スパコン「京」の運用終了。「2位じゃダメなんですか?」は何だったのかを改めて整理する

「計算科学研究センター」内にある「京」(2016年、筆者撮影)

8月30日、理化学研究所の「計算科学研究センター」(神戸市)に設置されているスーパーコンピューター(以下、スパコン)「京」の電源を停止しシャットダウンした。本格稼働したのが2012年だったので、7年間の運用だったことになる。

スパコン「京」といえば、何よりも2009年の事業仕分けの際に蓮舫議員が発言した「2位じゃダメなんですか?」を連想する人が多いだろう。今でもツイッターで「事業仕分け」と検索すると、その発言を揶揄したツイートがとにかく多い。今回の運用終了のニュースが出たことでさらに増えている。あれから10年も経っているにもかかわらずだ(当時、テレビ各局が毎日のように同じ映像を流していたことが今でも影響しているのだろう)。

それほどまでにインパクトを残した「2位じゃダメなんですか?」という言葉が、実は間違っていなかったということは、ほとんど知られていない。

私は当時、政府の事業仕分けを担当する内閣府行政刷新会議事務局で、事業仕分けの運営や仕分け議論のコーディネーターを務めていた。さらに、自民党に政権が代わった後、政府のスパコンに関する勉強会のメンバーでもあった。いまだに誤解、曲解されている記事やコメントが目立つので、あの議論は一体何だったのか、このタイミングで再度整理したい。

次世代スパコン事業とは

2009年11月の事業仕分けの対象事業として取り上げられ、蓮舫議員の「2位じゃダメなんですか?」という言葉が飛び出したのは「次世代スパコン事業」について議論していた時のこと。

そもそも、「次世代スパコン事業」とはどのような事業なのか? 概要を簡単に言うと以下のようになる。

○スーパーコンピューターとは、気象や震災の影響などの予測に活用するもので、回転速度が速ければその予測結果を出すことも速くなる。

○この分野は世界の競争が激しい中、日本は研究力や競争力の強化によって世界最速を目指し、多様な分野で社会に貢献する研究成果を上げることを目的とする。

○具体的には、1秒間に1京=10ペタフロップス(以下、単に「ペタ」という)の計算性能を持つコンピューターの開発や、次世代スパコンを最大限利活用するためのソフト開発を行っていた。

○2005年~2012年の7年間で約1150億円の予算投入を予定(仕分けを行った2009年度までに545億円を投入)。

○開発は、独法の理化学研究所を中心として富士通、NEC、日立の民間3社との共同プロジェクトだったが、2009年5月にNECと日立の2社が撤退。システム構成の見直しを迫られ、ハードの方式を「ベクトル・スカラー複合型」から「スカラー型」へ変更した。

あの発言までの流れ

では、事業仕分けの際にはどのような議論がされたのか。

○2社の撤退によって大きくハードが変更になった中で、ソフト開発を同時に行う意味があるのか。

○スピードだけを求めるのではなく大事なのは利用者(研究者)の使いやすさ。例えば、1台のスパコンに10ペタを搭載するよりも、1ペタのスパコンを10台作って実際に利用する全国の若手研究者のいるところに置くなどの考え方もあるのではないか。10ペタのスパコンを開発すること自体が目的化していないか。

○10ペタのスパコンに対する産業界のニーズが本当にあるのか。

○アメリカが2012年までに10ペタのものを作ろうとしている中で、仮に一度日本のスパコンが世界最速になったとしてもいつまで世界一でいられるのか。

○「サイエンス」には費用対効果がなじまないことは理解するが、1000億円以上もの税金が投入されることの成果がまったく見えてこない点は、改善すべきではないか。

このような議論の過程で、蓮舫議員から「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 二位じゃだめなんでしょうか?」という言葉が出た。

要するに、スピードが世界一になったところで利用者の使い勝手が悪ければ使われない、しかもすぐに抜かれるだろうという予測もある、なぜそれなのにスピードばかりにこだわるのか?という趣旨だった。

専門家からも出た「スピード世界一」への疑問

この仕分けの議論は一時間半ほどかかった。議論の後半の大部分は世界一を目指す意義についてだった。「なぜ2位じゃダメなのか」という趣旨の質問は、蓮舫議員だけではなく他の「仕分け人」からも同様の意見が出されていた。しかも、指摘をしていた仕分け人の中には、スパコンの利用者側の立場でもある金田康正氏(当時東大教授)や松井孝典氏(東大名誉教授)らもいた。決して「素人の思い付き」で進んでいたのではなく、専門的視点も含めての議論であった。

また、仕分け人側が言いっぱなしだったのではなく、文科省に回答を求めていたが、その時の文科省の答えは「最先端のスパコンがないと最先端の競争に勝てない」「世界一を取ることにより国民に夢を与える」など定性的、情緒的なものばかりでかみ合わなかった。スパコンという「道具」を使うことで、どのような研究成果を期待しているのか、スピードで世界一を取ると、具体的にどのような変化があるかについては、再三の質問の中でも答えは返ってこなかった。

仕分けの結論は、「来年度の予算計上の見送りに限りなく近い縮減」。現行の計画のまま進めようとするなら予算を凍結すべき、計画を練り直したうえで再度検討すべきという趣旨だった(全12名いた仕分け人のうち、廃止判定が1名、予算計上見送りが6名、予算要求の縮減が5名)。

仕分けを受け、文科省は“利用者側視点”に転換

事業仕分けの後の予算査定や大臣折衝などを経て、翌2010年度は110億円の予算がついた(文科省の要求額は268億円)。このことを、新聞などで「仕分け違反」「結局仕分けはパフォーマンス」と批判記事が非常に多く出た。しかし、私は違和感を持っていた。

なぜなら文科省は、「開発側視点から利用者側視点への転換」として、開発するスパコンと国内のスパコンをネットワークで結び共同化したり、開発時期を遅らせ開発総額も削減するなど、仕分けでの指摘を大部分踏まえた計画に変更されていたからだ。

そして、2011年に完成したスパコン「京」は、同年6月に回転速度のランキングである「TOP500」(研究者らで構成する団体が年に2回、世界各国のスパコンの性能をランキング化し公表している)において、「世界一」(10.5ペタ)を獲得した。ただし、仕分けの議論でもあったとおり、競争の激しい分野であるため、1年後には抜かれることになる。最新の2019年6月のランキングでは、「京」は世界で20位、国内で3位であった(1位はアメリカの「サミット」で149ペタ。日本でのトップは産総研にある「ABCI」で世界8位、19.9ペタ)。

この中に「京」は設置されていた(2015年、筆者撮影)
この中に「京」は設置されていた(2015年、筆者撮影)

スパコンの事業仕分けが行われた後、私は「京」が設置されている理化学研究所計算科学研究センター(神戸)を合計3回視察した。

初めて行ったのが2013年、既にスピードが世界3位になっているタイミングだった。その際、担当者から「スピードは3位だが、使いやすさに関係するCPU・メモリ間、CPU間のデータ転送性能は他のスパコンよりも優位、いわば使い勝手は世界トップと言ってよい」という説明を受けた。

あの当時は政治・行政も、メディアも、スピードのみを捉えていたと感じるが、研究の現場では違う視点を持っていたことに、とても意外な感覚を持った。

自民党政権下の「行政事業レビュー」で再度論点に

さらに、自民党政権下の2015年11月には、政府の内閣官房「行政改革推進会議」が行った「行政事業レビュー」でもスパコン事業が対象となった。筆者も討論者の一人だったのだが、この時は、「京」が稼働して4年経過した段階での成果や、ポスト「京」(のちに「富岳」と命名。「京」の100倍の速度)計画について議論された。

「開発に合計1100億円、運用に毎年度100億円以上の国費を投入している『京』の具体的な成果が見えない。その状態で新たに1200億円(当初の想定)の国費を投入してポスト京を開発することは本当に必要なのか」

この課題の解決を目指すために、行政改革推進本部がスパコンの成果や新たな開発について継続的にフォローアップすることが決まり、2016年3月~7月にかけて、当時の河野太郎行政改革担当大臣のもとに「スパコンに関する勉強会」が設置された。筆者はその勉強会のメンバーとなり、スパコンの現状や今後の開発の方向性についての議論に加わった。

その際、文科省から「今後のスパコン開発においてはスピードによる世界一を目指すのではなく、省エネ性能など総合的な性能を追求していく」との発言があった。そして実際に、「京」の後継機となる「富岳」は、「利用者の使いやすさに重点を置き、実用性をさらに向上させる方針」(2019年9月3日、毎日新聞)となり、スピードの世界一は狙わないこととなった。

性能で世界ランキング上位を独占。間違っていなかった!

実際に「京」は、スピードで世界一から外れて以降も、メモリアクセスの速度や性能などの優位性を測る「HPCチャレンジ賞」の4部門すべてで第1位(2016年)になるなどスピード以外の特性が表れていた。

さらに、「大規模かつ複雑なデータ処理が求められるビッグデータの解析」(理研ホームページより)に関する性能ランキング「Graph500」では、2015年6月から今年6月まで、9期(5年)続けて1位を守り続けるなど、まさにスピードにこだわらない開発の成果が出ていた。

つまり、2009年に一躍注目を浴びた「2位じゃダメなんですか」などの事業仕分けでの議論は間違ってはいなかったのだ。

しかしながら、この件に関しては、仕分け直後から今に至るまでたくさん叩かれた。ノーベル賞受賞者が並んで記者会見を開いたり、「(事業仕分けは)将来、歴史の法廷に立つ覚悟でやっているのかと問いたい」(2009年11月25日 毎日新聞)と当時の理研の理事長が語ったりなどした。

振り返れば、具体的な中身というよりも、「科学技術を充実すること=予算を増やす」という固定観念にとらわれ過ぎた結果の反応だったのではないのかと感じる。「充実=お金の投入量」ではない。お金の使い方(=「質」)の充実によって少ないお金でも国民の満足度を高めることができることが認識されていないのではないだろうか。

ちなみに、スパコンの議論は民主党政権下での事業仕分けの半年前に、実は自民党の中でも議論されている(自民党無駄撲滅プロジェクトチーム)。その際にも、「スパコンを開発することが自己目的化している。スパコンを活用してどのような効果を出していくのかを明確にするべき」、「最先端の次世代コンピュータを保持しないダメージが分からない」など、ほとんど同じ指摘がされていたのだ。

事業仕分けや「2位じゃダメなんですか」の評価がそうであるように、一度「空気」が作られると打破することは容易ではない。冷静な目をもって「本質」は何かを探していきたい。