金正恩氏がコークを飲む日は来るか? 米朝会談に合わせたコカ・コーラ限定缶がシンガポールで話題

"限定缶"のロゴ(コカ・コーラによるFB投稿動画より)

歴史的ビッグ会談を企業サイドから見てみると

各国のメディアが「歴史的」と報じた米朝首脳会談。言うまでもなくこれは政治のビッグイベントだが、なかにはマーケティングの機会と捉える企業もある。

会談の成果はさておき、この記事では米国に本拠地を持つあるグローバルブランドの考え方や姿勢がうかがい知れるキャンペーンを紹介したい。

トランプ・金正恩対談の開催地であるシンガポールでちょっと話題になっているのは、限定パッケージのコカ・コーラ。首脳会談を記念する商品だ。

その缶には、上の引用写真のように英語とハングルでデザインされたスペシャルロゴとともに、「平和、希望、そして理解への道のりがここに」というメッセージが、やはり英語とハングルで記されている。

嘘かホントか、「1日にダイエット・コークを12本飲む」(The New York Times)と伝えられるトランプ大統領もびっくりしそうな異例の"便乗"キャンペーンである。

なぜ、異例なのか? 五輪やW杯といったスポーツイベントに乗じて、企業が限定パッケージの商品を発売することは珍しいことではない。しかし、史上初とはいえ「首脳会談」を記念するプロダクトをリリースするケースは聞いたことがない。限定商品ではあっても、ロゴデザインの変更はビッグブランドにとって大きな決断だ。

メッセージ性の強さから、企業がバッシングを受ける可能性もないとは言えない。会談の成否がわかる前に準備を進めることにはリスクも伴う。そもそも首脳会談自体、本当に実施されるのか? 会場はどこになるのか? といった基本情報さえ、つい最近まで明確ではなかった。

つまり、米国(トランプ氏)と北朝鮮(金正恩氏)の決断同様、こちらもある種の"賭け"ではあるのだが、それを行ったコカ・コーラの真意はどこにあるのだろう? 

コカ・コーラ社(ザ コカ・コーラカンパニー)の公式Facebookページには、関連ムービーが投稿されている。シンガポールの人々が街角で、首脳会談や限定缶への感想を求められる内容で、動画に出演した一人の女性が次のように言う。

「コカ・コーラはユニバーサルな飲料だから、人種や国は関係ないってことでしょう。これがコカ・コーラだってわかればいいんだから」

このコメントがセリフなのか、自然と出てきた感想なのかは動画を見る限りわからない。しかし、この"ピース缶"の趣旨は、「すべての国の人々から愛されたいブランド」をアピールすることにあるとは言えそうだ。

金正恩氏がコークを飲む日は来るか?

コカ・コーラ社と言えば昔から度々、平和や平等といった人類的テーマを掲げて、世界各国でキャンペーンを行ってきた企業である。例えば、先ほどの動画でも最後のほうに流れている曲は、1971年に公開された歴史的CM「Hilltop」のコマーシャルソング。

このCMは世界中のいろんな人種の若者たちが、それぞれの国、あるいは民族の伝統衣装に身を包んで丘の上でコーラスを披露するもので、「コカ・コーラを楽しむのに人種は関係ない」というメッセージを伝えている。

その後現在にいたるまで、各国で展開されるコカ・コーラの多くのキャンペーンには、このCMが示した"指針"のようなものが埋め込まれている。

2013年にも、緊張関係にあるインドとパキスタンの人々をコカ・コーラでつなごうとするキャンペーンが話題となった。

いずれも「世界何十億の人々をユーザー(あるいは潜在顧客)とするビジネスとはこういうものなのか…」と思わせるスケール感のあるマーケティング施策だ。

キャンペーンで"社会的グッド"をアピールするのは現在のグローバル企業のトレンドではあるのだが、今回のシンガポール限定缶も「コカ・コーラだからサマになる(説得力がある)」というところもある。

首脳会談の席で金正恩氏は、「我々がここまで来るのは簡単な道のりではなかった」と述べたが、ブランドも平和をアピールできるようになるまでには努力と時間の積み重ねが必要ということかもしれない。

ちなみに北朝鮮では現在、コカ・コーラは正式には販売されていない(裏マーケットで流通しているとの情報はあるが非常に高価らしい)。もちろんコカ・コーラ社は北朝鮮でも、ピースフルにブランド展開できる日が来ることを期待してはいるのだろう。金正恩氏にも飲んでほしいことだろう(非公式には飲んでるかもしれないが)。

なぜならあらゆる国、人種から愛されたい"世界ドリンク"なのだから。

缶に記された「平和、希望、そして理解への道のり」には、そういった未来に向けての戦略性さえ読み取れる。その根底にあるのはおそらく、アメリカンドリームとでもいうべきものだ。その良し悪しの議論とは別に、このスマートな"したたかさ"、つまり平和を掲げての"攻めの姿勢"には日本企業が参考にすべき点もあるかと思う。