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10代の「生きづらさ」は、どこから来るのか~「思春期の実態把握調査」結果を読む【後編】

今村久美認定NPO法人カタリバ代表理事
写真:NPOカタリバ

この度認定NPO法人カタリバは、株式会社マクロミルと協働で「思春期の実態把握調査」(調査結果はこちらからご覧いただけます)を実施しました。前編は、株式会社マクロミル 上席執行役員の中野崇さんと一緒に、現代の10代の「生きづらさ」とその原因について考えてみました。後編も引き続き中野さんと、今の10代にとって必要なものは何か、調査結果とともに考えていきたいと思います。

左:株式会社マクロミル 上席執行役員  中野崇さん 写真:NPOカタリバ
左:株式会社マクロミル 上席執行役員 中野崇さん 写真:NPOカタリバ

「今求められる、“ナナメの関係”」

■同質性を高めやすいネット社会

中野:

前回、10代のコミュニケーションにおいて、SNSが前提となっている状況がうかがえましたが、多くの課題も指摘されています。私はグローバル化した世界においては、「自分と異質なものとつながっていくこと」が重要になると考えています。けれども、10代がSNSに浸っている理由が、ネット上で自分と同質性の高いコミュニティにいるのが楽だというのものならば困ったものです。その世界で周囲から「わかるわかる!」と言ってもらってばかりなのは危険です。同質性が高まると、同質ではない者を排他しようということになり、攻撃的にもなりやすい。それが「SNSいじめ」の背景にある気もします。

今回の調査では、2割以上の10代が、SNSいじめを経験しています。SNSを3時間以上利用している高校生の3人にひとりがSNSいじめを経験しており、SNS接触時間が多いほどSNSいじめ経験が高い傾向があります。さらにいじめにあっても、その4割は何も対処できていない(グラフ1)という結果が出ています。

(グラフ1【SNSいじめの実態】P26)

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今村:

テクノロジーの進化は、子どもたちの世界を広げる可能性がある一方で、「同質なもの」とのつながりを加速している一面もあります。24時間という、全員に同じだけ与えられた時間の中で、自分と違う意見の人とぶつかる経験や、異世代の他者に深く関わる機会が、ひと世代前に比べて少ないという見方もできると思います。一方で、子どもたちが現実社会で通用する大人になるための教育改革もすすんでいます。アクティブ・ラーニングの導入も、子どもたちと社会のニーズの変化を捉えての取り組みとも言えるのかもしれません。

SNSいじめにあった4割は、「何も対処していない」とのことですが、そういう悩みを相談できる人が、安全かつ、アクセスしやすい場所にいるといいですよね。『サザエさん』のカツオにとってのウキエさんのような、話を素直に受け容れることのできる、少し年上のお兄さんお姉さんがベスト。

カタリバではそんな関係性を「ナナメの関係」と呼んでいます。先生や親でもない、学校外の年上の人との交流が大切だと思います。10代にとって、自分たちが属している世界での人間関係の悩みやトラブルは、とても深刻なこと。けれども、そんな悩み多き思春期を経験済みの年上の視点は、角度が違います。社会の常識や大きな視点から見れば10代の彼らの問題は、「ちっぽけなもの」だと提示してあげることができるんです。同質な世界に属していない大学生や大人たちが「こっちの世界もあるよ」「別のグループもあるよ」と示すことは、10代の固定概念を崩し、救いとなってあげられる。

写真:NPOカタリバ
写真:NPOカタリバ

■10代の自己肯定感や将来意識を育むもの

中野:

確かに、「ナナメの関係」のある・なしは10代の意識にも影響を及ぼしているようです。「学外の年上の人との交流」がある10代は、そういう交流を持っていない10代に比べ10ポイント以上の差で、「具体的な夢や目標はないが、興味のある分野がある」と答えています。また20ポイントの差で「今、熱中できるものがある」と言っている(グラフ2)。前向きで興味ある何かを持っている子たちだから学校外でも交友関係があるのか、もしくは好きな活動を通してそのような交流を持つようになったのかはわかりませんが、自己肯定感や将来意識は、学外の活動のある・なしや、年上の人との交流の深さに関係しているように思います。

(グラフ2【自己肯定感/将来への意識】P28)

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今村:

そうなんですね。とは言え、自我が芽生えている10代に、「年上の人と仲良くしなさい!」と大人から強制するわけにはいきません。都会に限らず地方でも、小学校の頃まではあった地域の「顔見知りの大人」との交流も薄れています。地元出身ではないために自身に地域の知り合いがいないという先生も多いですし、地域の人々が高校に関わる機会は多くありません。けれども、街ですれ違った時に「おはよう」と言い合えるような「おせっかいで面倒くさい関係性」があることで救える子どもたちもいるかもしれない。"実は大人が仕掛けている"ということに子どもたちが気づかないくらい自然な形で、異世代と交わる機会を提供していく策はないかと、カタリバ内でよく話題にしています。

一事例ですが、島根県益田市役所にはカタリバのスタッフを1名配置して「ナナメの関係で地域の関係性を紡ぎ直す」事業を実行しています。いつもはあまり地域の企画に出てこない20~30代の若者に公民館区ごとに呼びかけて、中高の授業で生徒たちと語り合う「カタリ場」というキャリア学習プログラムに参加してもらっています。他にも「高校生×小学生」「地域の大人×校長先生」など様々な形で、年間30回以上の「カタリ場」を実施しています。これらは子どもたちのキャリア教育の一環という形を借りつつ、実は、地域に生きる子ども・大人・先生方など多様な方々が「ちょっとした知り合い」を作るためのきっかけ作りになっています。

地域の若者と中学生が語り合う、益田市のカタリ場の様子 写真:NPOカタリバ
地域の若者と中学生が語り合う、益田市のカタリ場の様子 写真:NPOカタリバ

今村:

ある参加中学生は「普段、大人と話し合う機会はあまりなくて貴重な体験」と言っていました。たまたま隣の家に住むお姉さんと高校生が語り合ったケースもあり、「お隣同士でも、実はあまりお互いのことって知らないものなんだって気づいた」という声も聞きました。また、今まで地域活動に参加したことのないような20代の若者が、中学生と一緒に公民館主催のキャンプに参加したりということも起きます。きっかけさえあれば若者も地域活動での出番を楽しむんだなという発見もあります。プログラム後、子どもたちに「地域に相談できる人がいるか」と聞くと、約8割が「いる」と答えるように。地域の大人にとっても、自分のお店にカタリ場で出会った10代が来て、「この前の授業でお兄さんに聞いたあの話なんだけどさ…」なんて話しかけてもらったりするのは新鮮で面白いようです。

■学校外体験を求める保護者たち

写真:NPOカタリバ
写真:NPOカタリバ

中野:

それはいい取り組みですね。私は言葉には力があると思っています。いわゆる「言霊」ですが、それはテキストではなくやはり肉声に宿るのだと思っています。なのでカタリ場のような場で、自分の悩みに対して「大丈夫」とか「あなたはあなたであっていい」という言葉を、いろんな大人から肉声で言ってもらえるということは素晴らしいと思います。

ちなみに調査からも、子どもたちに学校外の体験をさせたいという保護者たちのニーズがうかがえます。「学校以外での様々なチャレンジをしてほしい」「学校の先生や友達以外の交友関係を広げてほしい」と考えているのに、それは理想通りに実現されていないと思っている保護者が約半数いるんです(グラフ3)。この子どもたちの「学校以外でのチャレンジ」はいったい誰が促していけばいいのでしょうね。まずは学校の先生たちに期待したいところですが、現在「地域に出て行くなど、学校以外の活動機会を作る・サポート」をしている教員は16%と少ない。やりたいのに今はできていないという教員の6割が、その理由として「時間がない」と回答しています(グラフ4)

共働き世帯が増えており、親が子育てや教育に割ける時間は減っている。そして先生はいつだって時間がなくて忙しい。この状況は構造的なものなので、親や先生に学校以外でのチャレンジ機会を提供するようせまっていくのは酷ですよね。親も先生も悩んでいて、助けを求めているのだと思います。

(グラフ3【子育ての理想と現実のギャップ】P32)

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(グラフ4【生徒への対応 理想と現実】P33)

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今村:

10代が世界を広げ、また悩みを解決していくには、学校外体験も大切だと親御さんたちも思っているんですね。確かに私も我が子には、学校を超えた人とのつながりの中で、様々なチャレンジをしてほしいと思います。けれども、安全確保も含めてどうすればいいかわからない方が多いのも現状ですよね。学校がそれを担えればいいんですが、ただでさえ忙しい先生方に「地域との連携」まで求めるのは難しい。先生にも安心してもらいながら、先生の「仲間」として学校外との関係作りを調整するコーディネーターの役割の必要性を感じています。

行政や学校の側に立てば、政策や既存のプログラムをアレンジすることで、子どもたちに効果的な学校外体験を提供できる可能性がある。先ほど例に挙げた島根県の高校2校には「高校のカリキュラムと社会をつなぐ」というミッションを持つコーディネーターを6人、また益田市の教育委員会には「ライフキャリア教育コーディネーター」という役職でカタリバ職員を派遣しています。学校と地域社会をつないでいくことで、10代の悩みにアプローチしていくのがねらいです。

中野:

そんな仕掛けを通じて「ナナメの関係」を体験し、「リアルで誰かとつながる方が楽しい、モヤモヤが晴れそう」と感じられれば、10代の漠然とした不安や閉塞感は軽減されそうですね。リアル世界の良さ、血の通ったコミュニケーションの良さを、大人たちが積極的に提示していかなくてはいけないとつくづく思いました。

また今回の調査を通して、普段はあまり意識することのなかった思春期の悩みが可視化され、SNS全盛時代のコミュニケーションのあり方を考えるきっかけを持てました。ぜひ多くの方にこの調査結果を読んでもらい、未来を担う子どもたちの悩みの片鱗を感じていただきたいと思います。

今村:

10代の子どもたちには、根本には「つながりたい、満たされたい、寂しい」という欲求があり、スマホやSNSは的確にその欲求にマッチしているんだと思います。今回の調査では、SNSで誰かとつながっていても10代の心は満たされておらず、漠然とした不安に囚われていることもわかりました。ネットは便利で楽しいけどそれだけじゃない、「リアルな世界には、もっと楽しいものがあるんだよ!」ということを、これからのカタリバの活動の中でも提案していきたいと思っています。

今回はどうもありがとうございました。

(前編はこちらから)

写真:NPOカタリバ
写真:NPOカタリバ
認定NPO法人カタリバ代表理事

2001年にNPOカタリバを設立。高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。著書に「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」(ダイヤモンド社、2023年)」

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