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本当のことを言いますが、山の感動は写真や動画では伝わらない、残念ですがそれは事実です。

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
あの時の一瞬、それは貴方だけのもの。シェアしても伝えきれない感動がある!

感動の絶景を誰でもが世界に発信できる時代になったのは素晴らしいことです。誰もが見ることが叶わない厳しい山岳エリアともなればその価値は計り知れないと誰しもが思うのも納得できます。映像で伝えられること、映像では決して伝えられないこと、少し考えてみませんか。

普段、体験できない状況は訓練でしか身に付きません。※写真はすべて筆者が撮影
普段、体験できない状況は訓練でしか身に付きません。※写真はすべて筆者が撮影

山の先輩が常に言っていたことですが、私たち人間は山の機嫌が良いときに遊ばせてもらっているだけなのだと。努力は報われると思いたいが自然のパワーには逆らうことはできません。

絶対に必要なことは「努力・謙虚さ・臆病さ」をもって、「危険」との間合いを取ることが大切です。

その時間にあの場所でしか見れない景色がある。
その時間にあの場所でしか見れない景色がある。

料金を支払えば確実に「喜び」を提供してくれる遊技施設と自然を舞台とする登山を同じ基準で比べることはできません。

10月を過ぎると3000mを超える高山は氷点下の世界、あっという間に私たちひ弱な人間を拒絶する厳しい世界に変わります。

ダイヤモンドダストは厳冬期のみ現れる
ダイヤモンドダストは厳冬期のみ現れる

私は仕事柄、写真撮影を常にしています。季節を感じる自然の景色を少しでも知っていただき興味を持ってもらうために発信しているのですが、その写真からは「命がすり抜けていく危機感は伝わらない」ことの方が多いものです。

「何だか自分でも行けるんじゃないか!」といった感じでしょうか。

ヒヤッととして、手が汗ばんで、心臓の鼓動が早まる感覚を感じるには「それに近い状況を実体験」が必要なのです。

つい先ほどまで会話していた仲間が些細なミスから物言わぬ遺体となる実体験はしたくはないかもしれませんが、「まさにそこにある危機」に無防備に近づいてしまう悲劇はとても残念な出来事です。

天候に恵まれと事前準備が良ければ
天候に恵まれと事前準備が良ければ

1:日本アルプスや富士山などは7月から9月の三か月とそれ以外の九か月は全く別物の山と考えて準備すること。実際の行動は自分できめるべきですが、経験者のアドバイスに耳を傾けること。

2:日本列島は世界基準でみて多雪であり、ヒマラヤ登山における高山病の危険を除けば、より厳しい環境のこともある。

3:氷化した斜面ではスリップは致命的であり、スリップした瞬時にピッケルで止められなければ限りなく「死」に近いということ、加速がついたら間違いなく止めることは不可能であること。

4:手足抹消の冷えは装備不足と対応力欠如。低体温症を含めてすべてが「ヒューマンエラー」であるということ

5:行きは良いよい帰りは怖い。特に斜面の下りは日頃のトレーニングで養われる。ガイドブックやマニュアルを100回読んでも身につかないということ。

6:山が危険なのではなく、そこに入り込む人間が危険を犯すということ、地道なトレーニングをないがしろにしないこと、動画を見てできる気分にならないこと。

7:世界トップレベルの山が日本にはある、日本の山を誇らしく思うこと。

転ぶな危険!遭難のきっかけは些細な転倒から! ⇒ こちら

厳冬期の表銀座稜線 
厳冬期の表銀座稜線 

これからの季節、来年5月GW頃までは冬山と考えて準備が必要です。

ピッケル(アイスアックス)とアイゼン(クランポン)は持っていくだけでは全く用をなしません。そのコンビネーションの使い方など実体験を通じたトレーニングが”絶対に必要”なのです。ビデオを100回見るより、様々な実体験が重要です。

四季を通じてバラエティに富んだ登山スタイルを楽しめる日本です。自分の感動のおすそ分け、そのような感覚で素敵な画像や動画が発信されたら素敵なのではないでしょうか。

新しいジャンルに向かって技術を習得したいのに山の仲間が近くにいない場合は山岳ガイドの活用も考えましょう。

まだ日本の紅葉登山はこれから本番! ⇒ こちら

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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