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【動画あり】衝撃!メルセデス・ベンツ新型Aクラスに乗る(後編)

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は全て筆者撮影

注目は自動車の完成度以上に、MBUX

 前回お届けしたように、メルセデス・ベンツの新型Aクラスはまず、従来からのクルマの価値観である“走る・曲がる・止まる”の面で、ライバルを大きく引き離す内容を実現した。合わせてADAS(運転支援システム)を含む安全装備に関しても上級のEクラスやSクラスと同等を実現しており、結果ハードウェアとしては、欧州Cセグメントの中で見ても現時点で最も充実している1台といえる。

 しかし今回のAクラスにおける最大のトピックは、それよりもむしろ、ライバルはもちろん、同社の最上級モデルSクラスですら備えていない、新世代のインフォテイメントを真っ先に取り入れたことにある。

 それがMBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)。メルセデス・ベンツとして全く初めての、全く新しいマルチメディアシステムである。

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 今回のAクラスのインテリアで印象的なのは、ダッシュボードが従来のクルマのような形状ではなく、ダッシュボードの半分以上を一枚のパネルが占めたデザインとなること。これこそ、MBUXの採用から生まれた新たなインターフェイスである。このパネルは一枚ものに見えるが、実際には10.25インチのディスプレイが2つ並べられる構成。既にSクラスやEクラスでも同じ方式が用いられている。とはいえ、SやEではメーターフードは存在するが、Aクラスはメーターフードすらないから新鮮だ。

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 各画面はハンドルに搭載されたタッチコントロールボタン、センターコンソールにおかれたタッチパッド、または画面に直接触れて動かすタッチスクリーンのいずれでも操作が可能となる(タッチスクリーンは右画面のみ)。実際に操作してみると、サクサク動く感覚はまさにスマホ操作そのもので、時代は変わったなと感じる。

ヘイ、メルセデス! 

 しかしながらMBUXで最大のインパクトは、“インテリジェントボイスコントロール”を備えたことだ。

 このシステムに関して最もイメージしやすいのは、アップル社のiPhoneにおけるSiriや、グーグルホームやアマゾンエコーといったスマートスピーカーなど。あれらと同様に、曖昧な会話であってもAI(人工知能)が理解をし、インフォテイメントや車両操作関連の機能を動かせる仕組みとなる。システムの起動にスイッチは不要で、ドライバーが、

 「Hey Mercedes!」

と呼びかければ、即座に

 「How Can I help You?」

と返事をする。そして乗員が何か要求を伝えることで、クルマの側が反応を示すわけだ。例えば、

 「I’m Hungry」

といえば、近くの飲食店をリストアップして表示をしてくるし、

 「Do I need an amblera tomorrow?」

と聞けば、明日の天気を画面に表示する。

 このシステムは学習機能も備え、ユーザーとその声に対する理解力を高めるほか、サーバー上のソフトウェアモデルによって、新しい流行語や時代によって変化する言葉の用法までも学習するのだという。

 

 もちろん、飲食店のリストアップや天気予報はスマホでもできる。またエアコンの温度設定なども、手で行う方が速いのは当然だ。しかしながら実際に使用して感じたのだが、例えば従来ならばコントローラーでメニューを呼び出し、深い階層に到達して車両の機能を設定していたような煩わしさからは確実に解放されるというメリットがある。

 また先のエアコンの温度設定なども、実際にそれを行う際には目線をスイッチへ移して、温度の数字を確認しながらスイッチをひとつずつ動かす…となる。これに対して対話型ならば、例えば現在25度のエアコン設定温度を20度にする際には、ひと言「20 degrees」といえば一発で設定可能で、運転中でも視線を外さずに操作可能なのだから、今後の可能性は広がるといえるだろう。

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 さらにナビゲーション・システムでは、ユーザーがよく通行するルートを検知すると、予測機能で道筋にあるオススメの店なども提案するなど、これまでよりも一歩進んだコミュニケーションを可能としたインターフェイスとなっている。また日本には導入されないが、詳細な地図データと合わせて、目的地案内をする際に曲がるべき交差点等をARで実際の映像に融合させるなどのナビゲーションのインターフェイスも実現している。

 こんな具合で新型Aクラスは、まだどのクルマも、どのメーカーも採用していない、自然な対話型のユーザーインターフェイスを真っ先に取り入れた1台となったわけだ。

思い切った決断に見える攻めの姿勢

 今後、自動車のインターフェイスに関してはどんどん変化していくだろう。というのも、こうした音声認識技術やAI等の普及によって、これまでの操作系が、いかに前時代的なものであったかが分かってきたからだ。事実、これまでの自動車のインターフェイスは目視と実操作がセットであり、これを時には時速100キロで走るクルマの中でドライバーが行っていることを考えると、やはり良い気はしないし安全という言葉からはかけ離れた行為にも思える。とはいえ、どの自動車メーカーも今後、どのように新たな技術でより使いやすいインターフェイスを築いて行こうかを検討している真っ只中でもある。

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 なぜなら、今回のAクラスのようなシステムを採用することは当然考えるだろうが、果たして市場がどう受け入れるか? を考えると思い切って新たなシステムを採用するのは相当の決断だろう。そう考えると今回こうしたシステムを、自動車の生みの親であるメルセデス・ベンツが、Aクラスという同社の最もコンパクトかつリーズナブルなモデルに最初に搭載したことには、強烈な“攻めの姿勢”を感じずにいられない。

 もちろん今回のMBUXを実際に使うと、まだまだインターフェイスとして改善が必要な部分もあると感じるのが本音だ。しかしながら細かなことはさておき、時代が求めるこのようなシステムをまず搭載して、さらに今後進化させていこうというその積極性には、歴史と伝統あるブランドながらも決して現在の地位に甘んじず、むしろいち早く時代を捉えつつ軽やかなフットワークで立ち回ろうとする姿勢がみえて、なにか共感を覚える。そこには何か、時代を動かそうとする熱意のようなものが漂っている。

 さらにAクラスという、より大衆に向けたメルセデスにMBUXを投入したことは、これまでの車格による装備ヒエラルキーを払拭する可能性も帯びているように思える。というのも、これまでは車両価格が高価だからこそ世界初のシステムや先進機能が高級車には導入される流れがあった。しかし今回のAクラスのように、最量販モデルであっても最新のシステムを与えることは、車両価格の低高を問わず、商品性の高さとなる重要性を感じさせるし、ますます多様になるユーザーへの素早い対応ともいえる。それだけに、筆者は今回新型Aクラスに触れてみて、このクルマはこれまでの自動車の価値観を変える存在になるかもしれない、と感じたのだった。

気になるのは車両価格

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 まさに衝撃! という表現がふさわしいほど強烈なインパクトを持ったAクラスだが、唯一気がかりなのは価格である。例えば、今回試乗して圧倒的な出来の良さに驚いたA250のエディション1は、装備の豊富さと充実度から、その価格は600万円台でもおかしくないレベルである。さらにもう1台のA200の18インチでも、おそらく400万円後半から500万円台の仕様となるだろうから、決してエントリーモデルとはいえなくなりつつあるのが実際のところだ。

 もっともこの辺りはグレードや装備で変わるため、日本仕様がどのような設定になるかは不明だ。おそらくこれまでのエントリーモデルという位置付けも非常に重要であるため、装備やグレードを吟味してスターティングプライスは抑えてくるだろうと予測できる。ちなみに新型Aクラスの日本上陸は、今年の終わり頃と噂される。

 果たして日本上陸を果たした時、価格も含めてこのプロダクトに、一般のユーザーがどのような反応を示すのかが楽しみである。新型Aクラスは、単に欧州Cセグメントの「プレミアム」に位置付けられるのか? それとも自動車の価値やヒエラルキーを変える1台になるか?

 そしてこのクラスはもちろん、今後の自動車にどのような影響をもたらすかも含め、その動向が楽しみな1台だ。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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