーヤーとしては未完成だ。これからジェンキンスコーチと共に、大坂がどのような進化をして、完成した選手になっていくのか。そして、その過程の中で、どのような結果を残していくのか、楽しみはまだまだこれからだ。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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