運用開始3か月 「世界最新鋭」ひまわり8号・驚異の実力

ひまわり8号が捉えた2015年台風第21号。眼の内部など微細な構造までくっきり。

■ ひまわり8号 なにがすごいの?

2015年7月7日に正式運用を開始した気象衛星ひまわり8号。世界最新鋭の機器を備え、これまでの7号に比べて、観測性能が格段にアップしています。「より頻繁に」「より詳細に」「より豊富なデータを」観測していると言えるでしょう。

観測頻度はこれまでの「30分に1回」から最高で「2.5分に1回」に上昇。急激に発達する雲を見逃すことなく捉えられるようになりました。

撮影画像の解像度も、従来の2倍に。これまでは捉えにくかった小さな雲まで詳細に撮影でき、災害を引き起こすタイプの雲かどうかの判別などがいっそう精度良く行えるようになりました。

また、撮影する画像の種類も5種類から16種類になり、データが豊富に。これらの画像を組み合わせることで、撮影された雲の正体により詳しく迫ることができたり、判別が難しかった海氷・火山灰・黄砂などを的確に把握できたりするなど、いっそう高度な気象予報を行えるという期待が高まっています。さらに、光の3原色の赤・緑・青それぞれのデータを観測することで、静止気象衛星としては世界で初めて、人間の目で見た時と同じ「カラー画像」を撮影することにも成功しています。

以上の3つがひまわり8号の、これまでのひまわり以上に性能が向上した主な点と言えます。

■ 積乱雲の急発達を見逃さない!

夏は日本の各地で突然の雷雨が起こります。特に近年は短時間に降る強い雨が増加するなど降り方が「凶暴化」している傾向で、突然の激しい雨をもたらす積乱雲の発生・発達をいかに素早く捉え、警戒や注意を迅速に呼びかけられるかが防災上の重要な課題となっています。

急発達する積乱雲域。実際はこの2倍の2.5分毎の観測。(可視:バンド3画像)
急発達する積乱雲域。実際はこの2倍の2.5分毎の観測。(可視:バンド3画像)

2015年8月8日のひまわり8号の観測では、紀伊山地で急激に発達する積乱雲の姿が見事に捉えられていました。

13時の段階ではまだ狭い範囲ですが、その後の1時間で積乱雲が急激に発達・拡大。14時前には高度1万5千メートル以上にも達した雲の上端が周囲に大きく広がり、一帯を広く覆い尽くしているようすが一目瞭然です。これまでの30分間隔の撮影では十分に捉え切れなかった積乱雲のリアルタイムでの発達状況がしっかりと観測されています。

高頻度化・高解像度化により、急激に発達する積乱雲を確実に捉え、その発達するプロセスを目の当たりにすることができるのです。こうした観測データを迅速に利用することで、これまでよりもいっそう効果的なタイミング・内容での防災情報発表が可能になるかもしれません。いわゆる「ゲリラ豪雨」の発生・発達をいち早く捉え、警報・注意報などの素早い発表に活かせるのではないかと期待されています。

■ 猛烈台風の詳細な姿を観測

2015年9月28日、発達した台風第21号は石垣島など先島諸島の南の海上を西へ進みました。与那国島では最大瞬間風速81.1m/sの尋常ならざる暴風を観測。富士山頂での観測値を除けば、過去には1966年の第2宮古島台風、1961年の第2室戸台風で観測された記録的な暴風に次ぐ、国内歴代第3位の猛烈な風でした。与那国島では建物の倒壊や風力発電施設の損壊など大きな被害が出たことは記憶に新しいところです。

2015年台風第21号(9月28日16時・可視3バンドカラー合成画像)。
2015年台風第21号(9月28日16時・可視3バンドカラー合成画像)。

この猛烈な台風の特徴をひまわり8号は詳細に捉えています。発達した台風の特徴であるハッキリした眼がくっきりと撮影されており、解像度が向上したことによって中心の眼の内部の細かい構造までも手に取るように分かるのです。さらに、日本付近では2.5分間隔の高頻度で撮影がされているため、撮影された画像をコマ送りして動画にして見るとその動きがいっそうよく分かります。

ひまわり8号の詳細な観測は、台風襲来時に即時的に台風の勢力推定や防災情報の発表に活かされるだけでなく、研究・開発の観点からも貴重なデータが豊富に得られると考えられます。台風の研究は、気象学の最先端分野のひとつといっても過言ではありません。研究が進むことにより、将来的には台風の進路・盛衰の予報の精度向上も期待されます。

■ 鬼怒川決壊 大規模浸水地域も克明に

2015年9月には、台風第18号から変わった温帯低気圧や東の海上から近づいた台風第17号によって暖かく非常に湿った空気が流れ込み、「平成27年9月関東・東北豪雨」が引き起こされました。関東北部を中心に記録的な大雨となり、栃木県や茨城県を流れる鬼怒川が増水。茨城県常総市では川の堤防が決壊し、濁流が街を襲いました。

2015年9月11日16時の可視3バンドカラー合成・関東付近。水害の爪痕が鮮明。
2015年9月11日16時の可視3バンドカラー合成・関東付近。水害の爪痕が鮮明。

ひまわり8号は、鬼怒川の氾濫によって発生した大規模な浸水のようすもハッキリと捉えていました。決壊翌日の画像では、周囲よりもひときわ茶色く染まった地域が撮影されており(写真左の矢印)、氾濫した茶色く濁った水によるものと考えられます。また、よく見ると、鬼怒川が合流する利根川も茶色い線としてうっすらと確認でき、その利根川が海に注ぐ犬吠埼周辺では、海の水も茶色く濁っているようすが鮮明に写っていました(写真右の矢印)。

ひまわり8号では、人間の目と同じようにカラーで見ることができるようになり、地上付近の「色」をしっかりと撮影できるのです。今回のような大規模水害のほか、太平洋側などでの広範囲での大雪後に積雪がどの地域まで広がっているか、陸地に残る白い色を見ることで容易に把握できる(雪雲が離れ、天気が回復してからですが)とも期待されています。

また、「色」を見ることにより、これまでの画像では判別しにくかった、大陸から飛来する黄砂も適確に見分けることができるようになるなど、「カラー化」がもたらすメリットは非常に大きいのです。

■ スーパームーン翌日の月の姿まで

気象衛星は地球上の雲や大気の状況を観測するのが最大の目的です。しかし、時として、地球の外に珍しいものを撮影してしまうこともあります。

2015年9月29日正午の画像には、なんと地球の左上に、宇宙に浮かぶ月の姿が写っていました。

ひまわり8号が撮影した地球と月(9月29日12時・可視3バンドカラー合成画像)。
ひまわり8号が撮影した地球と月(9月29日12時・可視3バンドカラー合成画像)。

この前日、沖縄に台風が接近していた9月28日は、今年最大の大きさの満月「スーパームーン」が話題にもなりました。海外では皆既月食も観測され、宇宙から見ると太陽と地球と月がちょうど一列に並ぶ状況。また、秋分に近い時期に当たり、赤道上空にあるひまわり8号もこの列に加わっていたのです(日本時間の正午頃は、太陽・ひまわり・地球・月の並び順になる)。

月食当日は、地球の陰に月が入ってしまいますが、その翌日はこの列から月が少しだけ外れ、ひまわりから見て地球のすぐ横の向こう側に月の姿が見えたわけです。これまでのひまわりも月食前後に偶然にも月を撮影することはありましたが、高解像度化により、クレーターなど月の表面の模様さえ、これほどはっきりと撮影されていることには驚くしかありません。

同画像を拡大したもの。月の表面の模様もよく分かる。
同画像を拡大したもの。月の表面の模様もよく分かる。

気象衛星ひまわりは、時として「宇宙に浮かぶ気象台」と呼ばれます。偶然撮影された月の姿は、その別名を強く思い起こさせる印象的な出来事でした。

■ どう使いこなすか これからが大事

ひまわり8号によるこうした詳細な観測は世界でも最先端のもので、これから数年のうちに、米国や欧州がひまわり8号と同程度の能力を持った次世代型気象衛星を続々と打ち上げる予定です。

世界が注目するひまわり8号。観測される膨大なデータはまさに「宝の山」ではありますが、これをどう使っていくのか、現在は気象庁など各方面で、実際に観測されたデータから知見を蓄積し、解析・活用の技術開発をしている段階になります。打ち上げ前から分かっていたことも多いものの、運用を開始してから判明したことも少なくないと聞きます。

防災・減災に最大限活かすため、今後の開発には大きな期待をしたいところです。また、私たち現場の気象解説者・気象技術者も常に最新の知見や解析手法を学んでしっかりと研鑽し、ひまわり8号の豊富なデータを活用したより良い気象解析・予測・解説に臨みたいと襟を正す思いです。

今後、秋から冬、春と季節が巡るにつれて、ひまわり8号で撮影される地球の姿は大きく変わっていきます。冬型の気圧配置で現れる日本海の筋状雲、春に飛来する黄砂など、どんな画像が撮影されるのか非常に楽しみです。1977年の初号機運用開始以来、今ではすっかりお茶の間にも定着した「ひまわり」による観測は、今、新たな時代に入っています。ひまわり8号の今後のさらなる活躍に、大いに期待しましょう。