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産経「ソースはアンサイクロペディア」で炎上、寄稿者が語った引用の理由

石戸諭記者 / ノンフィクションライター
アンサイクロペディアが引用された「正論」2019年5月号より(筆者撮影)

 産経新聞社が発行する右派系オピニオン誌「正論」2019年5月号で、ウィキペディアのパロディサイト「アンサイクロペディア」が引用元として掲載されたことに批判が集まっている。ネット上では「ソースがアンサイクロペディアとは」「驚いた」といった反応が続出し、「炎上状態」になっている。

炎上したコラム

 問題の論考は評論家の潮匡人氏が寄稿したコラム「ポリコレという言葉狩りの時代」だ。潮氏は元航空自衛隊3等空佐で、帝京大准教授などを歴任した評論家で、安全保障問題を主戦場に右派系オピニオン誌常連の論客として知られている。

 論考のなかで潮氏は、肝心のポリティカル・コレクトネス(PC)の定義をアンサイクロペディアから引用している。 

「PC」とは《言葉の使い方に偏見や差別が含まれていないことを指す言葉である。日本語では「政治的に正しい」と訳される場合もあるが、一般的には「言葉狩り」を婉曲にオブラートに包んであたかも言論の自由を侵害するものではないかのように装うために言い換えているものであると認識されている》(フリー百科事典「アンサイクロペディア」)

出典:「ポリコレという言葉狩りの時代」

潮氏が取材に応じた

 なぜアンサイクロペディアから引用したのか? 潮氏が4月8日、電話取材に応じた。

 ーーアンサイクロペディアがどんなサイトか知っていましたか?

 潮氏:私の著書『安全保障は感情で動く』(文春新書)で、ポリティカル・コレクトネスについて論じた部分があります。この論考とも重なる部分で、著作のなかでは《フリー百科事典「ウィキペディア」のパロディサイトではあるが、ここでは「アンサイクロペディア」の説明がむしろ本質を示しているだろう。》と書いて、同じ部分を引用しています。

 パロディサイトであると認識した上で、論考の流れに合致する定義であると思い、「正論」でも引用しました。「正論」でも、詳しくは拙著を読んでほしいと書いていますよね。炎上したことは知っていますが、批判している人たちは拙著を読んで批判をしているのでしょうか。

 ネットで一部を読んだだけで批判しているのではないでしょうか。

 ーー少なくとも、本で書いたのと同じように書くべきではなかったのではないでしょうか。これでは批判は当然です。

潮氏:本とまったく同じことを書いていいのかと思いました。そして雑誌には文字数の制限があります。

 ーーアンサイクロペディアを引用するのは適切だったと思いますか。

 潮氏:アンサイクロペディアもウィキペディアも引用することは自体は問題ないと思っています。多くの人の目を通っている記述の方が正しいこともあります。

 ーーそれならば、やはり引用に当たって適切な説明は必要だったのではないでしょうか?

 潮氏:他のやり方があったかもしれないとは思うが、元の本では説明している。そこを読めばどうして引用したかはわかります。

 著作を確認すると、潮氏が主張した通りにアンサイクロペディアが引用されていた。「正論」でもここまで丁寧に説明しておけば、今回のような炎上騒動は起きなかっただろう。

 潮氏のコラムについて、「正論」編集部は疑問に思わなかったのだろうか。なんの説明もなく、唐突に「アンサイクロペディア」が引用されていても批判が生じないと思っていたとするなら、その認識は危うい。

記者 / ノンフィクションライター

1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大学法学部を卒業し、同年に毎日新聞社に入社。岡山支局、大阪社会部。デジタル報道センターを経て、2016年1月にBuzzFeed Japanに移籍。2018年4月に独立し、フリーランスの記者、ノンフィクションライターとして活躍している。2011年3月11日からの歴史を生きる「個人」を記した著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)を出版する。デビュー作でありながら読売新聞「2017年の3冊」に選出されるなど各メディアで高い評価を得る。

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