地域公共交通は生き残れるのか ~政府行政事業レビューを振り返って~

地方の公共交通は今のままでは立ち行かなくなることは明らかである(写真:アフロ)

住民の移動手段確保という課題

日本の人口は減少局面を迎えており、今後人口減が進むことは明らかだ。さらに、地方から都市部への人口の流入が続いている。地方は、今後も進む人口減少や少子高齢化への対応が急務となっている。

その中でも、課題が顕在化しているのが、住民の移動手段の確保だ。公共交通機関である鉄道やバスは大部分が民間事業。公共性の高い分野ではあるものの、民間事業者の立場から考えると、利用者が減って市場の規模が小さくなり採算が取れなくなれば撤退の可能性が高くなる。一方で、高齢になると車の運転に危険が伴うため、免許返納の必要が出てくる。平成16年~26年の10年間で、高齢者の免許非保有者は100万人増加している(免許返納者は16万人強の増加、国土交通白書より)。

ちなみに、「地域公共交通」の定義が明確にあるわけではない。「公共交通事業者」については「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称バリアフリー新法)の中で定義付けられており、鉄道事業者、軌道経営者(モノレールなど)、バス、タクシー、フェリー、航空とされているので、「地域公共交通」はこれら公共交通の中で地方部〔三大都市圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県)以外の地域〕での公共交通ととらえるとよいだろう。

バス事業を考える――秋のレビューの議論から

このように公共交通には様々な交通手段があるが、今回は「バス事業」を中心として、2019年11月12日に政府が主催して行われた「行政事業レビュー『秋のレビュー』」の「地域公共交通確保維持改善事業」の議論を題材にしながら、現在の課題と改善策について考えたい。

行政事業レビューとは、国の約5000のすべての事業について、PDCAサイクルが機能するよう、各府省が点検・見直しを行うもので、そのプロセスの一環で、秋に「外部性」「公開性」を担保した「秋のレビュー」を行っている。

筆者は、内閣総理大臣を議長とする行政改革推進会議の下に設置されている「歳出改革ワーキンググループ」の構成員の一人として秋のレビューの議論に加わっている。

「秋のレビュー」の風景(左が筆者、右は平将明内閣府副大臣、構想日本スタッフ撮影)
「秋のレビュー」の風景(左が筆者、右は平将明内閣府副大臣、構想日本スタッフ撮影)

以下、議論のたたき台として国交省から提出された資料をもとに見ていく。

1.地域のバス事業の現状

○路線バス事業の輸送人員は軒並み大幅な下落傾向。特に地方部の減少は激しい。

○「乗合バス事業」の収支は全体でも3%強の赤字構造にあり、「地方部」では11%程度の赤字(三大都市圏は3%の黒字)。

○平成20年度以降の10年間で13,249kmの路線が廃止。全国のバス路線合計約40万kmの3.3%程度に相当する。

○高齢者の免許非保有者、免許返納の数が近年増加していることなどが背景となり、高齢者を中心に、公共交通がなくなると生活できなくなるのではないかという声が大きい。

2.地域公共交通に対する主な国の支援

(1)地域間幹線系統補助(平成30年度補助額:約76億円)

複数の市町村にまたがる幹線道路を走る路線バス(幹線バス交通)の運行への補助である。

バス事業者または、地域公共交通活性化再生法に基づく協議会(地方自治体、バス・タクシー事業者、住民代表などで構成)を対象とし、予測費用(補助対象経常費用見込額)から予測収益(経常収益見込額)を差し引いた額の1/2を補助している(残りの1/2は都道府県、市町村が補助している場合が大半)。ただし、どの路線でも補助しているわけではなく、複数市町村にまたがる系統、1日当たりの運行回数が3回以上、輸送量が15人~150人/日と見込まれる、経常赤字が見込まれる、などの補助要件がある。

(2)地域内フィーダー系統(支線バス)補助(平成30年度補助額:約28億円)

過疎地域等でのコミュニティバスなどの地域内交通の運行への補助で、その市町村のエリアの中の運行に限っている。

バス事業者、自家用有償旅客運送の登録者、地域公共交通活性化再生法に基づく協議会を対象とし、補助対象系統に係る経常費用から経常収益を差し引いた額の1/2を補助している(地域間幹線系統補助同様、残りは都道府県、市町村が補助している場合が大半)。

この補助を受けるためには、協議会等が定めた「生活交通確保維持改善計画」に当該路線の確保や維持について掲載されていることが必要である。また、地域間幹線バス系統の補完または過疎地域等の交通不便地域の移動確保が目的、地域間幹線バス系統へのアクセス機能がある、定時定路線型の運行については乗車人員が2人/1回以上である、経常赤字であるなどの要件を満たす必要がある。

この補助の対象となる地域内交通には大きく3つの運行形態がある。一つはコミュニティバス。主に地方自治体が実施者となって路線バスの走っていない路線を補完するために運行する場合が多い。二つ目がデマンド型の乗合タクシー。路線やダイヤを決めず、事前の予約に基づいてルートを決めて乗り合いで運行するもの。三つ目が自家用有償旅客運送。通常は自家用車で有償運送することはできない(いわゆる白タク行為)が、バスやタクシーによる運送が困難(交通空白地帯)、地域住民、バス・タクシー事業者など地域の関係者の合意が取れていることなどの条件をクリアしているときに可能となる。

(3)車両購入に係る補助(平成30年度補助額:約16億円)

(1)(2)の運行におけるバスの購入を補助するものである。補助率は1/2で、ノンステップ型車両は1500万円、ワンステップ型車両は1300万円などの上限がある。

このように、国及び地方自治体は、一定の乗客がいる路線を維持するために、赤字になっている部分を補填している。

補助事業をめぐる論点と改善策

こうした補助事業について、秋のレビュー当日の議論で中心となった論点は以下の3点だ。

(1)デマンドバスや自家用有償運送へ転換しやすい仕組みづくり

現行の制度は、地域間幹線の路線バスを中心とし、路線バスの運行が困難である場合にコミュニティバスやデマンド型の乗合タクシー、それも困難な場合には、自家用有償旅客運送が許可される仕組みになっている。例えば自家用有償旅客運送は、交通空白地帯でなければ行ってはならず、かつ地域公共交通活性化再生法に基づく協議会、つまり実質バス・タクシー事業者の合意が必要となる。

路線バスが走っていたとしてもあくまでも地域の一部のみである。そこから離れた地域に住んでいれば利用するのは難しい。また地域にあるNPO団体が有償運送をしたいという場合が実際にあるが、交通空白地帯に限るという要件があるため、実現に至らないケースが多くある。

幹線路線の補完という従来の考え方から、地域のニーズを最大限汲み取れるような仕組みに転換していく必要があるのではないか。具体的には、デマンドバス、自家用有償旅客運送は交通空白地帯に限るという要件を緩和することや、バス・タクシー事業者などを含めた地域の合意の緩和(バス・タクシー事業者は競合のおそれの観点から反対をするケースが多くある)などが考えられる。

(2)民間事業者の移送手段との連携

地域公共交通を活用する目的を全国の地方自治体が調査すると、「通勤・通学」のほか、「通院」や「買い物」が多い。そうしたニーズに既存の公共交通機関だけで対応しようとすると、利用者が限定的などの理由で困難になってしまうが、病院や企業など民間事業者が所有しているバスと連携することも考えられる。

民間事業者は、当然ながら客(患者)が多く来てくれることを望んでいる。運行ルートなど細かな検討は必要になるが、例えば病院やスーパーと特定地点とのピストン輸送ではなく、駅を経由したり途中下車を可能にしたりなど多少のコストや負担がかかってもユーザーの獲得につながる民間事業者側と、目的地に行く選択肢が増える住民の双方のニーズを満たすことが可能ではないか。実際に民間事業者と協定を結んで住民の移送手段として活用している自治体もある。

現状ではこれらを補助対象にするには、幹線路線が走っていなくて、協議会を設置してバス・タクシー事業者などの合意が取れていることなどが必要とされているが、それは簡単ではない。この観点からも要件の見直しが必要だ。固定観念を打破して、「シェアリングエコノミー」(モノ・場所・スキルといった遊休資産を多くの人と共有・交換して利用する経済の形)の視点を持つことが求められる。

(3)バス事業者の採算性向上へ向けた仕組みの再構築

これまでの補助の仕組みでは赤字路線の拡大に歯止めをかけられていない。スケールメリットを出すため、バス事業者の業務連携やバス会社間の提携・合併などを促すことや、バスに貨物を乗せる貨客混載など、バス事業者の収支改善を促すことも今後は重要となる。

「秋のレビュー」風景(構想日本スタッフ撮影)
「秋のレビュー」風景(構想日本スタッフ撮影)

また、現行の制度は、路線ごとのバス事業者の赤字補填になっているが、この仕組みだと例えばバス事業者の経営努力で収支差を縮めると国からの補助額が減額されてしまうため、バス事業者の収支改善のインセンティブが働きにくい仕組みになっている。ある市では、収支差の基準額を設定し、経営努力などによって基準額よりも収支差が改善された場合でも、市から出す補助額は減額しないといった創意工夫もみられる。国の補助についても仕組みの改善を検討する必要があるといえる。

さらに、顕在化している課題が運転手不足だ。第二種大型自動車運転免許保有者は15年間で約20%減少し、自動車運転事業の有効求人倍率は、全職業平均の約2倍にもなっている。その背景には他の職業に比べて労働時間が長く、一方で年間所得額が低いという状況がある。先述の赤字補填から人件費補填という補助への転換の検討も必要ではないだろうか。

あらゆる可能性を探るとき!

地域公共交通を考えるうえで認識しなければならないことは、バスの存続が目的なのではなく、地域住民の生活の足の確保が一番の目的だということだ。今のままではどんどん赤字が増え、便数や路線が減少し、住民が利用しにくくなるため、これまで以上に利用されなくなり、さらに赤字が増えるという負のスパイラルに陥ることは明らかである。

人口減少、少子高齢化は地域公共交通にとっては負の流れではあるが、一方でAIやICTなど新技術の開発といった「正」の動きも出てきている。これまでの固定観念を根底から覆し、あらゆる可能性を探る、まさに抜本的な改善策を考える時期に来ている。

「時の法令」令和元年12月15日号(2078号)より転載(一部修正、写真は追加)