【#BlackLivesMatter】英「ヴォーグ」の編集長に人種差別的発言 出版社は爆速処理
米ファッション雑誌「ヴォーグ」の英国版編集長で黒人市民のエドワード・エニンフルさんは、15日朝、勤務する雑誌社のオフィスに入ったところ、警備員にトラックが荷物の積み下ろしをする場所(「ローディング・ベイ」)に行くように言われた。エニンフルさんが配送スタッフであるという前提での発言だった。
エニンフルさんは「人種プロファイリング(人種による選別)をされた」とソーシャルメディアで報告した。黒人であるがゆえに、特定の職業(配送スタッフ)であると選別されてしまったのである。
エニンフルさんは2017年から現職に就いている。前年にはファッション業界での多様性に貢献したということで「大英帝国勲位(OBE)」を受けている人物だ。
インスタグラムのアカウントで、エニンフルさんはこう書いた。「人生で何を達成したかは、時として関係ないことを示す例だ。あなたを真っ先に判断するのが肌の色という人もいるのだ」。
ヴォーグを出版するコンデナスト社の反応は素早かった。即刻、この警備員を解雇したのである。
エニンフルさんは、6月、業界団体「プロフェッショナル出版社協会」が選ぶ2020年の消費者雑誌部門の最優秀編集長賞(「コンシューマー・エディター・オブ・ザ・イヤー」)に選ばれている。
この時、インスタグラムでこのように書いていた。
「18歳からこの業界で働いてきて、このような賞を頂けたことは大変に重要な意味を持っている」
「…これを可能にした業界の仲間やチームに感謝したい。しかし、メディアやファッション業界で働く多くの黒人市民同様に、このような形で業績を認められるのはほろ苦い瞬間でもある」
「この賞をもらう初めての黒人となったことを指摘しないと正直ではないだろう。(賞が始まってからの)40年間で初めて、である」
「・・多様性(ダイバーシティ)は仕事の依頼や誌面上で次第に現実化している。しかし、仕事の中ではどうか。どんな人を雇用しているのか。どんな人の面倒を見、どんな人を昇進させているのか。誰が上に行くことを許されているのか」
「次の黒人市民が最優秀編集長に選ばれるまで、また40年待つようであってはいけない。たくさんやるべきことがある」。
エニンフルさんとは
ガーナで生まれ、幼少時にロンドン移住。16歳でファッション界で働きだした。
まもなくして、ヴァイスメディア社が発行するファッション、音楽、アートなどを扱う雑誌「 i-D 」のファッション・ディレクターに就任。20年近く、この雑誌の編集にかかわった。
イタリア版ヴォーグ、米国版ヴォーグ、ファッション雑誌「W」で勤務後、2017年に英国版ヴォーグの編集長に。現在、48歳。
なぜスピード展開に?
警備員がすぐに解雇されたと聞いて、筆者はコンデナスト社の処理が非常に早いことに驚いたが、英国の人種差別禁止法、エニンフルさんの職場の地位、大手企業が人種差別的だと思われると大きく批判され、模範を示す必要があるなどの観点から、納得がいく結論でもあった。
また、警備員がほかの会社からの出向者であったことも関係していそうだ。「首を切りやすい」存在である。もちろん、不注意から「間違えただけ」なのに、辞めさせられた本人にしてみれば納得がいかない部分もありそうだ。
しかし、会社・組織が絡み、人種差別的行動あるいはその疑いが公にされるとき、あっという間にそのような行動をした人は「移動・異動」という流れはヴォーグだけではないようだ。
筆者の体験を紹介したい。
「何人?」と聞かれた後で
地元の郵便局に行った時のことである。有色人種の職員数人がカウンターにいた。郵便物を処理してくれた女性は何も言わなかったが、隣にいた暇そうな男性が「ねえねえ、何人?」と声をかけてきた。
答えないでいると、しつこく質問を繰り返し、いろいろと国名を挙げてくる。郵便物を出すために、個人的な質問に答える必要ないはずだ。そこでさらに黙っていたが、男性が面白おかしく質問をするので、隣にいた女性職員らも笑い出す。
私は最後まで何も言わずに、郵便局を出た。
そして、その郵便局に手紙を書いた。「単に郵便サービスを利用したいだけなのに、個人情報を話す必要があるのだろうか」、「このような扱いを公的サービスを提供する郵便局で受けたくない」と書いた。
まもなくして、謝罪の手紙が来た。職員には厳重注意したという。
数週間後、郵便局に戻ってみると、ガラリと人が変わっていた。
「どこの国か」を聞かれることぐらい、なんでもないとも思えるかもしれない。しかし、日常生活の中で「外国人」、「アジア系」ということで質問を受けたり、面白おかしく笑われたりすることは、本人にとってみれば、ハラスメントだ。
エニンフルさんは社会的にも高く評価される仕事をし、業界でも賞賛され、自分なりの人生を築いた思いがあるに違いない。
それを、「黒人」ということで「下」に扱われたのは大きなショックだったに違いない。肌の色、人種、背丈、年齢はどんなに頑張っても(頑張らなくても)変えられないものだ。
筆者は「Black Lives Matter ・ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も重要だ)」の原稿を立て続けに出しているが、それは英国(あるいは米国)の「黒人」が社会の中の「少数派」であり、「多数派(白人国民)」から差別的な扱いを受けるべきではないと思うからだ。それにはまず、どんな扱いを受けているかを知らなければならない。
そして、日本で女性として生まれ育った自分にとって、社会の「少数派」に日本社会の「女性」が重なって見えてしまうのである。