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津波注意報、とるべき対応は? 「高台へ避難」の呼びかけは妥当なのか

片平敦気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属
気象庁作成の津波情報に関するパンフレット、および気象庁の津波情報HPより引用。

 昨日(2019年6月18日)22時22分に山形県沖を震源とする大きな地震が発生した。気象庁の観測によると、この地震により、新潟県村上市で震度6強、山形県鶴岡市で震度6弱の激しい揺れに見舞われた。

 

各地で観測された震度(気象庁HPより引用)。
各地で観測された震度(気象庁HPより引用)。

 まず、この地震により被害に遭われた方々に心からお見舞いを申し上げる。また、これ以上被害が広がらないことを祈っている。さらに、気象庁によると、過去の事例では大地震発生後にその近くで同程度の規模の地震が再び起こったこともあり、揺れの強かった地域では引き続き今後1週間程度は大きな揺れを伴う新たな地震の発生に警戒していただきたいところである。

 

 さて、この地震により津波の発生が予想されたことから、地震発生直後の昨夜22時24分、気象庁は震源に近い沿岸部に「津波注意報」を発表した(翌19日01時02分にすべて解除された)。この津波注意報の「伝え方」について私には気になることがあり、本稿を執筆した次第だ。

 

 津波注意報の発表を踏まえた呼びかけとして、SNSや一部テレビ報道において、「直ちに安全な高台へ避難してください!」という内容の強い警告を少なからず目にしたのである。

 

 気象庁が発表する「津波注意報」は、20cm以上1m以下の津波が予想される場合に出される。この状況は、東日本大震災後の検討会などでも議論されたことであるが、「海の中や海岸付近は危険」というレベルの危険性になるのだ。この場合、住民がとるべき行動としては、

「海の中にいる人はただちに海から上がり、海岸から離れる。」

「潮の流れが速い状態が続くので、津波注意報が解除されるまで海に入ったり海岸に近づいたりしないようにする。」

となっている。(気象庁の津波予報発表文より。趣旨を変えない範囲で、語尾など筆者が一部改変。)

 

津波注意報・警報の意味やとるべき行動の解説(気象庁リーフレットより引用)。
津波注意報・警報の意味やとるべき行動の解説(気象庁リーフレットより引用)。

 建物を大きく倒壊させたり、内陸まで深く侵入・襲来したりする津波は、警報レベルから上の段階で、今回のような注意報レベルは「海から出る・海岸から離れる」が基本の対応になるわけだ。

 

 実際、今回の地震に伴う津波では、気象庁が把握する観測点(検潮所)での最大の津波の高さは10cmだった(新潟で19日00時06分に観測)。局地的な地形の影響で予想値よりも高い場合もあり得ると言われるが、現時点では、少なくとも今回は津波注意報の範囲を逸脱するほどの「想定以上」の津波は発生していないと思われる。

 

今回の地震により観測された津波の高さの最大値(気象庁HPより引用)。
今回の地震により観測された津波の高さの最大値(気象庁HPより引用)。

 もちろん、予報に100%はないのだが、その不確実性を踏まえつつも、どこまで「想定外」「想定以上」を考慮して行動するべきなのだろうか。結果論と言われるかもしれないが、過剰な警戒呼びかけが続けば、東日本大震災の時のような極めて大規模で深刻な事態に直面した際ですら、「またか」と感じられ、いわゆる「オオカミ少年化」を招く懸念があるととても心配している。

 

筆者のツイッターでの呼びかけ。気象庁HPをもとに、津波注意報の意味や解説を呼びかけた。
筆者のツイッターでの呼びかけ。気象庁HPをもとに、津波注意報の意味や解説を呼びかけた。

 せめて情報の伝え手は、その意味を事前から正しく理解しておき、災害が予想される場合には、適切な情報の伝達・解説をすべきだと思う。実際、今回の津波注意報を伝えるテレビ報道の中でも、津波注意報の意味や発表時のとるべき行動について、冷静に適切に呼びかけている解説も私は見かけることができた。最終的にとる行動は、情報の受け手の方々の判断に委ねられるとは思うものの、ただ「煽る」のではなく、科学的・客観的に予測される情報を分かりやすく、かつ、誠実にお伝えすることが重要ではないか、と感じた次第だ。「正しく怖がる」ために、情報を伝える側の人間の責任はとても重いと、自戒を込めて強く感じる。こうした命に関わる情報を伝える際には、安易な「安心情報」にならないように細心の注意を払いつつ、一方で、無用な不安をもたらすこともないように適切な情報提供・解説に努めるべきだと思う。

 

 また、受け手である住民の方々一人ひとりも、事前から積極的に情報の意味や使い方を把握しておき、自らがどう行動するかをしっかりと想定しておく、訓練しておくことが肝要だとも改めて痛感している。情報の意味や使い方を事前に知り、ハザードマップなどで地域が持つ災害のリスクを把握し、いざという時に適切に行動できるように備えておくことが非常に大切だと、強く申し上げておきたい。

 

 

【参考文献・引用資料】

・気象庁ホームページ

● 地震情報:http://www.jma.go.jp/jp/quake/index.html

● 津波情報:http://www.jma.go.jp/jp/tsunami/

● 報道発表資料:http://www.jma.go.jp/jma/press/1906/19a/201906190030.html

● 津波情報の解説:http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/joho/tsunamiinfo.html

気象解説者/気象予報士/防災士/ウェザーマップ所属

幼少時からの夢は「天気予報のおじさん」。19歳で気象予報士を取得し、2001年に大学生お天気キャスターデビュー。卒業後は日本気象協会に入社し営業・予測・解説など幅広く従事した。2008年ウェザーマップ移籍。平時は楽しく災害時は命を守る解説を心がけ、関西を拠点に地元密着の「天気の町医者」を目指す。いざという時に心に響く解説を模索し被災地にも足を運ぶ。関西テレビ「newsランナー」など出演。(一社)ADI災害研究所理事。趣味は飛行機、日本酒、アメダス巡り、囲碁、マラソンなど。航空通信士、航空無線通信士の資格も持つ。大阪府赤十字血液センター「献血推進大使」(2022年6月~)。1981年埼玉県出身。

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