台風第24号、大阪湾で懸念された「台風第21号の再来」にならなかった理由

台風第24号の衛星雲画像(2018年9月30日09時、ウェザーマップ資料より)。

■ 過去最大規模の事前対策

 台風第24号が日本列島を縦断していった。

 

 9月上旬には台風第21号も西日本に襲来し、特に大阪湾周辺では記録的な暴風や高潮による浸水のため甚大な被害が発生し、まもなく災害の発生から1か月経つにもかかわらず、現在も復旧作業が続いている。台風第21号の襲来時には、沿岸部では高潮で多くの自動車やコンテナが流され、大規模な停電も発生した。また、関西国際空港は滑走路やターミナルビルが浸水し、空港へ渡る連絡橋にもタンカーが衝突して破壊されるなど、復旧まで長期間を要した大きな被害になったことが広く報じられた。潮位や暴風の観測値は、1961年に襲来した「第二室戸台風」に匹敵するものとなり、大阪湾周辺では歴史に残る大きな被害をもたらした台風となった。

 

台風第24号の経路(速報解析)。10月1日12時に温帯低気圧になった。(ウェザーマップ資料より)
台風第24号の経路(速報解析)。10月1日12時に温帯低気圧になった。(ウェザーマップ資料より)

 今回、列島を縦断した台風第24号も、西日本接近前から「台風第21号に匹敵する勢力で、近畿にかなり接近・上陸するおそれ」(大阪管区気象台)と予想され、近畿各地では過去最大規模と言っても良いほどの事前対策が講じられた。JRをはじめとする鉄道の事前予告の上での運休、大型百貨店の臨時休業など、通勤・通学で多くの人が移動する平日ではなく日曜日だったということもあるだろうが、事前から相当な規模で計画的に都市機能を停止させたと思う。また、台風第21号で浸水被害の出た関西国際空港は、今回は滑走路の閉鎖を事前に決め、土のうを積むなどして万全の対策をとるなど、極めて異例の態勢で台風第24号の襲来に備えたと言えるだろう。

 

 しかし、大阪湾付近に限って言えば、吹き返しの風こそ強かったものの、台風第21号の再来のような暴風雨や高潮には至らなかった。最悪の事態は免れることとなり良かったとも言えるが、一方で、厳重に備えていたのにこの程度で、「空振りだった」「予報が外れた」と思われた人もいたかもしれない。

 

 なぜ、大阪湾付近では前回・台風第21号襲来時のような暴風・高潮にはならなかったのか。台風の進路や勢力の予報が外れていたのだろうか。(以下、台風の中心気圧や上陸地点などは、気象庁の速報解析に基づく。今後の精査により、修正される可能性があることに留意。)

 

 

■ 2つ続いた「非常に強い」勢力での台風上陸

 台風第24号は、非常に強い勢力を保ったまま西日本に接近し、9月30日(日)20時頃、和歌山県田辺市付近に上陸した。上陸時の中心気圧は950hPa、勢力は「非常に強い」だった。前回・台風第21号は9月4日(火)12時頃に徳島県南部に上陸したが、その際も950hPa・「非常に強い」勢力で、今回の台風第24号と同じ勢力だったと言える(なお、台風第21号は9月4日(火)14時頃に兵庫県神戸市付近に再上陸している。この際の中心気圧は955hPaになったが、勢力は引き続き「非常に強い」だった)。

 

 台風が「非常に強い」勢力で九州・四国・本州・北海道に上陸するのは、前回・台風第21号が25年ぶりのことであったが、その次に襲来した今回の台風第24号も「非常に強い」勢力での上陸となり、2つ続けてという異例の事態となった。

 

 勢力の強さについて見てみれば、台風第21号に匹敵する勢力で近畿に襲来するという見通しは適切だったと言える。それでも、大阪湾付近では影響がまったく違うという状況になったのは、台風の通過したコースの違いが大きな要因と考えられる。

 

 

■ 台風第21号と台風第24号のコースの差

 大阪湾台風の中心との位置関係に注目してみていく。

 

2つの台風の経路。(気象庁資料をもとに筆者作成)
2つの台風の経路。(気象庁資料をもとに筆者作成)

 前回の台風第21号の中心は、淡路島付近を通過し、神戸市付近に上陸、北上した。台風の進行方向右側に大阪湾が位置している。

 一方、今回の台風第24号の中心は四国沖・紀伊水道の南を進み、紀伊半島を北東へ進んだ。台風の進行方向左側に大阪湾が位置している。

 どちらも「近畿地方に上陸」とは言え、詳細に見れば中心の通過したコースが100km程度離れており、大阪湾の湾奥部との最短距離はザッと見て、台風第21号は30km程度西~北、台風第24号は大阪湾の60km程度東~南、ということになると考えられる。

 

 台風の進行方向を見て右側に入るか、左側に入るかというのは、非常に重要な意味を持つ。一般に、台風周辺で特に風が強いのは、進行方向に向かって左側よりも右側の地域なのだ。

台風周囲の風。2つが同じ方向で合成される、台風の進行方向右側で風が強まりやすい。(筆者作成)
台風周囲の風。2つが同じ方向で合成される、台風の進行方向右側で風が強まりやすい。(筆者作成)

 台風は低気圧の一種であり、周辺の風は反時計回りに中心へ吹き込む。台風が同じ場所に静止していれば右でも左でも同じような風の強さになるはずだが、台風が動いているとなると話は別だ。台風が移動する速度ぶん(=台風を流す周囲の風)が重なるため、反時計回りの風と同じ方向となり風が強まるのが右側、相殺されて弱まるのが左側となるのである。速度が速い台風ほどこの傾向が大きい(速度ぶんが加味されるため)。

 

 日本付近を北~北東へ進む多くの台風の場合、台風の進行方向右側では、南~南西からの風が強化されることになる。

 さらに、西~東日本の太平洋側は南に向いた湾が多く、強い南~南西風が吹くと、暴風により大量の海水が沿岸に押し寄せられるうえ、台風接近による気圧低下(=海面の吸い上げ)も加わって、台風の勢力やコース次第では暴風に加えて大規模な高潮が発生するおそれがある地形的な特性も大きい。かつて、大阪湾では室戸台風ジェーン台風第二室戸台風により暴風・高潮の甚大な災害が発生したが、いずれも大阪湾のすぐ西を勢力の強い台風が北上したことが原因だった。台風第21号は第二室戸台風と類似したコースを通り、やはり同様に暴風・高潮による大きな被害をもたらしたのである。

 

 

■ 台風の進路予報の誤差

 では、今回の台風第24号は、進路予報が「外れた」と言って良いのだろうか。そう言い切れるほど簡単なことではない。

 

 気象庁が発表する台風の進路予報は、影響の大きさや予報精度を鑑み、一本の線でピンポイント的に予測することはせず、ある程度の誤差幅を見込んだ「予報円」方式を採用している。対象となる予想時刻に台風の中心が進むであろう地域を円で示す(70%の確率で設定)。予報円で表示することで、左右へのブレ、速度(前後)のブレを含めて発表しているのだ。

台風の進路予報の誤差の年ごとの値。年々精度が良くなっている。(気象庁ホームページより)
台風の進路予報の誤差の年ごとの値。年々精度が良くなっている。(気象庁ホームページより)

 予報円の中心と実際に台風が進んだ位置で、どの程度の差があったかの検証を気象庁では毎年行っており、24時間先の予想であれば2017年の結果では「誤差82km」とされている。暴風や、特に湾ごとの高潮の予想に関しては、この誤差は決して小さくない。

 

 今回の台風第24号は、近畿に上陸する約12時間前の9月30日9時には、九州の南にあった。その際の12時間後の進路予報(同日21時対象)では、予報円の中心が「奈良市付近」で、予報円の半径は70kmだった。近畿地方を通過する可能性は非常に高いと見込まれたが、近畿地方のどこを通過するかは結構幅が大きい。

台風第24号の9月30日9時の進路予報と、実際の経路。(気象庁資料をもとに筆者作成)
台風第24号の9月30日9時の進路予報と、実際の経路。(気象庁資料をもとに筆者作成)

左右のブレは、大阪湾のスケールから考えればかなり大きかったのだ。最も北側のコースをとれば「四国→淡路島の西→兵庫県→若狭湾」、最も南側のコースをとれば「四国沖→紀伊半島→伊勢湾」と言えるため、大阪湾にとって最悪のシナリオである「大阪湾の少し西を進む」展開も十分に考えられたのである。

 

 予報円の中のどこへ進むかは、定義上、差がない。コンピュータシミュレーションなど予報資料上はある程度絞り込むことができる場合もあるが、今回は「北側コース」へ進む可能性を否定できる状況ではなかった。また、台風の進行が前日29日(土)の予想よりもやや遅い傾向となり、近畿を通過するタイミングが大阪湾周辺の満潮時刻(20~22時頃)と重なることも懸念され、可能性が十分にある最悪コースを進むとなれば、台風第21号襲来時と変わらないような大規模な高潮や暴風の被害が発生してもおかしくない状況だったのである。

 

 

■ 最悪の事態を想定した対応

台風第21号と台風第24号の時の大阪の潮位変化。(グラフは気象庁ホームページより引用、警報基準の線など筆者により強調加工)
台風第21号と台風第24号の時の大阪の潮位変化。(グラフは気象庁ホームページより引用、警報基準の線など筆者により強調加工)

 いざ台風が過ぎ去ってみれば、結果論だが、大阪湾付近に限ってみれば前回・台風第21号襲来時とは大きく異なり、極端な暴風や高潮は発生しなかった。各観測点の風速や潮位のデータは、前回とは比較にならないほど小さくて済んでいる。

 

 しかし前述した通り、大阪湾にとって最悪の事態になるかどうかは、今回はいわば紙一重だったと言える。

 今回のように起こり得る未来のひとつとして最悪の事態が十分高い可能性とともに想定される場合、どう対処するか。

 当然ながら、少しでもピンポイントに近い形で精度よく進路を予報するための技術開発・研究を気象庁や研究機関が引き続き強く推し進めていくことは必要だが、情報の伝え手としての我々気象解説者や、受け手としての利用者の方々の心構えや受け止め、読み解きの力も防災上非常に大切なことだろうと思う。

 

台風第21号の暴風により転覆した複数の自動車。(大阪市住之江区にて9月5日に筆者撮影)
台風第21号の暴風により転覆した複数の自動車。(大阪市住之江区にて9月5日に筆者撮影)

 気象解説者は、最悪の事態を想定した解説とともに、なぜそうした見通しが示されるのか、どの程度の信頼度なのかを丁寧に解説し、どのように利用したらよいのかなど、効果的に利用してもらうための行動指南的な解説も含めて行うべきと考える。また、「予報円形式」も含めた台風情報のあり方についてもそうだが、情報の作り手であり伝え手でもある気象庁とともに、不確実性を含む気象情報をどう伝えるのがより効果的なのか、いっそうの検討が必要だと思う。

 

 利用者の方々も、甚大な被害があり得ると想定されるのなら、危険性がある以上は事前の対策を十分に講じて対策する必要があると思う。各々がかけられるコスト・労力と、起こり得る被害の大きさや、さらにはその可能性の大きさも含めて天秤にかけて、最終的には総合的な判断をすることになるが、幅のある情報をどう使うか、それぞれの立場に応じてぜひ考えてほしいと思う。

 

 

<引用・参考資料>

 気象庁ホームページ 台風進路予報の精度検証結果 

 

(なお、シリーズ記事『本当に「命を守れる」防災を考える』の第5回(最終回)は、鋭意作成中です。今回は、台風第24号の接近・通過に伴って筆者が感じた内容をお伝えする記事を先に掲載しました。)