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尾上松也 & 百田夏菜子(ももクロ)の映画『すくってごらん』、原作は「世界初の金魚すくいマンガ」!

加山竜司漫画ジャーナリスト
映画『すくってごらん』公式サイトより

この春の話題作

3月12日公開の映画『すくってごらん』(真壁幸紀監督)は、尾上松也の映画初主演作にして、百田夏菜子(ももいろクローバーZ)にとっても映画初ヒロインを務めることになった作品である。原作は講談社「BE・LOVE」に掲載された同名マンガ。公開前から注目を集めている、この春の話題作だ。

尾上松也の演じる主人公・香芝誠は、大手メガバンクの元エリート銀行マン。左遷先の城下町で、百田夏菜子演じる生駒吉乃と金魚すくいに出会い、仕事に恋に奮闘していく。金魚すくいを題材とした、“世界初の金魚すくいマンガ”である。

掲載誌「BE・LOVE」で連載時に「このマンガがすごい!2015」(宝島社)オンナ編14位にランクインしたように、マンガファンのあいだでは確かな評価を得ていた作品だ。

和物テイスト路線の流れを汲む娯楽作

「BE・LOVE」からは『ちはやふる』(末次由紀)、同編集部の隔月誌「ITAN」(2018年休刊)からは『昭和元禄落語心中』(雲田はる子)が出ており、本作はその“和物テイスト路線”ともいうべき流れの延長上にある。

伝統文化は日本の風俗や慣習に根づきすぎて、かえってその魅力に気づく機会が少ない。そうした“身近な不思議”にいざなってくれる楽しさが、本作『すくってごらん』にも備わっている。主人公が新しい文化を“発見”する喜びが、ページをめくる読者の新鮮な驚きと同期していく過程に胸が躍る。それにしても、何でもマンガの題材になるのだと、あらためてマンガというメディアの懐の広さを再認識させられるところだ。

金魚すくいというと、祭りの夜店をイメージする人も多いだろうが、本作では競技としての金魚すくいも取り扱われる。作品の舞台となる奈良県大和郡山市では、毎年「全国金魚すくい選手権大会」が開催され、すでに20年以上の歴史を持つ。金魚すくいは、競技性の高いゲームなのである。金魚すくいビギナーの主人公がトライ&エラーを繰り返して達成感を得るという、スポーツマンガ的なエッセンスも楽しめる。

とはいえ、作品の主軸となる要素は、あくまで主人公を取り巻く登場人物たちの人間模様にある。「BE・LOVE」は日本雑誌協会の区分では「女性向けコミック誌」に分類されるが、本作は男性主人公がヒロインと出会って恋に落ちる「ボーイ・ミーツ・ガール」の類型を踏襲する恋愛ストーリー。「女性向け」と対象読者を限定しているわけではなく、誰もが安心して楽しめる大衆娯楽作といえるだろう。

映画本編はミュージカル仕立てになっており、歌やダンスの要素が組み込まれているのも特長。尾上松也が英語詞ラップに挑戦したり、百田夏菜子がピアノ演奏を披露したりと、音楽と映像表現による味付けが随所に施され、実写映画ならではのエンターテインメント性を追求している。

マンガとは違った表現手段をふんだんに盛り込んでいるところも、注目のポイントだ。

漫画ジャーナリスト

1976年生まれ。フリーライターとして、漫画をはじめとするエンターテインメント系の記事を多数執筆。「このマンガがすごい!」(宝島社)のオトコ編など、漫画家へのインタビューを数多く担当。『「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと』(文藝春秋)執筆・編集。後藤邑子著『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。』(文藝春秋)構成。 シナリオライターとして『RANBU 三国志乱舞』(スクウェア・エニックス)ゲームシナリオおよび登場武将の設定担当。

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