稀勢の里、白鵬VS雷電まで。大相撲250年のデータを分析した米国統計家に聞く。

(写真:つのだよしお/アフロ)

大相撲の横綱稀勢の里が、春場所13日目の日馬富士戦で初黒星を喫した際に左肩から胸部にかけて痛めたという。初日から12連勝中だった稀勢の里が、14日目の出場については様子を見ている状況だそうだ。

今年1月、稀勢の里は横綱昇進を果たした。

横綱昇進には「二場所連続優勝、もしくはそれに準ずる成績」という基準がある。稀勢の里は二場所連続優勝していなかった。そのため、「それに準ずる成績だったか」という疑問や、「横綱昇進の基準が甘いのではないか」という意見が出た。19年ぶりの日本出身の横綱を誕生させようとムードが、基準を緩めたのではないかという見方もあったようだ。

その頃、大統領選の予測などで定評のある、米統計サイト、ファイブ・サーティ・エイトのベンジャミン・モリスさんは淡々と、大相撲の歴史的データから、稀勢の里昇進の妥当性を分析していた。(モリスさんの稀勢の里の分析については、ここをクリックしてください)

1909年から2017年初場所まで、少なくとも1回以上、準優勝か優勝をしている力士をデータから掘り起こした。そして、準優勝回数を縦軸に、優勝回数を横軸にしたグラフを作成。散布図で力士の成績を表した。

グラフの右端にポツンと1人だけ力士がいる。優勝、準優勝回数ともに他の力士を大きく引き離していることを示している。白鵬だ。

モリスさんはグラフから次のようなことを読み取った。稀勢の里は1回しか優勝をしていない力士のなかで、最も準優勝の回数が多い。そして、こういった状況は、稀勢の里が、生きるレジェンドである白鵬とほぼ同じ年齢であることから起こっているのだろう、と。

モリスさんは、昨年5月にも相撲の250年以上の取組や、全力士の身長・体重データの分析結果を発表していた。相撲の変遷をあざやかに浮かび上がらせるものだ。(ここをクリックして、モリスさんの分析を見てください)

メールでモリスさんに相撲の分析を始めたきっかけについてたずねた。

統計分析の専門家でもあるモリスさんにとって、相撲が魅力的だったのは、長い歴史があり、過去からのデータが残っていることだった。「相撲は、他のスポーツでは考えられない歴史があります。歴史から比較することにしました。それは私のやりたいアングルでもあったのです」と言う。

最初に、大相撲に関心をもったきっかけは、ハワイ出身力士の活躍だ。「私は若いときにハワイに住んでいました。武蔵丸、小錦、曙たちがとても人気があったときで、そんなことから相撲を追いかけるようになりました。でも、しばらく、相撲追いかけることをやめていたのです」。

再び、相撲に関心を持ち始めたのは、モンゴル出身力士の活躍を知ったから。同時に相撲を分析の対象にしたいと考えるようにもなっていた。「そのとき、すでに統計サイトのファイブ・サーティ・エイトでの仕事を始めていましたので」と振り返る。

統計サイトのファイブ・サーティ・エイトは、大統領選や政策について予測するだけでなく、スポーツの予測や分析も盛んに行っている。同サイトでは、チェスの実力測定値算出法であるEloレーティングシステムを使い、メジャーリーグ、米プロフットボールNFL、米プロバスケットボールNBAなどの勝敗予想をしているのが特徴だ。

これを相撲にも応用した。データは、相撲リファレンスというデータサイトから提供してもらった。

モリスさんがどのような分析をしているかを以下に簡単にまとめる。が、一番良いのは、モリスさんの分析を直接、見ていただくことだと思う。分析したデータはグラフ化してあり、視覚にも訴えている

力士の身長と体重は、どの程度、白星と関連しているのだろうか。(身長と、肥満度を示すBMI指数を使っている)

これによると、1900年以前は、身長とBMI指数は力士の勝敗にあまり影響していない。1900年から2000年までは、身長が高く、体重が重い力士のほうが有利だったといえる。しかし、2000年ごろからは、BMI指数が高いことよりも、身長が高いことのほうが白星と関連している。

これは、モンゴル出身力士の台頭とも関係しているようだ。モリスさんの分析によると、モンゴル出身の力士たちは、日本出身の力士たちよりも身長が高く、BMI値が低いことが分かる。

ちなみに米国出身の力士たちは身長が高く、BMI値はその他の力士に比べてとても高いことも示されている。

白鵬と、江戸時代の伝説の力士である雷電との比較も、全力士の身長・体重のデータの分析などから、試みている。それぞれの時代において雷電と白鵬は、他の力士をどのように圧倒していたのか。

身長197センチメートル、体重173キログラムの雷電は、他の力士よりも身長、体重ともに平均よりも大きく上回っていた。雷電は、体格差を利用した取組で他を圧倒していたのではないか。一方、白鵬は192センチ、152キロ。白鵬と雷電の身長・体重差はそれほど大きなものではないが、白鵬は同時代の力士に並外れて体が大きいわけではない。白鵬はずば抜けて体が大きくないことをうまく使い、強さ、スピード、技術によって同時代の他の力士を圧倒していると、モリスさんは考えている。

記事の末尾には、通算勝利数を縦軸に、通算の取組数を横軸にしたグラフで、各力士たちの特徴を表している。これを見ると雷電の勝率が高いことや、大鵬と白鵬のキャリアが途中までとても似ていることなどが分かる。

マニアックとも言える大相撲分析。モリスさんは、世に出てくるまでには時間がかかったことも打ち明けてくれた。「編集委員からの理解を得て、このストーリーを終わらせるまでに、さらに1年かかりました。しかし、結局は受け入れられたのです。(ESPNにもしばらくの間、掲載されていました)」。

モリスさんの大相撲大分析を、私は多いに楽しませてもらった。英語圏の人たちもきっと魅了されたと思う。