「特別警報」まもなく導入1年 浮かび上がった課題とは?

特別警報のリーフレット(気象庁HP)より。まもなく導入から1年を迎える。

■ 特別警報 この1年で発表は2事例

警報の基準をはるかに上回るような気象状況の際に、重大な災害の起こるおそれが著しく高まっていることを警告して気象庁から発表されるのが「特別警報」。国会での気象業務法改正を経て、昨年(2013年)8月末から運用が開始されました。

特別警報イメージ。気象庁HPより。通常の警報をはるかに上回る事態に発表される。
特別警報イメージ。気象庁HPより。通常の警報をはるかに上回る事態に発表される。

特別警報が発表される事態というのは、気象の場合、より具体的にいえば「50年に一度」レベルの気象状況の場合。それぞれの地域において、50年に一度の大雨・暴風・高波・大雪などの事態に発表されることになっています。

ただ、2011年の紀伊半島大水害のような広域に及ぶ大災害をターゲットにしており、ごく狭い範囲でこうした状況になっても発表されることはありません。府や県程度の広がりを持って、50年の一度レベルの気象状況と判断された場合に、特別警報が発表されるとされています。

導入以来、本稿執筆時点(2014年7月17日)までに特別警報が発表されたのは2事例。昨年9月に京都府・滋賀県・福井県に出された「大雨特別警報」と、今年7月に沖縄地方に出された「大雨・暴風・波浪・高潮特別警報」です。

■ 浮かび上がった課題(1) 島嶼部での運用

昨年(2013年)10月、台風第26号による豪雨が伊豆大島を襲いました。この際は、特別警報は発表されていません。ニュースでも繰り返し伝えられましたが、伊豆大島1地域だけでは、特別警報発表の目安のひとつ「府県程度の広がり」を満たしているとは判断されなかったのが大きな理由です。

昨年10月の土砂災害警戒判定メッシュ。気象庁HPより。伊豆大島も危険度が高い。
昨年10月の土砂災害警戒判定メッシュ。気象庁HPより。伊豆大島も危険度が高い。

島嶼部(とうしょぶ)では、1つ1つの島だけでは「府県程度の広がり」には足りないことが多く、必然的に、特別警報発表の目安に達しにくい(50年に一度のレベルになっていても、海上は分からないので広域かどうか判断しにくい)という課題があることが浮き彫りになりました。

これを受けて現在は、島嶼部では本土とは別の措置がとられています。50年に一度の雨量や地盤の緩み具合となった場合、府県程度の広がりがなくても、該当する市町村に気象台からホットラインで緊急の通報を行います。また、各府県毎に発表される「府県気象情報」で、「○○市では、50年に一度の記録的な大雨となっているところがあります」をキーワードとして発信し、一層の警戒を呼びかけるというものです。

ただし、「50年に一度であれば、それは特別警報じゃないのか?」「特別警報が発表された場合と似たような文言で、紛らわしいし分かりにくい」という声も一部で出ているとも耳にします。

特別警報やそれに準ずる気象状況は、防災上極めて重大な事態です。警報は気象庁の専管事項(気象予報士もそれに沿って予報・解説することになる)である以上、気象庁がどのような運用を行っているのか、よりオープンな場での丁寧な説明の責任があると強く感じます。どんな判断のもとに特別警報発表が行われるのか、あるいは行われない場合にはどういう理由があるのか、事前にさらに丁寧に説明しておくべきです。また、実際に運用された場合には、その意思決定の経緯などが適切であったか検証し、それをホームページなどで広く国民に公開するべきだとも感じます。

■ 浮かび上がった課題(2) 想定していなかった太平洋側の豪雪

今年(2014年)2月、関東甲信地方~東北地方の太平洋側を中心に、近年例のない記録的な大雪になりました。いわゆる「南岸低気圧」による大雪で、山梨県内では広域で孤立状態になるなど、非常に大きな災害になったことは記憶に新しいところです。甲府・前橋・熊谷では過去120年ほど続く、その地での観測の歴史の中で最大の積雪となり、歴史に残る大雪になったといっても過言ではありません。

ところが、この豪雪の際にも、「大雪特別警報」は発表されませんでした。50年に一度どころか「100年に一度」レベルの豪雪だったのに発表されなかったのです。その理由は、大雪特別警報が「南岸低気圧による太平洋側の大雪」をターゲットにはしていなかったことがあげられるでしょう。

大雪特別警報の目安は、「府県程度の広がりを持って」、「50年に一度の記録的な積雪となり」、さらに、「大雪警報級の降雪がその後も丸一日程度以上続く」、というものです。これは、南岸低気圧(南岸を通過していく)のようにせいぜい1日程度の本格的な降雪をイメージしたものではなく、強い冬型の気圧配置のように何日も続くタイプの豪雪をターゲットにしたものなのです。

38豪雪時の天気図。気象庁HPより。
38豪雪時の天気図。気象庁HPより。

事例として予め挙げられていたのは、いわゆる「38豪雪」や「56豪雪」など、いずれも後者のタイプの豪雪でした。

『日本海側で長いこと雪が降り続いて、50年に一度レベルの記録的な積雪になってしまった』→『さらに今後、これから1日以上は警報が出るようなドカ雪が予想されており、非常に危険な事態が懸念される』 こうした場合に、大雪特別警報が発表されるわけです。

確かに、南岸低気圧の大雪であれほどの積雪になるとは、事前に十分な時間的余裕を持って予測するのは、誰にもできなかったでしょう。この点については、今後の研究や予測技術の向上に努めるしかありません。ただ、こと雪に弱い太平洋側の地域においては、「今後警報級の降雪がまだ続く」という事態と同様に、「記録的な積雪になっている」ということ・「とんでもない積雪がある」ということ自体が、甚大な災害と言っても良いと思います。

例えば、降雪ではなく、すでに積もっている雪(積雪)そのものを対象として大雪特別警報を発表するということにはできないのか、とも思います。日本海側/太平洋側で災害の性格が異なるため一律に設定するのは難しいと思いますが、より良い運用ができないか検討の余地がまだあると思えてなりません。

■ 浮かび上がった課題(3) 3つの「指標」

特別警報の指標。雨、台風等の強度、雪による3つがある。
特別警報の指標。雨、台風等の強度、雪による3つがある。

特別警報の種類は、大雨・暴風・波浪・高潮・大雪・暴風雪の6つがあります。どれも「50年に一度」レベルの事態の際に発表されますが、運用の指標が3つあって、ややこしいのです。特別警報を発表する場合の指標として、「雨による指標」「台風等の強度による指標」「雪による指標」の3つがあります。

今年(2014年)7月の台風第8号では、沖縄地方の一部に「大雨・暴風・波浪・高潮」の特別警報が発表されました(順次追加)。沖縄に接近する台風としては記録的な勢力になると予想され、「台風等の強度による指標」をもとにして特別警報が発表されたのです。そして、台風中心付近の発達した雨雲も離れていったため、特別警報は一旦解除(大雨警報に切り替え)されました。

ところがその後、台風の後ろ側に急速に発達した雨雲が現れて、沖縄本島地方にしばらくかかり続けました。これまでに降った雨による地盤の緩みや雨量が、いずれも特別警報の「雨による指標」に達し(府県程度の広がりもあると判断された)、一度解除した大雨特別警報が再び発表される事態となったのです。

実はこの運用は、今の特別警報の運用基準に照らし合わせれば妥当であり、やむを得ないものであったと思います。

まず、「台風等の強度による指標」は、接近する台風(温帯低気圧)が50年に一度レベルの記録的な勢力を持っているという「予想」に基づく発表です。その台風があまり勢力を強めないままで接近・通過しだいぶ離れていきつつあったのですから、最初の解除はしかたないでしょう。一方、「雨による指標」は、降った大雨や地盤の緩みが50年に一度の記録的な状況になっているという「実況解析」に基づく発表なのです。台風通過後の豪雨が予測できなかったのは技術的な限界で今後の精度向上を期待するよりありませんが、この「一旦解除→再発表」という流れが「特別警報の指標の違いである」というところに、特別警報の分かりにくさを痛感します。私は、ここにひとつの大きな問題があると思っています。

同じ特別警報というくくりなのに、事実上、「予想」に基づく場合と「実況解析」に基づく場合とが混在しているのは、本当に良いのでしょうか。台風の場合は、確かにある程度の精度を持って事前予測が可能とされるため、予想に基づいて早めの厳戒態勢を敷くのには非常に効果的でしょう。ただし、実際に降りました、という状況に基づく大雨特別警報も、台風の予測の場合に発表される大雨特別警報と同じように感じられてしまうのは不親切であり、分かりやすさが肝要で命に直結する情報としてはこれで良いのか、と思ってしまいます。しかも、台風により豪雨が実際に降ったという場合にも、今回のように雨による指標をもとに「大雨特別警報」は発表されるのです(前回は、勢力は記録的な台風ではなかったが、雨量などが記録的になったために京都府などに発表された)。

個人的には、例えばですが、台風による特別警報は「台風特別警報」として、雨・風・波など記録的な事態が予想されるとしたまとめた情報を発信することにし、雨の指標による大雨特別警報は「豪雨発生情報」とするなど、情報が意味することを分かりやすく伝えられるようにすべきだと思えてなりません(扱いは特別警報のままで、これまで通り、自治体は住民への周知義務を負う)。通常の注意報・警報の枠組みに無理に押し込めようとするから、分かりにくくなっているように感じます。

より良い情報体系の構築には、気象の専門家だけではなく、心理学者・行動科学者(情報がどう行動に結び付くのか)、ウェブデザイナー・コピーライター・気象解説者(どのように伝える方法がより効果的なのか)など、他分野のプロの力も借りて、総合的に設計することが大事だと強く思います。災害は待ったなしですが、私たち気象関係者だけの自己満足で拙速に形を作るのではなく、丁寧に設計していくことが、遠回りのように見えて最終的には効果的な防災・減災につながるのではないでしょうか。

情報の種類が多くて分かりにくい、という声があがっており、気象・防災の有識者による整理・統合の検討会が行われていることは承知しています。しかし、「別に作る必要が無い情報はまとめる」「別に作ることで効果的な、必要である情報は新設する」で、是々非々で行くべきではないかと感じます。

■ 浮かび上がった課題(4) やはり感じられた「警報の軽視」

2014年台風第8号前後の沖縄県那覇市の警報履歴。
2014年台風第8号前後の沖縄県那覇市の警報履歴。

前項の特別警報「一時解除」について、一部のマスコミからは気象庁に対して批判の声があがりました。ただ、よく状況をよく確かめるとと、特別警報が出ていなかった時間帯も「大雨警報」は継続中で、これは「重大な災害の起こるおそれがある」事態を示しているものです。

前項のさらなる補足になりますが、記録的な台風による大雨は免れたとみられるが、命にかかわる重大な大雨災害はまだ起こるおそれがあるため、引き続き警戒の手を緩めないように、ということになります。大雨災害への警戒は呼びかけられ続けていた、というわけです。(その後、50年に一度の記録的な豪雨が降ってしまったことは、予測技術の向上を強く願うことではありますが)

しかし、特別警報「解除」(より正確には、警報に「切替」)と聞くと「あぁ良かった」「もう大丈夫なのか」と勝手に判断してしまいかねないと思うのです。実際、前項の台風第8号でも各社の報道などを見ていて、どうしても「解除」と聞くと安心情報と感じてしまわないか、「解除」という言葉だけが独り歩きして危険だと強く感じました。

通常の情報の枠組みの中で、通常の警報よりさらに上の警報を追加すると、もともとの警報が軽視されるようになる。そうした、導入前からの懸念を強く感じた事例でした。

このような意味でも、無理にこれまでの注意報・警報の枠組みの中に「特別警報」を組み入れなくても(自治体対応などのために、法律上はそうであっても良いが)、緊急時・非常事態に出される特別な警告情報を分けて考えても良いのでは、と私には思えるのです。

■ 多種類・複雑化した情報の「煩雑さ」と「価値」

前項の通り、特別警報があるために通常の警報が軽んじられるのではないか、という懸念は運用開始前から持たれていました。もちろん、2011年の紀伊半島大水害の際に、警報基準をはるかに上回る事態になっていても、それをより効果的に伝えるすべがなく、あの大災害をもっと軽減できなかったのかと考え抜かれて出てきたものだと思います。

紀伊半島大水害で甚大な被害を受けた那智川沿いの沢。まだ巨石が残る。2013年撮影
紀伊半島大水害で甚大な被害を受けた那智川沿いの沢。まだ巨石が残る。2013年撮影

私もその当時、異常な事態になっている状況に恐怖感を覚え、テレビの解説で精いっぱい危機感を伝え続けましたが、結果的には人的被害を含む大災害になってしまい、大きな無力感を感じたこともありました。土石流発生の現場で残された巨石を目の当たりにした時、どうやったら皆さんは逃げてくれるのだろう、自分のことだと思ってくれるのだろう、と心の底から悩みました。しかしその一方で、気象予測はまだ万能ではありません。どうしても「空振り」「見逃し」が避けられない部分があります。その予測技術の未熟さと限界に憤りと悔しさも感じました。

特別警報も、災害によるそうした犠牲を最小限に減らすために、気象庁が苦心して導入した情報です。しかしながら、これまで申し上げたように、まだまだ改善の余地があるように思えてなりません。

個人的な意見ですが、私は、一般住民向けと高度利用者向けの情報は分けても良いではないか、と感じています。

一般向けには、警報と注意報。これまでの意味通り、警報は人命に関わるような重大な災害のおそれがあることを警告する予報です。平たく言えば、警報が出たら避難する必要があるかもしれないと一人ひとりが自覚する。そして、時には自分の判断で、時には自治体の避難情報を参考に避難行動に移る。実は、これは特別警報が導入された今も、全く同じ行動指針なのです。これを丁寧に丁寧に、繰り返し伝えていくことが大切ではないでしょうか。(学校教育の中に「防災」をしっかりと組み入れるべきだとも思います。それも、自分で自分の命を守れる考え方を育てる教育です)

一方、高度利用者(自治体、報道機関、民間の気象関係者、より専門的な情報を利用したい一般住民など)には、量的・面的な詳細情報を提供する。予め警報基準などその運用方法や意味することを熟知しておけば、より適切な防災対応の参考にできる、というものです。

例えば、土壌の水分量(土壌雨量指数:地盤の緩み具合)や降水量(解析含む)など、地域ごとに区切ったメッシュごとに、現状と予測がリアルタイムで更新されるイメージです。いわば気象台の予報担当者が見ているものと同じような画面を広く公開するようなことになるのかもしれません。気象関係者だけではなく、より簡単に入手できるPull型の専門情報として広く発信することが求められると思います。

気象庁「防災情報提供システム」の一画面例。福岡管区気象台HPより。
気象庁「防災情報提供システム」の一画面例。福岡管区気象台HPより。

例えば、雨量の危険度としてはどのレベルに達しているのか、それはどの地域なのか。1年に一度レベルなのか、10年に一度レベルなのか、それ以上なのか……など。自治体向けには気象台から「防災情報提供システム」という仕組みが導入されており、これには一部でそうした表示もあります。しかし、活用している自治体は多くないように感じます。これをもっと使いやすいように、雨量などの数値そのものも見られるが、その危険度をレベル化して表示するなど、高度利用者(特に自治体など)に対しては、より防災に直結した使いやすい仕様にしていくのが良いのではないでしょうか。

また、それを使ってもらうための講習会を、気象台自身のみならず、民間コンサルや気象予報士を最大限に活用して進めていくことも必要でしょう。数年に一度の異動で防災部署に配置された自治体職員に、気象というものを完璧に理解してもらうのは現行制度上厳しいと感じます。せめて、災害時に有用かつ見逃してはいけないポイントを欠かさず伝授しておくだけでも、減災につながると思えます。

なお、気象台のマンパワーの現状から考えて(国家公務員の削減で、地方の現場はギリギリと聞きます)、気象台職員の予報・警報作業としては同一の作業で、一般向け・高度利用者向けの両方の情報が出来上がる仕組みにする必要もあるでしょう。

※ 現在、気象庁の各種防災情報を今後どうしていくか、有識者による検討会が開かれていますが、その中で、今後は警報・注意報などを「レベル化」するという話も上がっています。私は、高度利用者向けにはそれで良いとも思いますが、一般向け(テレビ・ラジオなどでの放送を含む)には、警報・注意報の体系がこれまで長い間使ってきた経緯もあり、非常に分かりやすいと思えてなりません。今後の議論に注目しています。

気象庁で検討されている「レベル化」の例。気象庁資料より。
気象庁で検討されている「レベル化」の例。気象庁資料より。

■ 「非常事態」をどう伝えるか、どうやって行動につなげるか

私が今生活している大阪には、かつて「第二室戸台風」(昭和36年台風第18号)という大台風が襲来しました。この際に、大阪管区気象台長だった大谷東平(おおたに・とうへい)は、通常の警報だけでなく、「大阪管区気象台長の特別の警告を申し上げます。大阪は最悪の事態となります。」という特別の「警告」を発出し、より一層の警戒を呼びかけ、被害の軽減に効果を発揮したと伝えられています。

もちろん、今とは時代が違いますが、「普段と違う」ということをどう伝え、住民一人ひとりに危機感を伝えられるかという点は、今も昔も変わらない防災上重大なポイントだと思います。特別警報発表の際に、気象庁本庁や地元気象台で予報課長や気象台長が「緊急の記者会見」を開くという今の手法は、そうした意味でも適確な方法だと考えられます。ただ、毎回全国のどこかで特別警報が出されるたびに、東京での記者会見がニュースで伝えられ全国津々浦々に流れると、慣れてしまい「またか」と思う心配もないことはありません。報道する方法や記者会見の頻度など、さらなる検討が必要でしょう。ベストなタイミングで、普段より一歩踏み込んだことをする、というのは非常に難しいことではありますが、より良い防災情報の作成・伝達方法を模索し続けることが必要なのだと感じます。

また、私たち一人ひとりがそれぞれの立場で、防災・減災に最善を尽くすことも忘れてはいけません。気象情報は、あくまで皆さんの避難・防災行動の「サポート」情報で、最後に命を守るのはあなた自身です。予測精度の向上や適切な発表・伝達など、私たち気象関係者も最善を尽くすために日々努力しますが、残念ながら、気象情報はまだ100点満点ではありません。その100点に足りない部分は、皆さん一人ひとりの行動や心構え次第で、だいぶフォローできるのです。

予測・解説をする気象関係者、避難情報や対応を行う地元自治体の防災担当者、そして実際に考えて行動する住民一人ひとりが、それぞれの役割で最善を尽くして、大雨や台風など大きな気象災害を乗り切りたいものです。