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驚異! 世界の「組体操」。その安全対策とは。

谷口輝世子スポーツライター
スペイン・カタルーニャ州の人間の塔(写真:ロイター/アフロ)

日本では巨大化する運動会の組体操の安全性が疑問視されている。

今年、大阪府八尾市の中学校ではピラミッドを組んでいた生徒が骨折をするなどの事故が起きた。

以前に筆者が海外在住の複数の日本人ジャーナリストに尋ねたところ、学校の運動会として組体操は行われていないとの回答だった。運動会の組体操と米国のチアリーディングを比較して

しかし、伝統的な祭りとして組体操のタワーに相当する人間の塔を作り上げている地域がある。スペインのカタルーニャ州やインドのムンバイだ。

スペインのカタルーニャ州の人間の塔は、城を表す「カステイ」と呼ばれており、ユネスコの無形文化遺産登録されている。Human towers

ユネスコのホームページでも多くの人がポジティブなものとして捉えていると紹介されている。インドのムンバイではクリシュナ降誕祭の行事で人間の塔が作られ、高さなどを競い優勝チームには賞金が与えられるという。また、インドのチェンナイ公立校の年に1度のスポーツデーでは、生徒たちの人間ピラミッドの演技がユーチューブなどで公開されている。

スペインのカタルーニャ州やインドのムンバイで作られている人間の塔の安全対策はどのようになっているのか。これらは希望者や志願者が参加している。個別の意思や能力にかかわらず全児童・全生徒の参加が前提となっている日本の運動会の組体操とはその点が大きく異なる。(インドのチェンナイ公立校の演技は全員参加か希望者のみかは分からない)

スペイン、インドともに人間の塔の高さは人間が5段、6段、さらにそれ以上に積みあがっていくもの。スペインカタルーニャ州のカステイは、下段は成人男性が土台役になっており、最上段は体重の軽い小学校入学前の年恰好の子供が務めている。現地に住む人によると、幼稚園児の年齢の子供たちだそうだ。

スペインのカタルーニャ州の人間の塔では、塔のまわりには大勢の人が取り囲んでおり、最上段の子供はヘルメットを着用している。ユネスコの映像を見る限りでは、土台が崩れた場合は、周囲の人も巻き添えになるリスクもあるだろうが、最上段の子供が落下した場合には受け止めることができるのではないか。

一方でインドのムンバイの人間の塔は今年から大幅に安全対策が変わったようだ。エコノミスト誌9月7日付電子版では次のように伝えている。Safer human-pyramid schemes in Mumbai

ムンバイのあるマハーラーシュトラ州では人間の塔をスポーツとみなして安全基準を定め、12歳以下の参加禁止、12歳から18歳までは保護者の同意を必要とする。参加者は保険に加入することや高さによっては命綱のような安全ベルト着用を義務付けた。伝統行事に規則が入ってきたことに混乱する人たちの様子もあわせて取り上げられている。

ムンバイの人間の塔は、スペインのカタルーニャ州の人間の塔と安全対策の点でどのような違いがあるのか比較を試みた記事もある。2005年からムンバイは、スペインの人間の塔チームを招待していて交流があった。ムンバイの人間の塔のリーダーは「スペインではあまり落下事故はないという。我々は1か月の練習であれだけのものを作ることができ、それはすばらしことだけれども、スペインでは年間通じて練習をしている」と分析。上段の幼い子供たちも年間通じて練習し、まず、肩車などから始めていることが報道されている。それに加え、カタルーニャ州の人間の塔は、ベースを慎重に時間をかけて作るという。ベースが安定していないと感じた場合は、上に積み上げていくことを中断し、ベースから作り直すという。

もうひとつの大きな違いはムンバイでは州政府側が「スポーツ」と見なすと宣言したが、カタルーニャ州では「スポーツ宣言」はされていないことだろう。伝統行事ではなく、スポーツとみなされた場合には、他のスポーツ種目に準じた安全基準が必要になってくる。

これは人間の塔と似た隊形を作る米国のチアリーディングでも同様で、米小児科学会が「チアリーディングもスポーツと見なされなければならない」と提案し、他のスポーツ種目と同様の安全対策をすすめている。インドのチェンナイの高校の人間ピラミッドは何らかの安全基準があるのかどうか、筆者は知らない。ただし、ユーチューブの動画を見る限りは、ひとつの演技に参加する人数が、日本の巨大ピラミッドより少なく、高さは人間の背の高さ2-3人分で、地面にはマットのようなものを敷いている。Pyramid Formations - National Public School Chennai Sports Meet 2014

複数の人間の身体によってひとつの塔やピラミッドを作り上げていく喜びや、その経過と達成の瞬間を見る喜びは、日本の運動会だけではなく、スペイン、インド、米国のチアリーディングでも共有されている。

それぞれの安全対策は様々で、練習量を確保すること、土台作りを慎重に行うことや、年齢制限や命綱着用もあれば、高さ制限をするなどの工夫をしている。

他の国でも長年親しまれてきた人間の塔やピラミッドと似た要素を持つ組体操を全否定してはもったいないと筆者は思う。ただし、学校の運動会で全員が参加する組体操は「祭事」ではなく「授業の一環」だ。仮に落下したり、ベースが崩れたりしても、大きなケガにつながらないようにするには、どのようにしたらいいのか。練習時間も限られている。高さや人数を目標にするよりも、複数の人間の身体でひとつの形をつくることの感覚 ーそれは他の国の人も楽しんでいるー にフォーカスしたほうがいいのではないか。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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