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毎日、発生している小さな「大船渡高、佐々木投手起用問題」にどう対応するか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 高校野球の岩手県大会決勝戦は、花巻東が大船渡を12−2で下し、甲子園出場を決めた。注目の大船渡高のエース、佐々木朗希投手は、國保監督の決断で、決勝のマウンドに上がることなく、大会を終えた。

 報道によると、佐々木投手を登板させずに敗退した大船渡高には、彼を起用しなかったことを批判する電話が殺到したという。 

 大船渡高に批判の電話が殺到したという話に、心ない一部ファンが、モンスターペアレンツ化したようなイメージが私には浮かんだ。

 

 「甲子園出場のかかった地方大会の決勝」と「プロ、ファン大注目の佐々木投手」というファクターを取り除けば、中学や高校スポーツ、子どものスポーツのいたるところで、監督(コーチ)たちは似たような問題に直面している。選手起用について第三者(そのほとんどが保護者)から批判をされたり、文句を言われたりしているという問題だ。

 高校や中学の運動部、スポーツ活動での選手起用で、保護者から全く文句を言われたことのない人は少数派だろう。私の住む米国では、日本よりもはっきり自己主張する人が多く、学校運動部や子どものスポーツの場で、選手起用の不満を監督やコーチにぶつけている保護者が少なくない。

 試合のたびに保護者の不満に耳を傾けていれば、指導者側は疲れ果てる。選手起用に関して全ての人の要望を聞き入れることはできない。だから、米国の学校では、年度はじめに保護者にハンドブックなどを配布し、監督(コーチ)にお願いしてよいこと、お願いできないことを明示している。

 学校ごとに内容は異なるが、一例は次のようなものである。

 選手の起用、試合の戦術については、保護者は監督(コーチ)に意見をすることはできない。しかし、我が子が試合でもっと出場時間を得るためには、どのようなところを向上させれば良いのかについて、コーチにアドバイスをもらうことはできる。

 (ここで具体的な助言ができない監督、コーチや、アドバイスした通りに上達してきても出場時間を与えない監督、コーチは、控えの子どもやその保護者から信頼を得にくい)

 このほかに「24時間ルール」を設けている学校運動部やスポーツチームもある。試合中や試合が終わった後は、監督(コーチ)も保護者も興奮状態にある。

 試合終了直後に「今の試合、うちの子どもは使ってもらえなかったのですが、何が足りないのでしょうか」と持ちかけても、有益な話し合いになりにくい。だから、試合終了から24時間たって、落ち着いてから、話をしましょうというルールである。

 もちろん、安全に関することはこの限りではない。もしも、子どもに脳震盪の症状が見られるのに、監督(コーチ)がそのまま試合に出場させ続けるようなことがあれば、保護者は監督(コーチ)に、子どもを試合からすぐに退場させるように求めなければいけない。

 どこまでが安全かどうか、どんな時に監督(コーチ)に安全の確保を強く求めるべきかは、保護者にとっては難しい。こういうときに頼りになるのが、脳震盪や熱中症の安全ガイドラインだ。これらのガイドラインは保護者に配布されているか、学校運動部のホームページにアップされているから、これを使って、「先生(コーチ)、ガイドラインから逸脱しているのではないでしょうか」と話を持っていくことができる。

 投手の身体を守るために、投球数制限と登板間隔の規則の導入も検討されるべき時期にきているが、今回の騒動を見ていると、投球数制限や登板間隔規則があれば、モンスターペアレンツ化する一部の心ない人から、監督や選手たちのメンタル面も守ることができるのではないか、と思ったほどだった。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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