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<北朝鮮>「韓流弾圧法」の最高刑は死刑 それでも女子高生にKポップが流行る理由

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
北の若者の間ではKPOP動画が人気。トゥワイスも流行か(公式ツイッターより)

◆こっそりKポップ動画見る女子高生

北朝鮮北西部の、とある都市で高級中学校に通うジョンヒさん(仮名)は、私の取材協力者の朴さんの娘さん。日本でいえば女子高生だ。朴さんはしばしばジョンヒさんと彼女の友人たちをサンプルに、今どきの若者の生態について教えてくれる。最近特に興味深かったのは、「ちかごろ、娘たちの世代に人気の韓流文化はドラマよりも歌の動画です。若い子たちがグループで踊りながら歌うやつ」という報告だった。

韓国ポップアイドルの音楽ビデオのことである! 一昔前の韓国歌謡が北朝鮮で人気を博していることは知っていたが、韓国ポップまで密かに流行しているとは恐れいる。北朝鮮の女子学生たちが「防弾少年団(BTS)」や「トゥワイス」を見ていると思うとワクワクする。といっても、金正恩政権が韓流文化への統制を緩めたわけでは、決してない。

関連動画 これが北朝鮮の女子中学生が自作した禁断の携帯動画メッセージだ

◆新法では動画見ただけで懲役5年

2020年12月、北朝鮮当局は「反動思想文化排撃法」の制定を公表した。条文は未公開だが、次のような輪郭が明らかになっている。「南朝鮮の映画、動画、図書、歌、絵、写真などを直接見たり保管したりした者は5年以上15年以下の懲役刑、流入・流布させた者は無期懲役または死刑」。あらゆる韓国のコンテンツに接触しただけで厳罰を科す、いわば「韓流弾圧法」である。

「住民対象の学習講演会で法律の目的や取り締まりの実例を説明しています。抜き打ちの家宅捜索もしばしばで、各地で大勢捕まっています。韓国ドラマを見るのも命懸けですよ」と朴さんは言う。

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韓国の影響を恐れる北朝鮮当局は、二十数年前から厳しい取り締まりをずっと続けてきた。だが、根絶どころかデジタル媒体に記録された韓国の動画や歌は、国内で安価、大量にコピーされて拡散するばかりだった。業を煮やした金正恩政権は、昨年「不純退廃文化を掃討する」という激しいスローガンを掲げた。そして死刑までちらつかせて一掃することを決めたわけだ。

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北朝鮮国内は検問所だらけ。最近は携帯電話に韓国の映像や音楽が保存されていないかもチェックする。2019年9月、中国側より撮影石丸次郎。
北朝鮮国内は検問所だらけ。最近は携帯電話に韓国の映像や音楽が保存されていないかもチェックする。2019年9月、中国側より撮影石丸次郎。

◆弾圧の標的は若者

今、取り締まりの標的になっているのは若者だ。4月末に開催された青年組織の行事に金正恩氏は書簡を送った。その中に次のような一節があった。「青年に悪性腫瘍のような反動的思想文化の弊害と悪結果をはっきりと認識させ(中略)、反社会主義・非社会主義的行為を助長したり青年の健全な精神を蝕んだりする些細な要素も絶対に黙過してはなりません」

 韓流文化にかぶれ、社会主義を信じない若者が大勢いることを告白しているように読める。

 さて、朴さんはどう見ているのだろう?

「最近の若い世代は、国が言う社会主義が自分たちの未来をよくしてくれるなんて考えていませんよ。若者は怖いもの知らずのところがあるから、韓流文化を求めるのをやめないでしょう」

もしかしたら、ジョンヒさんは仲間とこっそり集まって、日本や韓国の高校生のように

韓国ポップのダンスの練習をしているかもしれない。朴さんに聞いてみよう。

※中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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