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ピケティ教授が指摘する資産格差も重要だが、日本では世代間格差の方が深刻

小黒一正法政大学経済学部教授
政府債務(対GDP)の推移

ピケティ教授の『21世紀の資本』が話題であり、1月31日に東大で講義を行い、以下のような記事が流れた。

「格差は民主主義の脅威」 ピケティ教授、東大生に語る日経新聞2015年2月1日

『21世紀の資本』の著者であるパリ経済学校のトマ・ピケティ教授が1月31日、東大で講義し、「不平等、格差の拡大は民主主義を脅威にさらす」と格差問題に警鐘を鳴らした。(略)

経済学者のクズネッツは20世紀半ばのデータを見て、経済が発展すれば格差は縮まると考えた。だが、我々がさらに長期間のデータを集めて調べると、それは単に大恐慌と2度の世界大戦の結果だった。足元で格差は再び拡大している。楽観できる状況ではない。(略)

資産保有者トップ10%が国の資産をどれだけ持っているかを計算すると、現在でも欧米では60~70%に達する。1世紀前に比べれば小さいが、それでも不平等は大きい。20世紀は世界大戦や累進課税の影響で資産の不平等は大きな問題には見えなかった。

だが、足元で所得の格差は拡大している。私は今後、相続資産がものをいう不平等な社会が復活していくと思う。特に欧州や日本で人口が減り成長が鈍化している。低成長下では、今まで蓄積した富がものをいう社会になるのだ。(以下、略)

上記の太線部の意味では、ピケティ教授が指摘する所得格差や資産格差も重要だが、公的債務(対GDP)が膨張を続ける日本では世代間格差の問題の方が深刻である。

総合研究開発機構(NIRA)の島澤諭主任研究員らとの共著論文によると、世代会計から試算される日本の世代間不均衡(=将来世代の生涯純負担額÷0歳世代の生涯純負担額)は183%にも達する。

他方、以下の通り、アメリカの世代間不均衡=51.1%、イタリア=131.8%、ドイツ=92.0%、フランス=47.1%、スウェーデン=▲22.2%、ノルウェー=63.2%等に過ぎない(出所:Auerbach, Kotlikoff and Leibfritz, 1999)。

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このような突出した日本の世代間格差は現行の民主主義を脅威にさらすものといっても過言ではない。

世代間格差の要因の一つには財政赤字があるが、最近復刊となったブキャナンとワグナーの名著『赤字の民主主義 ケインズが遺したもの』(日経BP社)では、「現実の民主主義社会では、政治家は選挙があるため、減税はできても増税は困難であり、民主主義の下で財政を均衡させ、政府の肥大化を防ぐには、憲法で財政均衡を義務付けるしかない」旨の指摘がある。

憲法で財政均衡を義務付けるのは直ぐに不可能だが、拙著『財政危機の深層』(NHK出版)でも提言しているように、世代間格差の是正を図る最初の試みとして、まずは政治的に中立的で学術的に信頼性の高い公的機関が「世代会計」や「財政の長期推計」を公表する枠組みを早急に整備する必要があるのではないか。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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