Yahoo!ニュース

大船渡、圧勝!佐々木、最後の夏始まる――高校野球・岩手大会

川端康生フリーライター

「4番、ピッチャー、佐々木くん」

 スターティングメンバーを発表するアナウンスにスタンドがどよめいた。

 岩手大会・2回戦。雨天順延で日程がずれ、平日の試合になったにもかかわらず、花巻球場は満員。入場できないファンのために試合途中で外野席も開放する大入りとなった。

 もちろん第一球を投じたときにも、またどよめいた。

「令和の怪物」、「10年に一人、いや100年の一人の逸材」。

 そんな評判に観客も興奮気味だった。

別格だった

 僕自身は初めて生で佐々木を見た。先入観抜きに見つめようと決めていたが、それが難しいほどの存在感があった。

 まずそのサイズ(190センチの身長だけでなく、手足の長さ)に圧倒され、にもかかわらずバランスのよさに感心した。大柄な投手にありがちなギクシャクした感じがまったくないのだ。コーディネーション能力もかなり高いと感じた。だから身体の動きに無理がなく、前へ踏み出していく下半身と上半身のスイングがスムーズに連動する。

 しかも、しなやか。腕の振りも、手首のスナップも、極めて柔らかくしなやかだった。「剛腕」と表されることもある佐々木だが、むしろ「巧投手」と言いたくなるような、そんな印象さえ感じた。

 無論、指先から離れたボールは快速球であり、剛球である。何せボールの軌道が違う。この試合最初の三振、相手の3番打者は(比喩ではなく)ボールがミットに収まってからバットを振った。いや、バットを振ったときにはボールがミットに収まっていた、と言った方が的確かもしれない。

 とにかく別格。前評判抜きに見つめても、結局、評判通り。いま現在すでにすごいし、この先の将来もっとすごくなりそうな、スケールの大きさだった。

大船渡旋風、吹くか

 試合についても触れておかなければならない。14対0、5回コールド。初回3点、2回7点と、大船渡は序盤で早くも10点差をつけた。この時点で早くも打者2巡。10本のヒットを放っていた。

 守っても佐々木が投げた2イニングはパーフェクト、リリーフした大和田もノーヒット。結局、相手に1本のヒットも許さなかった(1四球のみ)。

 相手の遠野緑峰は約半数が高校から野球を始めた選手だと聞いた。佐々木を抜きにしてもチーム力に差があったことは否めない。

 それでも大船渡の野球が真摯だったからこそ、これほどの圧勝になったと思う。

 初回、先頭の右打者・及川が1、2塁間を破るライト前ヒット。続く2番、左打者の熊谷が三遊間を破るレフト前。どちらも強く低い打球だった。相手の菊池優投手の緩いボールを引き付けて逆方向へ。徹底されていた。そうして出塁したランナーを、佐々木がやはりライトへ運んで先取点を奪った。

 ピッチャーだけで勝てるわけではない。ステディで緩みのない野球をできるチームでなければ勝ち上がっていくことはできない。甲子園を本気で狙うなら……。

 初陣の初回に大船渡ナインが見せたバッティングには、そんな本気と、そのために積み重ねてきた鍛錬が垣間見えた。

 甲子園に「旋風」を巻き起こしたのは1984年春だった。センバツ「ベスト4」の中心には、揃って入学した大船渡一中の選手たちがいたという。

 あれから35年、同じように大船渡高校に進んだ選手たちが――と言うにはまだ早い。あと5勝。佐々木とともに戦う最後の夏は始まったばかりだ。

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

誰がパスをつなぐのか

税込330円/月初月無料投稿頻度:隔週1回程度(不定期)

日本サッカーの「過去」を振り返り、「現在」を検証し、そして「未来」を模索します。フォーカスを当てるのは「ピッチの中」から「スタジアムの外」、さらには「経営」や「地域」「文化」まで。「日本サッカー」について共に考え、語り尽くしましょう。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

川端康生の最近の記事