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第1子をご懐妊した英キャサリン妃とは、どんな女性?

小林恭子ジャーナリスト
キャサリン妃のご懐妊を伝えるBBCのウェブサイト

英国のエリザベス女王の孫にあたる、ウイリアム王子の妻キャサリン妃が第1子をご懐妊したことが、3日、判明した。つわり症状のためにロンドン市内のエドワード7世病院に同妃が入院したことで、憶測報道が流れる前に、英皇太子公邸が一歩先手を打って発表した格好となった。

英議会では新聞界の規制の是非をめぐって議論が交わされていたが、キャメロン首相が祝福のメッセージをツイッターで送信し、しばらくして、野党のミリバンド党首も同様のメッセージを発信した。

英国内は祝賀ムードに包まれているが、注目どころの1つは、これまで男子優先としてきた王位継承権問題だ。ご懐妊以前の王位継承順位は1位がチャールズ皇太子で、2位は長男のウィリアム王子、3位が次男のヘンリー王子だった。いまや、3位はキャサリン妃の第1子となるーもし男の子であれば、だ。

キャメロン首相は、男女平等、長子優先になるよう王位継承法を改正する手続きを進めており、昨年秋、既に英連邦からこの方針について合意を受けた。このため、法改正は実現していないものの、キャサリン妃の第1子が女性であっても継承順位は3位となる見込みだ。

また、英国の君主は英国教会(プロテスタント系)のトップとなるが、現行法では、国教会の信者のみが王位継承権を持つ、つまりカトリック教徒は王になれない。同様に、その配偶者も国教会信徒でなければならない。この点も、改正される見込みだ。

昨年4月末、結婚式を挙げたウィリアム王子とキャサリン妃(ケンブリッジ公爵と夫人)。現在、ともに30歳。スコットランドのセント・アンドルーズ大学の学友同士だ。

同妃の笑顔が英国の新聞や雑誌に出ない日はないと言ってよいほど、人気が高い。

キャサリン妃は、ウイリアム王子の母親故・ダイアナ妃とも、王子の祖母にあたるエリザベス女王とも、やや違う女性のように見える。一体、どこが違うのだろう?

―ダイアナ元妃との違いとは?

キャサリン妃は、ウィリアム王子の母、ダイアナ元妃(1997年パリで事故死)とよく比較される。

容姿端麗であることに加え、国民の大きな注目を集めるファッション・アイコンである点など、共通する部分が多い。

1980年代以降、上流階級の、若くスタイリッシュな男女を「スローン・レンジャー族」と呼んだ。富裕層が住むロンドンの高級住宅街チェルシーとベルグラヴィアの境界付近にある公園「スローン・スクエア」と、ラジオ及びテレビの西部劇「ローン・レンジャー」の名前を組み合わせた。

「公式スローン・レンジャー・ハンドブック」という本が出版され、この表現が広く認知された。

その代表格はダイアナ元妃だ。リッチで保守的なファッションを現代的に引き継いだのが、キャサリン妃といわれている。

1981年、チャールズ皇太子と結婚したダイアナ元妃は婚約時代から執拗にメディアに追われたが、この点もキャサリン妃の場合と似ている。

一方で、2人の間には大きな違いもある。元妃が伯爵家の出身であるのに対し、キャサリン妃は平民出身だ。 

英王位継承権を保持する人物が一般家庭出身の女性を妃にめとったのは、300余年で初めて。1660年にジェームス2世が、庶子から大法官にまで出世したエドワード・ハイドの娘アンと結婚して以来だ。

ダイアナ元妃は20歳で結婚したが、キャサリン妃の場合は29歳である。また英国史上で初の大学教育を受けた王妃となったキャサリン妃は王子ともにスコットランドの名門セント・アンドルーズ大学で学んだが、勉強嫌いのダイアナ元妃は大学に進学していない。

―ウィリアム王子の理解が助けに

キャサリン妃の結婚後の人生は、ダイアナ元妃のそれとは正反対の方向に進んでいるようだ。

ダイアナ元妃は、チャールズ皇太子に愛人がいたことが発覚して夫婦関係にひびが入った。また王室の流儀に溶け込めないまま、拒食症になり、自傷行為を繰り返したという。

一方のキャサリン妃は、結婚以前にウィリアム王子とパートナーとしての関係を結んでいた。8年近く交際を続け、ほかの友人たちとの共同生活も経験した。王室の一員ともなれば、常時監視状態に置かれることをキャサリン妃は身をもって学んでいた。

さらに、母が王室入りした際に大きな苦難を経験したことを理解するウィリアム王子は、メディアとの付き合い方にも気を使っている。盛大な結婚式は世界中のメディアが取材したが、その直後のハネムーンは行き先も含め、一切公表せず、2人はプライベートな旅行を楽しんだ。

―キャサリン妃の王室活動

結婚後は北米訪問など夫婦仲良く公務を続け、キャサリン妃は次第にファンを増やした。今では、着ているドレスやアクセサリーがあっという間に売切れてしまうほどだ。昨年夏のイングランド地方で発生した暴動では、英中部バーミンガムで攻撃にあった商店街を訪ね地元の人の話に耳を傾けた。

今年1月になって、キャサリン妃は自分がパトロンとなる4つの慈善団体の名前を明らかにした。

パトロンとして

アクション・オン・アディクション(アルコールや麻薬など依存症に苦しむ人や家族への支援、教育、研究

イースト・アングリア児童病院(EACH)(ケンブリッジシャー、エセックス、ノーフォーク、サフォーク州に住む、難病にわずらう児童やその家族への支援)

ナショナル・ポートレート・ギャラリー(世界で最も広範なコレクションを誇る、肖像画専門の美術館)

ジ・アート・ルーム(芸術を通して、児童の自信を醸成、深める)

ボランティアとして

スカウト協会(野外教育を通した青少年人材育成活動。英国内では約40万人の青少年が参加

どれも、「自分でじっくり考えて、本当に力を注げる団体を選ぶ」という方針の下で決定されたという。

同時に、幼少時にガールスカウトのメンバーであったことを生かし、英スカウト協会のボランティアになると発表した。子供たちにテントの設置の仕方や野外で火を起こすやり方を教えるなど、実際のボランティア活動に従事する予定だ。

英空軍に勤務する王子が2月、英領フォークランドの空軍基地に派遣されると、今度は1人で公務を次々とこなした。3月末には、児童の医療施設を訪問し、初めて公の場でのスピーチに挑戦。手元が震えながらも、3分間のスピーチを無事終了し、大きな拍手を得た。

このように一歩一歩、「嫁ぎ先」となった王室の慣習を学び、パートナーと力を合わせて、新しい環境を生きているように見えるキャサリン妃。国民の気持ちを汲み取り、共感し、支援する、そしてファッションとともにスポーツを楽しみ、健康的に生活するー。こうした前向きなメッセージを、キャサリン妃は私たち一般人に発信している。

今年9月には休暇で滞在していたフランスのお城のバルコニーで、トップレスで日光浴をしていたところを望遠レンズを持ったパパラッチに撮影され、この写真がフランスの雑誌「クローサー」に出るというプライバシー侵害事件も体験した。散々な目にあったが、それでも、公の場では笑顔を絶やさず、王子のサポートもあって乗り切った。

さて、聡明なキャサリン妃の娘、あるいは息子は、どんな大人になってゆくだろう?

(筆者のブログ「英国メディアウオッチ」、「英国ニュースダイジェスト」掲載の筆者記事に補足しました。)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊は中公新書ラクレ「英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱」。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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