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グーグル・ニュースと戦う欧州新聞界 (2) 欧州出版委員会が仏の基金案は「不十分」と判断

小林恭子ジャーナリスト

欧州14カ国の出版社が参加する「欧州出版社委員会」(EPC)は、13日声明文を発表し、フランスの出版社とグーグルが今月上旬合意した、6000万ユーロ(約75億6000万円)に上る「デジタル出版イノベーション基金」の設置を通してフランスの出版社を支援するという案は、「不十分」とする判断を示した。

「継続する、コンテンツの非認可の再利用と収益化の問題」の解決には満足ではない、という。

委員会のトップ、アンゲラ・ミルス・ウェイド氏は、声明文の中で、先の支援基金はオンラインの新聞に対して、「確固とした財政基盤を提供しない」、「ビジネスモデルを維持し、質の高いコンテンツに継続して投資するための、法的救済の仕組みを提供しない」と述べた。

委員会の参加国はオーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国の14カ国で、フランスは入っていない。

ドイツでは現在、著作権法を改正し、国内の新聞社によるネット記事がグーグルニュースで使われる際に、何らかの金銭上の支払いが行われるよう、審議が進んでいる。

EPCは、この改正案がドイツで成立後、グーグルばかりではなく、ほかのニュース・アグリゲーションサイトにも適用されることを願っている。

テッククランチの報道によれば、欧州各国の出版社の間で、使用料金を支払わずにニュースを再利用するグーグルへの不満が高まっている。EPCの会長ピント・バルセマオ氏は、出身国ポルトガルの出版社インプレサの代表という立場から、すべての欧州の出版社にグーグルが利用料を払うべきだと発言しているという。

ドイツ新聞協会は既に、フランスのような基金設置案には同意しないと述べている。

グーグルによると、「デジタル出版イノベーション基金」は「フランスの読者のために、デジタル出版の開始を支援する」もので、「グーグルの広告テクノロジーを使って、フランスの出版社がオンライン収入を増やす」ように、協力関係を深めるという。 

昨年12月には、グーグルによる記事利用をめぐり、ベルギー新聞界とグーグルが合意に達した。グーグルは記事を利用した際にベルギーの発行元や著者にお金の支払いはしないが、ベルギー側がそれまでの交渉に要した法律上の費用(500万ユーロ=約6億3000万円=といわれている)を負担し、発行元の媒体にグーグルが広告を出すことになった。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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