雪山の絶景は危険と隣り合わせ 知らないと後悔する命を守る6つのポイント

キリッと冷え込んだ2月、茜に染まるの西穂高岳への稜線 ※写真はすべて筆者が撮影

雪の便りが届く季節になりました。3000メートル級の山岳では初夏6月までは強風と低温、そして降雪と積雪に対する知識と技術そして装備が必ず必要となります。美しい絶景の裏に隠された危険とその対処を紹介します。

強風と低温と積雪が登山者に及ぼす影響とは?

1:風のパワーは強烈です。強風は一定に吹くのではなく、突風を伴います。転倒そして負傷や滑落といった事態につながる直接的物理的なパワーが登山者の安全を脅かします。近年の台風などに代表される発達した低気圧通過時の強風は山では巨木を、街では電柱や鉄塔を倒壊させることができるのです。

冬期の日本列島上空では巨大山脈ヒマラヤの北を流れるジェット気流と南を流れるジェット気流のジェット気流が合流します。そのため世界に稀にみる強風地帯なのです。富士山やアルプスの稜線では荒天時だけでなく晴れているときであっても強風が吹き荒れ、積もった雪が吹き飛ばされてできる雪煙が見られます。

晴れていても強風は雪煙を起こし行く手を拒みます。
晴れていても強風は雪煙を起こし行く手を拒みます。

対策1:気象データをチェックして、目的山岳エリアの標高高度付近の風速を確認します。風速が秒速10メートルを超える時は無理をしない方がよいでしょう。山岳地帯では地形によって風は収束させられ、増大した風速で鞍部(コル・乗越)や稜線を吹き抜けるからです。

2:低体温症です。全身から体温が奪われ体温の産出が追いつかないと発生します。身体中心部と脳が1ー2度体温が低下すると脳と身体内臓器官に変調をきたして死亡に至ります。

強風対策のウエア、保温性の高い冬山登山靴と手袋は必携です。
強風対策のウエア、保温性の高い冬山登山靴と手袋は必携です。

対策1:  ⇒ 風を避けることが可能な位置に移動します。風は濡れた服から気化熱と共に体温を急激に奪います。低体温症は外気温が低温でない夏であっても起きることを忘れないでください。

対策2:  ⇒ 鳥肌、震えを感じた段階で行わなくてはいけないことは保温です。'''乾いた服と防寒防風機能を持つシェルジャケットを着用し、頭部、首、手首など血流が多く脈を計れる部位を優先的に保温します。

対策3:  ⇒ 身体内部に温かく糖質がある飲み物で加温します。魔法瓶(テルモス・保温ボトル)はなくてはならない装備です。温かいものをとりいれ身体そのものの温度を上げると同時に筋肉と脳へエネルギーを供給しなければいけません。

体温低下がどれほど恐いことか 山岳ガイドは知っている

晴れれば絶景、備えあれば幸あり
晴れれば絶景、備えあれば幸あり

3:足指手指などの凍傷です。十分な保温性能を持つ雪山対応登山靴と手袋を装着していない場合、指先は冷たくなって痛く感じるようになります。もし、何の対策もとらずに放置していると感覚がなくなって凍ってしまいます。これが凍傷です。

人間の生きていく仕組みの中で考えてみたいと思います。寒冷な環境に晒されると体温が奪われていくので筋肉を動かしたり震わせたり(産熱)して補おうとします。皮膚を露出させず、乾いている断熱性の高いウェアを着用、防風性ある生地で身体を覆う必要があることは前段で述べました。

十分な保温ができず熱の漏出が続くと脳と内臓器官を守るために手足への血流を抑えていくのです。つまり、手足が凍っても生き残ろうとした結果が凍傷という状態なのです。

身体の末端、特に指先はあっという間に冷え切ってしまいます。
身体の末端、特に指先はあっという間に冷え切ってしまいます。

対策1:  ⇒ 保温性が高い雪山用登山靴と乾いた登山ソックス、保温性の高い手袋とそれを覆う防風手袋が必要です。

対策2:  ⇒ 指先は常に動かし血流を多くするように努力します。冷えて異常な感じが出ていないか、早期発見に努めます。冬用登山靴では夏用に比べ、足指が十分に動かすことができるサイズ選びが大切になります。手袋は薄手のインナータイプは常に使用した上に保温性重視タイプを重ねることが重要です。この時も重ねた手袋で指を強く圧迫するものは血流を阻害するので凍傷の危険が高まります。

対策3:  ⇒ 強風に晒される部分や熱伝導率の高い金属(ピッケルの金属部分)を握る部分により注意を払う必要があります。

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4:氷化した斜面での滑落です。降り積った雪が堅くなるより危険なのは寒暖の差が大きく、強風に磨かれた氷の斜面です。磨かれた爪を持つアイゼン(クランポン)とピッケル(アックス)を使いこなせる者のみに許される世界です。

雪面は日中の陽射しで解け、寒風に磨かれギラギラと輝きます。
雪面は日中の陽射しで解け、寒風に磨かれギラギラと輝きます。

対策1:  ⇒ 靴底は強い剛性を持つ保温性が高い冬山登山靴と前爪を含む12本以上の爪を持つアイゼン(クランポン)が必要です。

対策2:  ⇒ アイゼン(クランポン)とピッケル(アックス)コンビネーショントレーニングが必要です。いったん滑り出したら傾斜のある氷上で止めることは不可能です。止めるためのノウハウを学ぶ以前にアイゼン(クランポン)を装着した状態で様々な場面を転ばず安定して歩くトレーニングが必要です。

5:雪斜面での滑落です。雪は繰り返しながら積っていきます。斜面の方角、斜面の角度、天候の影響、標高の違い、風当たりの違いなどにより雪の状態は一様ではありません。登る時は堅くアイゼン(クランポン)の爪が気持ちよく刺さっても、午後の気温が上がる頃になると雪は柔らかく(緩んできます)なって、堅い雪よりもスリップの危険が増します。

気象変化と積雪斜面変化は実体験を積み重ねていくことが大切です。
気象変化と積雪斜面変化は実体験を積み重ねていくことが大切です。

対策1:  ⇒ 雪にしっかりと喰い込み、登山者の姿勢を安定させるにはソール(靴底)の深いブロックパターンと剛性が高い雪山用登山靴が必要です。

対策2:  ⇒ ピッケル(アックス)の柄(シャフト)を確実に雪面に刺し込み安定させることが必要です。ストック(トレッキングポール)は滑落の危険が極めて少ない樹林帯ではとても有効ですが、滑落の危険が予見される斜面ではピッケル(アックス)を使うのが良いでしょう。

6:積雪歩行の困難さです。雪は降雪直後の空気をたくさん含んだ軽い雪から水分を多く含んだ重たい雪、積もってから時間がたち堅くなっている雪など常に変化しています。積雪に踏み込んだ時、膝上まで身体が潜るようだと歩行スピードは極端に低下します。一日の行動範囲はチームの歩行力だけではなくルートコンディションに左右されるものです。

誰も歩いていない雪面に足を踏み入れることと多くの登山者が踏み固めた雪面を歩くことは全く別だと思ってください。

対策1:  ⇒ 降雪直後は行動せず、積雪が落ち着くまで待つ

対策2:  ⇒ ワカン(雪かんじき)やスノーシューなどを活用する

対策3:  ⇒ 下山可能な時刻で下山を始めること、又は安全な場所でテント泊ができる知識と装備を身に付けること

腰までもぐる斜面ではなかなか前には進めません。
腰までもぐる斜面ではなかなか前には進めません。

冬用登山靴の素朴な質問 どこで必要 その特徴?

もちろん、雪崩への備えは別の機会に触れます。

今回は「絶景」は場所・季節ということだけでなく、そこに行くには知識・技術・装備そしてトレーニングと経験が必要だということをご紹介しました。

自然環境は誰に対しても平等です。そこに入り込む私たちはネットやSNS、本や雑誌の知識だけでなく、良い先輩や山岳ガイドから実際の体験を通じて学ぶ必要もあることを忘れないでください。

素晴らしい日本の冬山景色を安全に楽しんでください。