あまちゃんで震災のシーンが防災の日に放送されたことと宮藤官九郎の職業的倫理観について

東北を舞台として始まった頃から、いつかドラマの中でも、東日本大震災について描く時がくるのではないかと言われ続けていたNHK朝ドラのあまちゃんで、今週ついに震災がやってきました。

あまちゃんという朝ドラに対する評価には、いろいろな見方があると思いますが、この実際に起きた災害の現場を朝ドラという場所で逃げることなく描いたというだけでも、朝ドラの歴史に残るドラマとなったのではないかと思っています。

2013年の4月から2013年の9月と放送期間が決まっている以上、震災のシーンを描くにしても、3月11日という日程を選ぶことはできません。

なにをどう描いても、誰かを傷つける可能性の高い震災のシーン。現実とドラマがリンクしやすい要素がある以上、このシーンをいつ放送するかというのは、とても大事な課題であったことが想像できます。

そして、あまちゃんチームは、震災シーンの放送日を防災の日にしてきました。これは、ドラマ全体としても、ほぼ最後の日程となること。そして、震災以降の防災の日は、震災を風化させない意味合いを持っていることとリンクしています。また、奇しくもこの日、埼玉県の一部で日本ではめずらしい竜巻による被害が出ており、防災の大切を痛感する日となりました。

この防災の日、あの広範囲に広がった被災地の中から、選ばれた舞台は、やはり三陸鉄道(あまちゃんでは北三陸鉄道)でした。

この日描かれた話は、実はほぼ実話です。三陸鉄道で起きたことは、「ブラックジャック創作秘話」で知られる吉本浩二の手によって、「さんてつ - 日本鉄道旅行地図帳 三陸鉄道 大震災の記録」というドキュメンタリー・マンガで知ることができます。

あまちゃんで、震災を象徴するシーンとされたこのトンネル。さんてつでも、このトンネルが何度も何度も繰り返し出てきます。それぐらい被災地にとって、忘れることができない光景だったのです。

そして、それがドラマの中で出てくることで、これを見た人たちは、それぞれが震災当時のことを思い出すことができます。あまちゃんでも、東北だけではなく、東京でも帰宅難民が起きたことも、シーンとして登場しています。

震災から、時間が経つと、最大の問題となってくるのが、記憶の風化問題です。その問題の解決方法のひとつとして、朝ドラという舞台を使った宮藤官九郎の心意気と勇気、これはいったいどういうものなんでしょう。

あまちゃんの中で、主役の天野アキの母親であり、もう1人の主役であるとも言える天野春子が、アイドルプロデューサーである太巻こと、荒巻太一にくってかかるシーンが何度もあるのですが、そこで決まって春子が言うセリフがあります。

春子「まじめにやって!」

震災当時、いろいろな職業の多く人たちが、自分の職能を震災という未曾有のことに対して生かすことができないかと悩みました。そう、自分に何ができるか?ということです。

春子「あんた、まじめにやんなさいよ!」

宮藤官九郎の仕事であるドラマの脚本家、その職業的倫理観から、最大限にまじめに震災に向かい合った結果が、あまちゃんのこの日の震災のシーンであったと思うのです。4月からのずっと続いてきた物語が、見るものに大事な物語となっているからこそ、この日に起きたことが、最大の効果で、見ている人たちの気持ちに届くのです。

そう考えると、過去のクドカン作品が放送された以降、その作品が街に与えた影響のことを思い出さずにはいられません。

池袋ウエストゲートパーク以降の池袋。木更津キャッツアイ以降の木更津。タイガー&ドラゴン以降の落語と寄席。クドカンがドラマで舞台した場所は、ドラマによってストーリーを与えられ、場所として新しい命を与えられ、息を吹き返します。

実際、すでにあまちゃんのロケ地である岩手県久慈市には、日本全国から見学ツアーなどで、お客さんがやってきて、今までにないにぎわいを見せています。

この先、語りが春子(小泉今日子)に変わったあまちゃんは、復興を忘れるな!というメッセージを残りの1ヶ月すべてを使って出し続けていくでしょう。

半年という朝ドラの長い放送期間のラストスパート、それが震災復興の新しいモデルとなっていくことを私たちは見ることができるはずです。しかし、ホントになんていうドラマを考えて生み出したんでしょう。クドカン、もうホントに脱帽です。