2002年に宮城県仙台市で創刊した、大人のためのプレミアムマガジン『Kappo 仙台闊歩』は、40~60代の大人たちに向けて、食や宿、旅や文化をテーマに、宮城県はもとより東北の上質な情報を発信し続けてきた雑誌である。私自身はこの雑誌の編集長を15年間務め、東北再発見を掲げて地域文化を丹念に取材してきた。これからYahoo!において、宮城県や東北のヒト/モノ/コトを掘り下げていきたいと思う。第1回は秋保ワイナリー(仙台市太白区秋保)代表の毛利親房さんを取り上げる。

Kappoの特集「東北ワインの実力」をきっかけに

話は8年前に遡る。『Kappo 仙台闊歩 vol.66』(2013年10月5日発売)では「東北ワインの実力は?」という問いをたて、初のワイン特集を組んだ。東北と言えば日本酒というイメージがあったが、ジャパニーズワインが盛り上がり、その年の国産ワインコンクールで朝日町ワイン(山形県朝日町)が金賞・部門最高賞・コストパフォーマンス賞の三冠を獲得するなど、東北ワインの評価が高まっていた。2011年からスタートした連載「ヴィニョロンの棲む丘」で、タケダワイナリー岸平典子さんのワイン造りに密着し、その情熱と100年以上続く伝統を知り、東北の他のワイナリーを取材し、真の力を知りたくなったことも理由のひとつだった。

2013年夏、東北のワイナリーの現在地を知るべく、サンマモルワイナリー(青森県むつ市)、エーデルワイン(岩手県花巻市)、くずまきワイン(岩手県葛巻町)、五枚橋ワイナリー(岩手県盛岡市)、月山ワイン山ぶどう研究所(山形県鶴岡市)、高畠ワイナリー(山形県高畠町)、酒井ワイナリー(山形県南陽市)など、13のワイナリーを自らの足で訪ね歩いた。テロワールを感じ、醸造家と語り、畑を踏みしめた経験は素晴らしい体験だった。「東北のワイン造りはこれからもっともっと評価される」と確信した取材だった。ただ、その当時、宮城県にワイナリーは存在していなかった。山元町にあったワイナリーは東日本大震災で被災していたのだ。

震災で失われた宮城のワイナリー

宮城県山元町は、大正期から昭和35年頃にかけて列車の車窓から連続するぶどう畑の景観が楽しめるほどの産地であり、東北一と称された歴史を持つ。だが、次第にぶどう栽培は衰退し、一軒のワイナリーだけが残された。そこに東日本大震災の津波が襲う。唯一残っていたワイナリーは甚大な被害を受けた。

そんな時、奇跡的に3本のぶどうの樹が残っているという話を耳にし、取材に赴いた。それが毛利さんとの初めての出会いだった。毛利さんは山元町に県内唯一のワイナリーがあったことを知り、被災した山元町の活性化のために再興を決意。東北沿岸再生プロジェクトの一環としてワインヴィレッジづくりを構想し、かつてワイナリーがあった土地で、メルロー、ピノノワール、シャルドネ、ソービニヨンブランなど10種類のぶどうを試験栽培していた。当時、毛利さんは「法人化、ぶどう栽培、レストランの開業、醸造免許の取得と、高い壁がたくさんありますが、ひとつひとつ乗り越えていきたいと思っております。5年後をめどに自分たちのぶどうで造ったワインをリリースするのが目標です」と語っていた。

運命の地・秋保との出会い

秋保温泉入口、覗橋からほんの百数十メートルの場所に開けたぶどう畑。名取川に対して平行に、川風に逆らわないように東西に開墾された(2014年当時。写真:池上勇人)
秋保温泉入口、覗橋からほんの百数十メートルの場所に開けたぶどう畑。名取川に対して平行に、川風に逆らわないように東西に開墾された(2014年当時。写真:池上勇人)

だが、山元町のワインヴィレッジ構想はさまざまな理由で実現には至らなかった。その後、毛利さんは現在の秋保の休耕地と出会う。その出会いについて彼はKappoの取材時にこんな言葉を残している。「志を諦めたくないという一心で、再出発の地を探す日々が始まりました。たくさんの土地を見に行き、土に触れ、ぶどう栽培という“農”に適した土地と、ワイナリー建設という“商”に適した土地の両方の側面からさまざまな可能性を検討しました。でも土地の選定は思うように進まなくて。秋保での土地探しの帰り道に立ち寄った友人宅で事の次第を話すうち、友人が“それなら”と紹介してくれた場所が、秋保街道に沿うように広がるこの土地だったんです」

秋保の地に適したぶどうが何か、栽培に取り組みながら実証実験を行った(写真:池上勇人)
秋保の地に適したぶどうが何か、栽培に取り組みながら実証実験を行った(写真:池上勇人)

ワイナリー設立へ

秋保の土地に出会った毛利さんは職を辞し「宮城県に日本ワイン文化を普及させていくために、地域の方々や行政、民間企業の応援を受け」2014年仙台秋保醸造所を設立する。「考え直したほういい」「家族のことを考えろ」。そんな声が聞こえてきた。人によってはこの挑戦を笑った人もいただろう。ワインの専門家でもない素人がワインを造れるのか?と。だが妻は「ここまでやったのだから、最後までやり遂げなさい」と背中を押す。それからの動きは早かった。秋保の土地約50ヘクタールを開墾し、メルロー、ピノグリ、シラー、タナ、ゲヴュルツトラミネール、シャルドネなど欧州系品種を植樹。翌2015年夏に建屋が完成、秋から醸造に入り、12月に初ヴィンテージが生み出された。2013年に出会ってからたった2年で、実際にワインが誕生したことになる。その行動力には驚きを禁じ得ないし、彼の夢を後押しする数多くの応援団の存在もあった。

2015年には醸造所が完成(写真:池上勇人)
2015年には醸造所が完成(写真:池上勇人)

毛利さんは前述した通り、山元町でのワインヴィレッジ構想時から、ワインを造るだけにとどまらないワイン文化の普及を考えていた。ワインが宮城や東北の食の魅力を伝えるコンテンツになり得ること。ワインツーリズムの発信地でありたいこと、そしてインキュベーション(醸造家研修)施設としての役割を併せ持つことだ。

「県内でワイナリーの設立を目指す方がいるので、研修の受け入れや受託醸造などを通して最大限の応援をしていきたいと考えています。仙台秋保醸造所というワイナリーが、ふるさとのさまざまな人やモノを繋ぎ、新しい何かを生み出し発信する場所として、貢献できる日を夢見ています」

圧搾機にぶどうを投入する毛利さん(写真:池上勇人)
圧搾機にぶどうを投入する毛利さん(写真:池上勇人)

2020年「SAKURA AWARDS」でゴールドメダルを受賞したRIVER WINDS BLANC。写真は 2021年ヴィンテージ(税込2,310円)
2020年「SAKURA AWARDS」でゴールドメダルを受賞したRIVER WINDS BLANC。写真は 2021年ヴィンテージ(税込2,310円)

2016年からは自社栽培のぶどうによるワイン造りがスタート。生産本数を徐々に増やしてきた。酒質の向上をテーマに、コンサルタントを招いて一つひとつの工程を見直しながら、醸造部門の経験値を高め、底上げをはかった。2020年にはデラウェアをブレンドした白ワイン「リバーウィンズブラン2020」が、女性が審査する国際的ワインコンペティション「SAKURA AWARDS」で、ゴールドメダルを受賞するなど、着実にその評価は高まっている。

徐々に畑を広げ、現在では6,500本を植えている(写真:池上勇人)
徐々に畑を広げ、現在では6,500本を植えている(写真:池上勇人)

2021年現在のワイナリー(写真:池上勇人)
2021年現在のワイナリー(写真:池上勇人)

カベルネソーヴィニヨン(2021年撮影 写真:池上勇人)
カベルネソーヴィニヨン(2021年撮影 写真:池上勇人)

コロナ禍でのワイナリー経営

今回改めてコロナ禍でのワイナリー経営とこれからのヴィジョンについて話を聞いた。

「他のワイナリーも同様だと思いますが、コロナで大打撃を受けました。飲食店ではお酒の提供がNGでしたし、旅館も休業していました。実は売上の6割以上がワイナリーでの直販なんです。だから観光客が減ると売上も減ることになります。もちろん小売ルートもありますが、なかなか家飲み需要では出ない価格帯のため、正直厳しかった。宣言明けから市内の飲食店にヒアリングをしましたが、消費者の動きはまだ慎重ですし、ワインは賞味期限がないので、注文はしばらく先になるというお話でした。ただこれからが勝負。攻めの姿勢でいきたいと思います」と語る。

経営的には決して楽観できる状況ではないが、新しいワイン造りにも挑んでいる。それが新ブランド「Craft Valley Blend Rouge(クラフトバレーブレンド・ルージュ)」だ。2016年~2018年に陰干しした自社畑のメルローに、タンニンをしっかりと抽出した契約畑の2020年メルローをブレンド。ドライフルーツのような果実味と熟成感、カラメルのような濃い甘い香りと柔らかい口当たりが特徴的な新たなフラッグシップワインだ。「今年のぶどうは過去最高の出来でした。やっぱり自社農園ワインを増やしていきたいですし、それで評価されたい。クリスマスに向け、2020年ヴィンテージの自社ぶどうを使った秋保メルローを限定販売する予定もあります。まだまだ挑戦は続きます」と毛利さん。

収穫したぶどうを陰干しし、干しぶどうのような状態にすると、香りや糖度が増す。アパッシメントワインと言う。写真は収穫から3か月以上陰干ししたもの
収穫したぶどうを陰干しし、干しぶどうのような状態にすると、香りや糖度が増す。アパッシメントワインと言う。写真は収穫から3か月以上陰干ししたもの

11月5日にリリースされたばかりの「Craft Valley Blend Rouge」。秋保ワイナリーHPから購入可能だ。税込3,960円
11月5日にリリースされたばかりの「Craft Valley Blend Rouge」。秋保ワイナリーHPから購入可能だ。税込3,960円

震災以降に宮城で生まれた6つのワイナリー

いま宮城には6つのワイナリーが存在する。秋保に加えて、Fattoria AL FIORE(川崎町)、山元いちご農園(山元町)、了美 vineyard & winery(大和町)、南三陸ワイナリー(南三陸町)、大﨑ワイナリー合同会社(大崎市)だ。東日本大震災でゼロになった宮城のワイナリーは、8年の歳月を経て6つに増え、さらに秋保に2つ、気仙沼や女川などを含めると、県内で7つのプロジェクトが進行中だと聞く。東北ワインの取材をはじめた2013年に比べると隔世の感である。

さらに仙台秋保醸造所は、ベルウッドヴィンヤード(山形県上山市)、グレープリパブリック(山形県南陽市)、吾妻山麓醸造所(福島県福島市)、Three Peaks Winery(岩手県大船渡市)など、他県のワイナリーの試験醸造やスタートアップを支援し、当初の目論見通りインキュベーション施設としての機能も果たしている。仙台秋保醸造所で学んだ醸造家がさらに新たな造り手を育て、地域のワイン文化を醸していく。競合になりませんか?という問いに対し、「それでもワインツーリズムの広がりを優先したい」と毛利さんは笑う。

産地にこそ最高のマリアージュがある。「テロワージュ構想」とは?

「期待しているのは、宮城ならでは、東北ならではのワインツーリズムが可能になるということです。例えばスペインの銘醸地リアス・バイシャスでは、スッキリとした酸とミネラルを持つアルバリーニョのワインと魚介料理との相性が抜群で、それを目的にたくさんの観光客が訪れます。東北でも大船渡、気仙沼、南三陸産の牡蠣やムール貝などの新鮮な魚介類と地元ワインを合わせる沿岸ワインツーリズムが可能なはずです。秋保や川崎町などの内陸部ではジビエや野菜を使った別のツーリズムができるでしょう。

テロワージュという言葉は、畑や土壌、風土を表すテロワールと、食と酒の相性の良い組み合わせを指すマリアージュを合わせた造語です。要は産地にこそ最高のマリアージュがある、ということです。生産者の話を聞きながら食べると本当に美味しいですし、なかには感激して涙を流す方もいます。海の目の前で食べる。畑の中で食べる。これは何事にも代え難い体験です。心に響くスパイスと言えるのではないでしょうか。東北の食は世界を魅了するポテンシャルを持っています」

毛利さんは8年前、初めて会った時に話してくれた“夢”を着実に実行している。ワイナリーを設立し、自社ぶどうでワインを醸し、醸造家の卵たちを育て、東北に新たなツーリズムを開いた。その想いの強さと実行力に改めて驚かされる。決して平坦な道のりではなかったはずだし、これからもワインディングロードは続くだろう。震災後、彼が先駆け、再び歩き出した宮城のワイン文化は、枇杷原に最初に植えられたぶどうの樹のように着実に根付いている。

仙台秋保醸造所/秋保ワイナリー

宮城県仙台市太白区秋保町湯元枇杷原西6

022-226-7475

レストラン・ショップ

9:30 -17:00

駐車場:27台

定休日:毎週火曜

公式サイト