超高齢化、東北の町で開かれる「男の介護教室」、実はグローバル最先端の発想

宮城県石巻市で開かれた「男の介護教室」で料理や介護を習う男性たち

 2011年の東日本大震災から6年以上。被災地では「復興支援」をきっかけにした「持続可能なまちづくり」に向けて様々な活動が行われている。中でも興味深いのが、国際協力NGO・JENが関わる「男性介護者支援」。

 全国平均と比べても高齢化率が高い石巻市では、妻や母を介護する男性が少なくない。彼らを支援する仕組み、細かなノウハウをJEN東北事業統括の高橋聖子(きよこ)さんに聞いた。

Q:宮城県石巻市で「男性介護者支援」が行われています。

高橋:はい。石巻市では東日本大震災後に急速に高齢化が進み、様々な課題が顕在化していますが、そのひとつに男性の介護者の孤立があります。近年、全国的に「お嫁さん」による介護が減っており、介護の担い手が実子や配偶者に移ってきています。

 その結果、男性の介護者が増え、介護者全体の3割を超えました。男性の介護者は孤立する傾向が強く、介護殺人などの深刻な事態に陥りやすいことは全国的な傾向であり、福祉関係者や研究者の間では深刻な問題と言われていますが、なかなか有効な手立てがありません。

 危機感を持った石巻市のケアマネージャーの高橋恵美氏と石巻市雄勝歯科診療所所長の河瀬聡一郎氏が中心となって、市内の歯科関係者や医師、ケアマネージャー、栄養士等の多職種の方々に声をかけて、ボランティアで「男の介護教室」を2014年から始めました。JENは2015年秋から支援をしています。

「男の介護教室」を始めた河瀬医師。歯科が専門で震災後に首都圏から支援に来た。(写真:菊池恩恵)
「男の介護教室」を始めた河瀬医師。歯科が専門で震災後に首都圏から支援に来た。(写真:菊池恩恵)
河瀬医師と共に「男の介護教室」を始めた石巻市のケアマネジャー高橋恵美氏。(写真:菊池恩恵)
河瀬医師と共に「男の介護教室」を始めた石巻市のケアマネジャー高橋恵美氏。(写真:菊池恩恵)

Q:高齢化そのものは日本全国で進んでいる課題です。医師やケアマネジャーが危機感を抱いた理由があるのでしょうか?

高橋:確かに、人口に占める65歳以上の方の割合、いわゆる高齢化率を自治体単位で見ると、石巻は日本全体とそう変わらないかもしれません。高齢化率は全国平均で27.3%、石巻市で31.09%です(2017年3月時点)。

 ただし、東日本大震災で津波被害の大きかった半島地域は、高齢化率がさらに高くなっています。例えば、牡鹿では46.49%と人口の半分近くが高齢者です。こうした地域で介護は、今、目の前にある課題なのです。

Q:教室では何を教えるのでしょうか?

高橋:専門家による健康維持等の講話を聞いていただき、参加者自身が調理実習を行い、皆で食事をした後に、グループディスカッションをしています。開催は2カ月に1回程度で、参加者も、スタッフも「男技」と書いたお揃いのエプロンを来て楽しんでいます。

 参加者の方々にとって「教室」は、技術や料理を習う場であることに留まりません。同じ立場の男性介護者に会えることが、とても大事です。他の介護教室や介護者の集いではどうしても女性の参加者が多くなります。男性は女性同士のおしゃべりの輪に入っていけなかったり、男性ならではの介護の悩みを共有しにくいのが現実です。

 一方、「男の介護教室」では、「外出時のトイレ介助に困る(女性用トイレに入れないから)」「料理のレパートリーが少ない」などの男性同士だからわかりあえる悩みを共有できます。また、歯科医師やケアマネージャー等の専門家と気軽に相談できる関係を築くことができます。なにより「一人じゃない」と思えることが大事です。継続して参加してくださる方がほとんどで、「男の介護教室」がひとつの居場所になっていると感じます。

「男の介護教室」運営スタッフ。参加者も同じ「男技」と描かれたエプロンをつける。(写真:菊池恩恵)
「男の介護教室」運営スタッフ。参加者も同じ「男技」と描かれたエプロンをつける。(写真:菊池恩恵)

Q:介護者として少数派であるがゆえの悩みが解消されそうな場ですね。具体的にはどんな工夫があるのでしょうか?

高橋: 「男の介護教室」のスタッフが参加者の困り事や悩みを考えながら企画することで、「教室」の細部に、様々な工夫がこらされています。例えば男性介護者の方が参加しやすいように、ケアマネージャーが丁寧に声掛けをするのはもちろん、初めて料理をする男性も「やってみよう」と思えるように、冷凍食品をアレンジした料理を教えることもあります。料理は毎日のことなので、栄養価が高く手間がかからない、作り続けられるメニューを工夫して実習しています。

 スタッフは楽しい雰囲気作りのために、メイクまでして楽しい寸劇で介護実習して見せます。続けて通ってもらえるように、資料のバインダをプレゼントしたり、雑談が苦手な方も他の参加者と話ができるように、お題を提示してファシリテーションすることもあります。2017年は、石巻市を中心に5カ所で教室を開催し、1回につき10~30人が参加されています。

Q:もともと家事に慣れている女性とは異なる工夫をしているのですね。

高橋: そうです。また、私は現在、この「男の介護教室」の事業評価のためにインタビューやアンケートを実施していますが、次のことが明らかになっています。

 介護福祉や医療・歯科等の専門家であるスタッフにとっては、「男の介護教室」開催を通じて、幅広く要介護者と男性介護者の生活の理解が進み、それにより、さらに適切なサポートができるようになったり、多様な職種の方々との関係を築くことができたりするという利点があります。講話や実習をスタッフ自身も参加することで、知識の幅を広がったなど、通常業務では得られない効果があり、本職のほうでも「男の介護教室」で得られた知識や人脈を活用しているそうです。

 また、高齢化の進む地域で支え合う仕組みをつくることを目指す、地域包括支援センターや施設にとって、「男の介護教室」は地域の専門家がつながったり、介護者同士がつながったりする、社会資源の開発のツールとしてとらえられています。河瀬代表や高橋副代表が、男性介護者支援のカギとなる様々な行政や民間事業者の関係者に教室のお手伝いや視察を呼び掛けていることで、男性介護者への理解がすすんできました。

 参加者だけでなく企画運営する側にも学びがあることが特徴です。

'''Q:「男の介護教室」を運営する方々は、地域に住む医療や介護の専門家です。一方、高橋さんの所属は国際NGO。高齢化が進む日本の地域とは一見、結び付かないように思えますが、どんな共通点がありますか。

'''

高橋:実は、国際NGOが取り組む課題と、地域の課題は共通点があります。もともと、私たちは、援助する側/される側という一方的な関係性を想定していません。支援者も参加者も、お互いが得るものがあるという「互酬性」のある関係を想定しています。

 女性だけでなく男性が介護力をつけること、専門家同士、介護者、要介護者同士がつながっていくことは、地域に力をつけていくことを意味します。これは、国連が策定した持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)が掲げる理念にも合致します。地域が課題に取り組む力、つまり「レジリエント」な社会を作っていくことになりますから。

 例えば先日「男の介護教室」を実施した、石巻市沖合に浮かぶ網地島(あじしま)は、2010年時点で高齢化率が74%に達しています。こうした地域で住民の方が生きやすい基盤を作っていく、そのために必要な介護の技能を磨いたり、人と人がつながることが、非常に大事なのです。

Q:SDGsというキーワードは最近よく聞きます。

高橋:国内外の様々な組織、地域の取り組みを見てきて感じることがあります。グローバル・スタンダードとか、国連といったキーワードと、一見最も遠く感じる方々の取り組みが、実はいちばんSDGsの理念を体現している、ということです。

 日本は少子高齢化による人口減少を他の国より早く経験しています。東北の被災地は「課題先進地域」と言われる状況にあるからこそ、課題に取り組む知恵も多く出やすいはず。石巻市の取り組みから得られる教訓が、多くの方々と共有され、今まで経験したことのない高齢化社会に突入していく時代のヒントの一つになればと思います。

インタビューに答えた高橋聖子(きよこ)さん
インタビューに答えた高橋聖子(きよこ)さん

高橋聖子

国際協力NGOのスタッフとして途上国ので緊急支援、復興支援、地域開発事業に従事。東日本大震災以降は、国際基準に基づく事業形成や評価等、国際協力の知見を活かして東北の地元のNPOに対するサポートを行う。英・イーストアングリア大学 開発学修士。