編集の刷新を促すのはソーシャルメディア -長期的視野の投資が世界の潮流に

WAN-IFRA主催の「国際ニュースルームサミット」(ウェブサイトより)

日本新聞協会が発行する「協会報」に掲載された、筆者の連載コラム「英国メディア動向」(昨年11月29日付号)に補足しました。

***

11月21日から23日の3日間、国際ニュースルームサミット(世界新聞・ニュース発行者協会=WAN-IFRA=主催)がロンドンで開催され、世界30カ国のメディア組織150社が参加した。

「編集室の変革」(1日目)、「ソーシャルメディアと携帯端末」(2日目)、「動画に飛び込む」(3日目)がそれぞれの日のテーマとなった。

デジタルでニュースを消費することが常態化した今、ニュース生成の現場は大きく変わっている。各メディアの取り組みを紹介したい。

計測が鍵を握る

チャートビートのウェブサイト
チャートビートのウェブサイト

デジタルニュースを提供するニュースメディアにとって、読者や広告収入を獲得するために重要となるのがサイトのパフォーマンスの計測だ。

欧米のニュースメディアを中心に、世界で6万サイト以上が導入しているのが米「チャートビート」社が提供する分析ツールだ。どの記事がいつどれだけ閲読されたか、どこから読者がやってきたかなどを計測する。

同社のジョン・サーロフCEOによると、サイトへの流入の75%がソーシャルメディアを通じて生じていた。このうちの70%がフェイスブックとグーグルの検索からだった。

2つのプラットフォームは異なる特色を持つ。例えば、突発的な事件の直後には利用者はグーグル検索で事実関係を知るための記事を探す。発生から12時間経つと、フェイスブックの出番だ。利用者は他者と共有したくなるような、感情移入できる記事を見つけて拡散するからだ。

こうした特徴をつかむことでどれが最適な配信先かが分かってくる、とサーロフ氏は述べる。

記者が自分で何を書くかを決める「メトロ」

スウェーデンの無料新聞「メトロ」
スウェーデンの無料新聞「メトロ」

スウェーデンの無料新聞メトロは、紙媒体中心からソーシャルメディア重視に転換した。

メトロは1990年代半ばに創刊され、その後欧州を中心に無料新聞創刊の波を起こした。しかし、2011年の100万部をピークに近年は30万部台に減少。紙媒体へのこだわりからサイトへの投資を控えていたが、2014年、ソーシャルメディア重視にかじを切った。

大きく変わったのは記者の役割だ。以前は編集デスクが記者に記事の執筆を依頼していたが、今は記者がツイッターのタイムライン、グーグル・トレンド、リアルタイムでどんな記事が読まれているかなどの情報をチェックした上で、自分で何を書くかを決める。朝の編集会議ではそれぞれの記者が何を書くかを報告し、編集幹部は調整役としてアドバイスするだけだ。記者は「ネット空間の分析家という役割を持つ」(メトロの元ソーシャル・メディア担当者ポンタス・テングビー氏)。

メトロは今年、スウェーデンでソーシャルメディアからの流入率が最も高いニュースサイトになったという。

ロボット・ジャーナリズム

日本でもその試みが始まっているが、英テレグラフ紙は8か月前から、「ロボット・ジャーナリズム」を試験的に導入している。企業の決算やスポーツ記事の作成に使ってみたところ、「まとまってはいるが、そっけなく面白みがない」(テレグラフ・メディア・グループのデジタル・メディア・ディレクター、マルコム・コールズ氏)ことが分かったという。それでも、今後もこの試みを続けるつもりだ。

簡単な記事はロボットに任せ、「記者は分析や調査報道などにじっくり取り組めるようにしたい」(同氏)。 

将来の読者に投資

米ウオールストリート・ジャーナル(WSJ)は、ミレニアル層を中心に人気のメッセージ・アプリ「スナップチャット」の「ディスカバー」チャンネルに参加している。毎日3本ほどの記事を選び、若者にアピールするような画像、イラストなどを付けて配信している。「将来、WSJを読むかもしれない読者に存在を知らせたい」(オーディエンス・ディベロプメント・エディターのサラ・マーシャル氏」。ただし「当分は収益らしい収益は出そうにない。将来への投資だと思っている」。

投資としてソーシャルメディアや動画サービスの提供に力を入れているのはウオールストリート・ジャーナルだけではない。ノルウェーの大手紙VGは動画サービスを「VGテレビ」として独立化し、アルゼンチンの最有力紙ナシオンも動画サービスに人材を割くが、両紙とも動画部門は黒字化していないという。

ユーチューバーのサイト

ユーチューバーが活躍する「Joomboos」
ユーチューバーが活躍する「Joomboos」

すでに黒字化しているのがクロアチアの複合メディア「24サタ」の動画部門だ。目玉は動画投稿サイト「ユーチューブ」に登場する人気の若者たち(「ユーチューバー」)が表に出る「Joomboos(ジャンブーズ)」と題するチャンネルだ。

ユーチューバーには出演料を払い、リポーターになってもらう。アイドル化したユーチューバーが使う商品が若者たちにアピールし、「広告収入も上々だ」(部門の統括者マーティ・ロンチャリック氏)。

イノベーションを重視

すべてのセッションを終えて、印象に残ったのが各メディアの試行錯誤の様子だ。

2日目のセッションで、英セントラル・ランカシャー大学のフランソワ・ネル教授がメディア経営陣を対象にしたメディアの現状と未来についてのアンケート結果を発表している。

これによると、過去1年で最も投資を行い、今後5年間も最も投資を行う予定がある分野として挙げられたのは、「ソーシャルメディアに対応するために編集作業を変えること」だった。また、経営の成功の否決を聞かれ、「イノベーション(新しい工夫)」と答えている。セッションに参加したメディア組織の姿と重なった。