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左ひざの手術を乗り越え、25歳の江口実沙が、USオープンテニスでグランドスラムデビュー!

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
USオープンでグランドスラムデビューを飾った江口(写真/神 仁司)
USオープンでグランドスラムデビューを飾った江口(写真/神 仁司)

 テニスの4大メジャーであるグランドスラムの今季最終戦・USオープンテニスで江口実沙(WTAランキング316位、8月28日付け、以下同)が初出場を果たすと同時に、グランドスラムデビューを果たした。

 女子シングルス1回戦で、江口は、クリスティナ・プリスコバ(41位、チェコ)に2-6、2-6で敗れてデビューを勝利で飾れなかった。

「やっぱり本戦の分、嬉しさは前回(の全仏予選)より全然あるんですけど。でも、物足りなさがすごく勝ります。自分が勝っていた時は、すごく走れていた。走る量もスピードも相当落ちていると思うので、もっと走れたのにという思いは試合中にあった」

 実は、昨年に江口は選手生命の危機に直面した。2016年9月に、WTA125K大連大会(中国)の決勝で、左ひざを負傷し、7-5、4-6、2-5の時点で途中棄権を余儀なくされた。奇しくもその時の決勝の対戦相手は、今回のUSオープンで対戦したクリスティナ・プリスコバだった。

 決勝後に、左ひざの前十字靭帯断裂と内側側副靭帯の断裂と診断され、テニスコートへ戻るには手術を要するけがだった。

 江口は、2014年の全日本テニス選手権のシングルスで初優勝し、2016年シーズンには、ワールド女子テニスWTAツアーで好結果を残し始め、同年8月にWTA南昌大会で自身初のベスト4に進出し自己最高ランキングを更新して好調を維持していた。だから世界のトップ100入り目前のけがだったためその分彼女の落胆も大きかった。

 2016年10月に手術を行い、その後はJISS(国立スポーツ科学センター)で約5カ月間におよぶリハビリを行った。

 結局、復帰を果たしたのは、2017年5月下旬のローランギャロス(全仏テニス)の予選で、今回のUSオープンは、復帰後5大会目だった。江口は、公傷によるスペシャルランキング109位を使用してエントリーし、予選から戦う予定だったが、ビクトリア・アザレンカ(202位、ベラルーシ)の欠場により繰り上がって本戦にラストインを果たしたのだった。

「(復帰まで)だいたい8カ月と聞いていた。夏前ぐらいに復帰して、USにプロテクト(公傷ランキング)で出れたらいいねとは話していた。車いす(の生活)で始まって、やっぱり全然先が全然見えなかった。リハビリして、予定より早く復帰することになったけど、復帰した時のフレンチ(全仏テニス)の時は、これで試合に出て大丈夫? という感じだった。少しずつそこから試合を重ねたけど、(今回の1回戦でも)まだちょっと間に合ってなかったですね(苦笑)」

 こう語った江口は、試合後の会見では少し複雑な表情を浮かべ、USオープンの本戦の舞台に初めて立った喜びよりも、いろんな感情が心の中で渦巻いていることを吐露した。それは、今のところ109位が、江口にとって自己最高ランキングであることと無関係ではなかったようだ。

「けがした時に、このランキング(109位)じゃなかったら、もしかしたら戻って来られなかった場所かもしれない。けがしていなかったら、あのまま普通に本戦に出ていたかもと思うところもあるし、あそこ(大連)であのランキング(109位)で止まったから、出られたのかもと思うところもある。難しいというか、複雑というか……。でも、けがする以前のランキングに上げることはすごい大変なことだと思う。けがする前にできなかった経験が今できていることはすごく大きいし、これから自分が前にいたところまで戻るためのモチベーションにはなるかなと思います」

 スペシャルランキングでUSオープンに初出場したことを、江口は自ら“ずるい”という表現を使ったが、そんなことは全くないように思う。彼女の謙虚さからこぼれた言葉なのかもしれないが、彼女にとって今回のニューヨークでの経験は自信にすべきもので、今後のキャリアへの大きな一歩にすべき試合となったのは間違いない。

 江口が100%のコンディションでテニスができるようになるには、まだまだ時間を要するだろう。だが、あせる必要はなく、25歳の彼女がツアーレベルまでに戻る時間は十分残されている。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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