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トイレと水は有料でゴミ箱はない 登山初心者が知っておきたい山小屋の9つの常識

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
自然は容赦ない!野生の掟で生きるニホンザル *記事の中の写真はすべて筆者が撮影

山岳エリアに山小屋があることで私たち登山者は安心して計画的な登山を楽しむことができます。山小屋では登山者へできるだけ快適な環境を提供するためのルールをそれぞれで決めています。厳しい山岳環境の制約で生まれた生活常識は訪れる登山者にとっては戸惑いを感じることも多いでしょう。不自由な非日常が楽しく感じられるよう、知っておきたい山小屋の常識をお伝えします。

山小屋到着 言ってみませんか?最初に一言「こんにちは!」
山小屋到着 言ってみませんか?最初に一言「こんにちは!」

山小屋によっては四季を通じて宿泊と食事提供ができる山小屋もありますが、3000m級の山岳エリアにある多くの山小屋は10月の体育の日以降、厳しい冬の到来を前に順次、店じまいをしていきます。 今年も残り少ない営業です。

年間を通じて山小屋に確実に予約を入れておきましょう。計画の修正や中止があったときの連絡も確実にお願いします。

思わず会話が弾む絶景の中、皆で歩くのも楽しい
思わず会話が弾む絶景の中、皆で歩くのも楽しい

三人寄れば山岳会といわれる大登山ブーム以降、中高年の百名山、山ガールなどいくつかのムーブメントを経ていく過程で、登山用品は軽く快適に進化しました。交通手段の利便性向上、GPSと通信環境の改善は登山に対する心理的なハードルを下げました。体力技術が伴わない登山者が山の不自由不便さの洗礼を受けることなくアルプスの山々を闊歩しているのが現実です。

山岳ガイドの立場から9つのことをお伝えします。

1:山小屋には十分な水があるとは限らない。

水源が豊かな小屋もあれば、天水(雨水を屋根から集めています)にたよる山小屋もあります。山小屋の水は飲み水ですから、シャツを洗ったり身体を洗ったりできません。水やお湯は1リットル(水筒1本)あたりお金を払うのが普通です。「ご自由に使えます」と言われたらラッキーと思いましょう。

念のためお伝えしますが、山小屋スタッフが皆様を気持ちよくお迎えするために洗濯するのは当たり前です。

2:トイレは有料だと理解しておきましょう。街中のトイレ常識は忘れておきましょう。もちろん、小屋宿泊者は宿泊料金に含まれているので都度払う必要はありません。トイレットペーパーは分別するシステムも多いです。宿泊先の山小屋のトイレシステムに従いましょう。

月山のバイオトイレ 
月山のバイオトイレ 

3:乾燥室は雨で濡れた服やレインウェアを干すところです。当然、洗濯物干場でもありません。乾燥システムには能力限界があります。玄関先(風雨が強くなければ)でおおよその水滴は払っておくと良いです。パックカバー(リュックサックの外側を覆う雨よけ)も同様です。乾燥室内が蒸し風呂状態になるのでパリパリに乾くと思ってはいけません。

凍えるほどでなければ自分で着ている方が早く乾きます。限られた乾燥スペースなので干しっぱなしにせず、早めに回収します。慌てての取り間違えも多いからです。

外は雨 炎のありがたさがわかる時
外は雨 炎のありがたさがわかる時

4:小屋へは遅くとも午後3時までに到着しましょう。小屋の食事は17時から始まることが多いです。宿泊者が多い場合は小屋への到着順に入れ替え制となることでしょう。遅くなるときは前もって連絡します。時間の余裕はもしものトラブルに対処する余裕となり遭難を未然に防ぐことにつながります。「遅くまで頑張って歩いた自分を誇る」姿はスマートに見られることは絶対にありませんので念のため。

5:小屋にはゴミ箱がないと思いましょう。小屋で購入したものでも持ち帰る体力と器量があれば素晴らしいです。生ごみや可燃ごみを減量し最終的に高い費用をかけてヘリコプターで下ろしています。

宿泊料を払って泊っているから良いというより、山で出したゴミを自分で下ろしたのだ!という気持ちが素敵だと思います。

6:山小屋では地図を売っていません。自分の登山計画です。地図とコンパスを持ち登山ルートの概念を頭に入れてくるのが普通です。スマホの予備電源がないとGPSアプリもメールもできなくなります。山小屋は燃料を使った発電機で電力を得ています。充電できるかどうかは山小屋によって違います。充電不可能な小屋も多いので予備電源があると安心です。

スマホのGPSアプリと併用して活用したい地図とコンパス
スマホのGPSアプリと併用して活用したい地図とコンパス

7:熊鈴は山小屋内で絶対に鳴らさない。ポピュラーな登山道や大勢で歩いているときに「熊鈴」が本当にいるのか、よく考えましょう。山歩きでは風の音、小鳥のさえずり、雨風など様々な自然の音が満ち溢れています。ラジオや熊鈴が本当に必要な状態なのかよく考えたいものです。

山小屋の遮音性は低く、プライベート空間はあまり多くありません。廊下や部屋でバタバタと歩く、大きな声で話す、宴会をする、夜になって明日の準備のパッキングをするのはやめましょう。明日の準備は夕食後に済ませます。消灯時間前でも就寝スペースは語らいの場所ではありません。山小屋指定の談話室でお過ごしください。

チングルマが朝露に濡れて輝く
チングルマが朝露に濡れて輝く

8:登山靴は自己管理です。玄関の靴箱に荷札を付ける山小屋もありますが、ビニール袋が配られ自主管理するところも多くなりました。それだけ履き間違いが多いのです。

自主管理が基本の下駄箱  人気モデルの履き間違いも多いのでご注意!
自主管理が基本の下駄箱 人気モデルの履き間違いも多いのでご注意!

9:登山道以外に入らない。写真を撮るだけだから、「ちょっとだけ!」と踏み込んではいけませんね。トレッキングポールもゴムキャップをしておかないと山道が穴だらけになってしまい土壌が流れ出してしまいます。

来年、訪れたとき悲しい状態になっていませんように、と願うだけでなく、一人一人が実践して共有していきたいものです。

穴だらけにされた登山道が悲しい
穴だらけにされた登山道が悲しい

10月に入ると各地の山々は紅葉のシーズン突入です。厳しい自然環境の中にある山岳観光地、その良い部分だけ体験しに行くのですから、都会の常識を持ち込まず不自由さを楽しんでください。

冬の訪れ前の輝きは自分の眼で
冬の訪れ前の輝きは自分の眼で

出かけた先の山小屋スタッフに明るく「こんにちは、今日はよろしくお願いね。」と声掛けして、わからないことがあったら聞いてみてください。きっと優しく教えてくれると思います。

「夏山シーズン到来、クールな登山者がしている山小屋9つのルール」 ⇒こちら

良い山旅を!

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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