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「このマンガがすごい!2021」オトコ編1位『チェンソーマン』、最終巻発売!

加山竜司漫画ジャーナリスト
テレビアニメ『チェンソーマン』公式サイトより

悪魔が血しぶきをあげるダークファンタジー

3月4日、『チェンソーマン』(藤本タツキ)の最終11巻が刊行された。本作は「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2018年から昨年12月まで連載され、連載終了を迎えると同時にテレビアニメ化(制作はMAPPA)が発表された話題作。

集英社のマンガ配信サイト/アプリ「少年ジャンプ+」で第2部の連載がすでに予定されている。

本作の主人公デンジは、亡き父の借金を返済するために、相棒の悪魔・ポチタとともに悪魔を狩る「デビルハンター」となる。組織に裏切られたデンジは、ポチタをその身に宿す「チェンソーの悪魔」に変身する力を手に入れ、ミステリアスな女・マキマに拾われて、公安のデビルハンターとなるのであった。

悪魔や魔人が血しぶきをあげ、内臓を飛び散らせながら戦うという、アンチヒーローが活躍するダークファンタジー作品である。

前例を覆しての、オトコ編1位選出

『チェンソーマン』は「このマンガがすごい!2021」(宝島社)オトコ編で1位に選出されたことでも注目を集めた。

「このマンガがすごい!」は、刊行の前年10月1日からその年の9月30日までの1年間に単行本がリリースされた作品が選考対象となる。毎年刊行される年度版としての性質上、その年の期間内に第1巻が刊行された作品が支持されやすい。

いわば「先物買い」的な傾向だ。

あれほど世間をにぎわせた『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)でさえも、ブーム過熱前の「このマンガがすごい!2018」(2017年12月刊行)時点でオトコ編19位に選ばれた以降は、同「2019」21位、同「2020」6位、同「2021」17位と、もうひとつ伸びきれなかった。連載2年目以降のタイトルは、上位進出が難しいランキング企画といえるだろう。

事実、2年目以降のタイトルが1位に選ばれたのは、オトコ編に関しては今回の『チェンソーマン』がはじめて(前年4位)。16年目にして初の快挙であった。

「このマンガがすごい!」歴代1位作品と、単行本1巻の刊行時期。筆者作成。
「このマンガがすごい!」歴代1位作品と、単行本1巻の刊行時期。筆者作成。

人気の要因と、気になる今後の動向

1位となった『チェンソーマン』の得票(131pt)の内訳は以下のとおり。

・「あの人が選ぶ」6pt(※有名人の票)

・「書店員が選ぶ」28pt

・「雑誌編集部が選ぶ」6pt

・「各界のマンガ好きが選ぶ」79pt

・「漫画家のタマゴが選ぶ」7pt

「このマンガがすごい!」の例年の傾向としては、「書店員が選ぶ」の票が多い作品ほど上位に進出しやすい。今回の例でいえば、オトコ編2位『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人、作画:アベツカサ)は91pt中56ptが書店票、オトコ編3位の『九龍ジェネリックロマンス』(眉月じゅん)は81pt中43ptが書店票で、ともに得票の5割以上を書店票が占めた。

それに対して『チェンソーマン』は、書店票の割合は約2割。マンガ通のレビュアーから熱く支持されたのが印象的だ。

実際のところ、昨年の『チェンソーマン』は読者の熱気がすさまじく、「週刊少年ジャンプ」が配信/発売される日曜深夜から月曜早朝にかけては、毎週のように、ファンのつぶやきがツイッターのトレンド上位に入った。

とりわけ、次週が最終回であると発表された2020年12月7日(「週刊少年ジャンプ」2021年1号)には、トレンドワードに「チェンソーマン」「マキマさん」「重大発表」(アニメ化発表の前フリ)、さらに「生姜焼き」(劇中での重要な出来事)といった作品関連ワードが次々とランクイン。読者の熱狂度合いが、うかがえる事象だった。

単行本8巻の帯によると、この時点(2020年8月)での発行部数は「累計270万部(電子版含む)」。一般的には十分にヒット作といえる部数だが、さらに多くの人とこの作品を共有したいという読者の熱量が、昨年の『チェンソーマン』の快進撃を支えたと考えられる。

『チェンソーマン』単行本8巻、初版刊行時の帯(筆者撮影)。
『チェンソーマン』単行本8巻、初版刊行時の帯(筆者撮影)。

11巻の刊行時点で発表された累計発行部数は930万部。およそ半年で、3倍以上も発行部数を伸ばしたことになる。第一部完結をもって、本作を読み始める方もきっと多いはず。さらに第2部開始、アニメ化と続くことで、「チェンソー中毒者」は加速度的に増加していくことだろう。

作中の主人公デンジ(チェンソーマン)は、とある理由から、人々から支持されると弱体化する性質を持つ。だが、現実世界の『チェンソーマン』は、熱心な読者の支持の後押しを受けて、さらに飛躍していきそうな勢いである。

漫画ジャーナリスト

1976年生まれ。フリーライターとして、漫画をはじめとするエンターテインメント系の記事を多数執筆。「このマンガがすごい!」(宝島社)のオトコ編など、漫画家へのインタビューを数多く担当。『「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと』(文藝春秋)執筆・編集。後藤邑子著『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。』(文藝春秋)構成。 シナリオライターとして『RANBU 三国志乱舞』(スクウェア・エニックス)ゲームシナリオおよび登場武将の設定担当。

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