黄金世代への思いも!諸見里しのぶ、“引退”じゃない“撤退”の理由

インタビューに答える諸見里さん

 新型コロナウイルスの影響で延期になっていた女子プロゴルフツアーが、先週の「アース・モンダミンカップ」でやっと開幕。渡辺彩香選手の5年ぶりの優勝で幕を閉じた。そんな女子ゴルフ界で、昨年、ツアープロとして第一線から退くことを発表した諸見里しのぶさん。ツアー通算9勝、JLPGAメジャー3冠を達成し、女子ゴルフ界を盛り上げた彼女に、現在の心境、これから、注目を集める黄金世代についてなど、ありのままの言葉で語ってもらいました。

3月に予定していた女子プロゴルフツアー開幕戦「ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメント」が新型コロナウイルスの影響で中止に。同じく3月の首里城再建応援チャリティゴルフコンペも中止となってしまいました

 私がホストプロを務めている試合だったので、開催されなかったことは本当に残念でした。ただ、首里城のチャリティについては、コンペは中止になりましたが、違う形で実現することができました。沖縄県出身の女子プロゴルファーを中心に、松山英樹さん、渋野日向子ちゃん、畑岡奈紗ちゃん、鈴木愛ちゃんら県外のプロの皆さん、さらには野球、サッカー、ラグビーなど、発起人の上原彩子さんと親交のあるアスリートの方々にグッズやサインなどをご協力いただき、約250万円を寄付することができました。

そんな中、先週行われた「アース・モンダミンカップ」でやっと女子ツアーがスタートしましたね

 本当によかったです。とはいえ、選手のことを思うと、やらなければいけないこと、逆にやってはいけないことも多くて大変だったなと…。検温とその報告、試合2週間前の行動報告、今までしていたハイタッチの禁止など制限が多く、とにかく試合以外でのストレスが多かった。選手はもちろん、キャディさん、関係者もPCR検査を受けました。その反面、選手たちは、昨年のツアー終了後からそれぞれ課題を持って今年の開幕に臨んでいたはずなので、その努力がようやく発揮できる場所ができて、本当にうれしかったんじゃないでしょうか。

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感染防止のために無観客試合となりましたが、無観客の中でプレーする心境はどうでしょうか?

 台風の時に一度、無観客を経験したことがあるのですが、やっぱり寂しいですね。本当に静かで…。ギャラリーの方たちの拍手や声援は、選手にとってすごく大きな存在。砲台グリーンとかでボールが見えない時に、ギャラリーの方たちの反応でうまくいったかどうか分かることもあるんです。それに、ギャラリーの皆さんのパワーはプレーにかなり影響します。これまでも、「プレーを後押ししてくれた」と思う瞬間が、私も何度もありました。皆さんが「入れ~!」って気持ちを込めてくれる中で、ボールがカップに気持ちよく入っていく瞬間もあるんですよ。

自粛中は多くの選手がSNSでいろんな動画をアップしていました。ゴルフに縁のなかった人たちも、選手たちを身近に感じることができたみたいです

 若い選手が中心になってSNSで活動してくれて、試合の中止が続いて暗くなっていたゴルフ業界を明るくしてくれました。だからこそ、ファンの皆さんが注目してくださって、また、ゴルフを知らなかった方が興味を持ってくれるのはうれしいです。トレーニングや自宅など、試合に入るとなかなか見られない一面も楽しめますしね。

とはいえ、選手たちも試合がない中でモチベーションを保つのは大変でしょう

 すごく大変だと思います。いつ試合が始まるか分からない中、ベストを保つのは本当に難しい。「アース・モンダミンカップ」は無事に開催されましたが、この後の試合スケジュールは未定。時間を空けてまた試合をするというリズムを作るのも、選手にとっては難しい状況です。そのうえ、コロナ対策という試合とは別のストレスも。それらのストレスに対応力の高い選手が上位にいきやすいと思います。上位にいくことで自信がつく選手も多いですし、“第2の渋野さん”が生まれる可能性も大いにあります。そういう部分も、見ている方たちの楽しみになるんじゃないでしょうか。

諸見里さん自身は昨年、ツアーの第一線から退かれましたね。そもそもゴルフを始めたきっかけは?

 両親が遊びでゴルフをしていて、コンペや練習場についていくと、たまに打たせてもらっていました。それが小学校3年生の時。最初は「50ヤードまで飛ばせたらジュースを買ってあげる」、次は「100ヤードまで飛ばしたらお菓子を買ってあげる」と言われ、一生懸命やってました。「うまくいったらご褒美がもらえるんだ!」と練習をしていたら、練習場のお客さんにジュニア大会を勧められたんです。

 そこで、同じ練習場にいらした国体選手の方からゴルフのマナーやルール、技術的なことを教えもらい、2ヵ月ほど練習して参加しました。結果は、男女50人中真ん中くらいだったのですが、「もっと練習したら優勝できるんじゃないの?」と思って(笑)

沖縄はゴルフが盛んでプロも多い。1つ年上の宮里藍さんとは試合で一緒になりますよね?

 実はそのジュニア大会で、藍さんが1位か2位だったんです。父に「今、沖縄の女の子で一番うまいんだよ」と教えてもらって。そこから藍さんに追い付け追い越せで練習を始めました。

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子供の頃から向き合ってきたゴルフですが、ツアー撤退を決めた一番の理由は?

 いろいろあるのですが、黄金世代、プラチナ世代と呼ばれる若い子たちが出てきたことも理由の1つです。彼女たちと回ってプレーを目の当たりにした時、「一緒に戦うのは厳しいな」と思ったんです。ここ最近、ゴルフ場の距離も伸びていて、コースセッティングも難しい状況が増えているのですが、その中で彼女たちは飛距離も高い技術も持っている。一方で、「私はお金を払って観に来てくれるギャラリーの皆さんに、プロとして興奮させられるものがあるのかな。私の魅力って何かな」と思い始めて。ここ4~5年は本当に苦しい時期でした。応援してくれるファンの皆さんも苦しかったと思うんです。

 そんな状況もあって、そろそろ引き際かなと。年齢も影響しています。若い時には睡眠時間を削って練習できたのに、30歳を超えて同じことをしていると、翌日に疲れが残る。若い時には痛みがあっても寝たら治っていたのに、今では別の部分まで痛くなる。とにかく、体力が違うことを実感しました。

ほぼ毎週試合があるプロゴルファーは本当に過酷。特に女子は試合数が多い。

 私の場合、月曜日はトレーニングや体のケア。火曜日の朝には会場入りしてその後、練習ラウンド。水曜日も練習ラウンド。木曜日がプロアマ戦で、金、土、日が試合というのが基本の流れでした。怖いのは、毎試合同じメンバーで動いて同じことを繰り返すうちに、そのルーティーンが“慣れ”になってしまうこと。1年を通して自分の気持ちを高く保ちながら戦う難しさはありました。「ゴルフは年を重ねてもできるスポーツなのに、辞めるのはもったいない」と言われるのですが、自分の納得する成績を残すモチベーションがないと、絶対にできない仕事なんです。

ツアー通算9勝されていますが、優勝する時のシチュエーションはどんな感じですか?

 9勝の中で、絶好調で優勝したのは1試合だけなんです。2009年の「プロミスレディスゴルフトーナメント」だけが、練習日からすごくいい感じで、体の調子もよくて。あとの8勝は、優勝できるとも思っていない状況でした。

 ゴルフって不思議なもので、調子よく入っていくと、最初につまづいた時に「あれ?こんなはずじゃない」と思うんです。そうなるとだんだんイライラし始めて…。でも体調がイマイチだとあまり自分に期待をしていないので、「あれ?バーディーきちゃった。あれ!?あれ?あれ??」みたいな感じでいい方向に。ただ、勝負事なので、流れや勝負の瞬間、境目は必ず来ます。それを察知する“勝負勘”というのは、それぞれの選手にあると思います。私も、「このシチュエーションだけは絶対にうまくいく」という自分なりのシーンがあります。鈴木愛ちゃんと畑岡奈紗ちゃんは、その辺も素晴らしい。残りホールを見て、そこからの集中力の上げ方と決め方。あの2人の勝負の持っていき方は本当にすごいです。

諸見里さんから見て、今の黄金世代はどうですか?世代の違いは感じる?

 いや、もう、すごすぎます!勝みなみちゃんが高校生で「KKT杯バンテリンレディスオープン」で優勝し、畑岡奈紗ちゃんは「日本女子オープンゴルフ選手権」をアマチュアで優勝して、今は米国ツアーで活躍してます。渋野日向子ちゃんはプロデビュー1年目で全英オープンで優勝しましたし。

 もちろん、彼女たちとはゴルフを始めた時の環境、特に道具の違いは大きいと思います。今の子たちは、ジュニアのクラブはもちろん、自分の体に合ったものが手に入るので、スイングも作りやすいでしょうね。与えられたクラブにスイングを合わせるのではなく、自分に合ったクラブを使えるので、技術は必然的に上回ると思います。トレーニングの仕方も違います。中学生、高校生ぐらいからトレーナーをつけて理にかなったトレーニングができるし、メンタルの先生もケアをしてくれる。私たちの頃は「とりあえず打て!」の根性論だったので(笑)

それにしても、諸見里さんのフォームは教科書みたいにきれい

 ありがとうございます。私、自分のインパクトが嫌いで、若い時は自分のスイングを一切見ませんでした。タイガー・ウッズとか伊澤利光さんとか、スイングの綺麗なショットメーカーがすごく好きだったので、その方たちと比べると軽い感じ、そろっていない感じがしてブサイクなインパクトだなと思ってたんです。でも今、「若い時はどういうスイングをしていたんだろう」と見返すと、「さすがだな~」と(笑)。今になって初めて自分を認められるようになってきました。

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※写真(C)AMD

アメリカでもプロとして過ごされましたね

 日本とは違う環境で楽しさもありましたが、まずは何より移動が大変。時間をお金で買うことを学びました。たとえば、「西から東への飛行機で、エコノミーで1人15万円します。でも、どこかで乗り換えると1人7万円になります。どうしますか?」と。体はきついけど安く行くのか、直行便で(マネジャーと)2人で30万円かけるのか。

 あと、とにかく荷物がなくなるんです。会場に着くと、クラブが届いていないことも少なくない。交渉事も自分たちでしなければいけないのですが、英語はほとんどしゃべれずに渡米しました。半年くらいで自分の意思を伝えられるようにはなりましたが、1年しかいなかったので、帰国してすっかり忘れてしまいました(苦笑)

ツアー撤退について、ご両親のリアクションは?

 父に報告するのが本当に怖くて、かなり時間がかかりました。私のゴルフに対して一喜一憂する人で、すごく命をかけてくれていたので。結局、父には一番最後に伝えたんです。沖縄に帰って話をしたら、「よく決断した。その言葉を聞いて安心した」と言われて、肩の力が抜けました。体のこともあるし、うまくいかなくて落ち込んでいる姿も知っていたので「もういいんじゃないか」と心配してくれていたらしくて。

今後はどのようにゴルフに関わっていきますか?

 正直、一番不安な部分でした。今までゴルフしかしてこなくて、何かやりたいことがあるのかといえばそうでもなくて…。本当にノープランでここまで来たので、この1~2年はいろんなことにチャレンジしていこうと思っています。

 その中で、コースセッティングという、試合のピンポジションや距離を決める仕事にとても興味があります。私自身、プレーヤーとしてコースセッティングのすごさを感じていましたし、若い子たちの技術アップのため、ツアーが盛り上がるためにどのようなセッティングをしていくかなどの話を聞き、魅力を感じました。

 勉強会にも参加してきました。芝の説明や育て方、管理の仕方などを教わったのですが、15年もプロでやってきて、芝一つの名前も知らなかったんだと思い知らされました。本当にチンプンカンプンだったので、改めてもっとゴルフのことを勉強しなきゃいけないなと。

ほかにも、ラウンドリポーターやレッスンプロ、ジュニア育成のような仕事もありますが?

 そうですね。ラウンドリポーターもたくさんお誘いをいただいたのですが、自分以外のことを話すのはとても責任のあること。私に務まるのかなという迷いもありつつ、やってみなきゃ分からないな、と。実は、いくつかいただいたお話はあったんですが、コロナの影響で試合が中止になってしまって…。それでも、先輩たちの過去の映像を見たりして勉強はしました。コロナ禍でリモートのお仕事もいくつかいただいたので、こちらもすごく新鮮で勉強になっています。

プロゴルファーとしての節目を迎えられましたが、人生の節目として結婚は?

 私がなぜ引退という言葉を使わないかというと、結婚して子供ができた時に、自分がプレーしている姿を見せたいと思う日が来るんじゃないかと思っているからなんです。先輩たちが子供を連れて試合をしている姿がすごくかっこよくて。現実問題、旦那さんや親の協力がないとなかなか続けられないみたいですが、もし子供を授かるチャンスがあったら、試合に出たいなと思っています。

 ただ、今年結婚する予定はありません。今年は仕事で挑戦の年。その後、時機を見て結婚、妊娠・出産のタイミングも考えていきたいです。

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では最後に、諸見里さんにとってゴルフの魅力とは?

 私はゴルフで人間を作ってもらいました。今そばにいる、応援してくれる方のほとんどがゴルフでつながったご縁。若い時は「ゴルフは個人競技で仲良しこよしする必要はない」「自分さえうまければいいし、自分が一番になればいいし、そのために一生懸命やろう」というスタンスだったんです。でも、実際にプロの生活をしていると、礼儀をはじめ、スポンサーさんやお客さんに対することなど、先輩たちから教えてもらうことがたくさんありました。逆に、自分も後輩たちとの関わりの中で「慕われるってこういう感じなんだ。責任感もあるし、うれしい」と思えました。

 2009年に賞金女王争いをした時には、トップの人たちの大変さも知りました。注目されてコンディションを整えて戦うことの大変さも痛感しました。予選に通らなくて、自暴自棄になることもありましたが、人として成長させてもらうことが多かった。

 「ダイキンオーキッド」は中止になりましたが、1月にアマチュア予選は開催されたんです。そこで、10歳から80歳までの女子ゴルファーが参加されました。こんなにも年齢差のある方たちが、同じ競技に参加して楽しめるなんて、なかなかないことじゃないかと。だからこそ、そんなゴルフ界に微力ながらも貢献していきたいなと思っています。

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(撮影:ウィルキープ)

諸見里しのぶ

1986年7月16日生まれ、沖縄県出身。9歳でゴルフを始め、ジュニア時代は数々の大会で優勝を飾る。05年7月にプロテストに合格し、出場3試合で翌年のシード権を獲得。06年に「SANKYOレディースオープン」で初優勝。07年には「日本女子オープンゴルフ選手権競技」で国内メジャー初タイトルを手にした。09年に年間6勝を挙げ、史上8人目となるJLPGAメジャー3冠を達成。2011年の「スタンレーレディスゴルフトーナメント」では、ハーフ27ストローク(8連続バーディーうち1イーグル)の日本男女ツアー双方での新記録を樹立。この記録は女子プロゴルフ界におけるギネス世界記録として認定された。プロ通算9勝を挙げるも、2019年シーズンをもってツアープロからの一線を引くことを発表。