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大谷翔平はメジャーリーグの二刀流のドアを開けたのか。大谷の登場ともうひとつの要因(2)

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨シーズン、ダイヤモンドバックスにダニエル・デスカルソ(現カブス)という選手がいた。

 デスカルソは2010年にカージナルスでメジャー昇格し、ロッキーズ、ダイヤモンドバックスでプレー。内外野の守備をこなしながら、14年に1試合、17年に2試合、18年に2試合、敗戦処理投手としてマウンドに上がっている。

 昨年6月にデスカルソと少し話をする機会があった。その時「僕は二刀流選手ではないよ。だって、僕がフリーエージェントになった時、投げられることで僕の価値は上がらないから」と笑っていた。起用したロブロ監督も「大谷のやっていることとは違う」と話していた。

 デスカルソはダイヤモンドバックスからFAになり、昨年12月18日にカブスと契約。

 カブスには複数のポジションをこなせる選手が多い。しかも、昨年7月20日のカージナルス戦で中盤までに大量リードされると、ラステーラ、カラティーニ、ハップという3人の野手を登板させた。さらにカブスは7月23日のダイヤモンドバックス戦は1−7の八回2死から、カラティーニに1イニング、主軸のリゾにも1/3回を投げさせている。

 デスカルソは「投げられることに価値はない」と話していたが、もしかしたらカブスは、デスカルソが敗戦処理投手もできることを0.1パーセントでも考慮したのかもしれない。

 CBSのJonah Keri記者によると、2018年シーズンは、「投手」ではないが登板した選手が48人いたという。この48人に大谷翔平は含まれていない。この人数は、少なくとも1970年以降では最多。昨年7月のCBSスポーツの調査によると、2014年には野手でありながら登板した選手は10人あまりだったが、2015年には20人を超え、16年には25人以上、17年には30人以上になった。15年から18年まで急カーブを描きながら増加している。2014年から17年にタイガースの内野のユーティリティーだったアンドリュー・ロマイン(現フィリーズ)は、いつでも登板できるように投手用のスパイクを用意していた。当時のオースマス監督(現エンゼルス監督)が提案したのだ。

 野手が敗戦処理投手としてマウンドに上がることは、その試合の勝利のためではない。中継ぎ投手陣を温存し、次の試合での勝利確率を上げるためだ。ピッチャーではない選手の登板は負け試合のエンターティメントとして観客を喜ばせる。一方で、勝つことに全力を尽くしていないとも受け取れるので、野手が頻繁にマウンドに上がるようになったことを問題視する意見もある。

 しかし、野手でありながら、投手としても準備をしていて、一定のピッチングができる選手ならば、試合をあきらめたことにはならない。こういった選手がいることでチームは編成と作戦の選択肢が増える。選手は自らの価値を高めることができる。それが前日、パート1の記事で取り上げた選手たちだ。今季、二刀流に挑戦する意向のタイガースのケイレブ・コワート、レンジャーズとマイナー契約したマット・デービッドソン、アストロズからメッツに移籍したJD・デービスらの目指すところだろう。彼らはすでに複数ポジションをこなす野手であり、さらに投手にも挑戦しようとしている。

 大谷翔平がメジャーデビューする前、二刀流選手はほとんどメジャーにいなかった。数少ない選手の一人が2003年と04年にブルワーズで二刀流をしていたブルックス・キーシュニックだ。

 キーシュニックは1996年にカブスから打者としてメジャーデビューしたが、定位置を勝ち取ることができなかった。マイナーに降格。再びメジャー昇格を目指すために、大学時代に投手であったことを活かそうと考えて、マイナーの首脳陣に二刀流を直訴。生き残りをかけた挑戦はマイナーではそれなりに結果が出て、ブルワーズとの契約にこぎつけた。ブルワーズでは主に指名打者や代打として打席に立ちながら、中継ぎ投手として登板。03年は打者として69試合に出場し、打率2割7分、1本塁打、7打点。投手としては42試合に登板し、防御率5.26だった。

 今までメジャーに二刀流がいなかったのは、どちらかに専念しなければ、メジャーに昇格できない、定着できないという考えがあったからだ。

 しかし、メジャーで生き残るために敗戦処理以上のピッチングと内外野をこなすユーティリティーを武器にしようという考えの選手が出てきた。投球数と休養の管理が強化され、データに基づくマッチアップなどの戦術が取り入れられるようになったこととが背景にある。そして、ケガで中断したとはいえ、大谷が「メジャーでの二刀流不可能説」を覆したことも大きかった。

 けれども大谷のやっている二刀流は多くの選手と球団にとっては難易度が高い。大谷が二刀流のドアを開けたことが呼び水となって、メジャーで生き残りをかける選手たちは、16年前のキーシュニックの成功を思い出したのかもしれない。

   

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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