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10代の「生きづらさ」は、どこから来るのか~「思春期の実態把握調査」結果を読む【前編】

今村久美認定NPO法人カタリバ代表理事
写真:NPOカタリバ

この度認定NPO法人カタリバは、株式会社マクロミルと協働で「思春期の実態把握調査」(調査結果はこちらからご覧いただけます)を実施しました。この調査は、マクロミル社が行っている社会貢献活動「Goodmill」の取り組みのひとつ「NPO向けリサーチ支援活動」の第1弾です。

今回この調査の結果から読み取れた現代の10代の「生きづらさ」とその原因について、Goodmillのプロジェクトオーナーであり、株式会社マクロミル 上席執行役員の 中野崇さんと一緒に考えてみました。調査結果とともに、2回に分けてご紹介します。

右:株式会社マクロミル 上席執行役員  中野崇さん 写真:NPOカタリバ
右:株式会社マクロミル 上席執行役員 中野崇さん 写真:NPOカタリバ

「スマホネイティブ、10代の孤独と不安」

■高校生世代(15-18歳)のスマホ利用実態

中野:

今回の調査結果でまず注目したのは高校生のメディア接触状況です。「平日の自由に使える時間」について、高校生全体では4.9時間ですが半数近くは「3時間以下」と回答(グラフ1の赤枠)。この結果だけを見ると「やっぱり高校生は忙しいんだなあ」と思える。けれども、各メディアの利用時間を見てみると(グラフ2)、SNS、動画共有サービス、インターネットテレビ、その他インターネット情報、ゲームなど様々な情報に接し、多くの時間を割いていることが伺えます。一人ひとりがこの全部に接触しているわけではないかもしれませんが、概してスマホで利用できるサービスへの接触時間が長い。高校生は「時間さえあればスマホに接触している」という実態が推測できるのではないでしょうか。

(グラフ1【高校生世代の時間の使い方】P13)

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(グラフ2 【高校生世代の接触情報】  P14)

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今村:

私の感覚では10代のスマホ利用時間は、このデータより長い気がします。ぱっと顔が浮かぶ高校生たちも、TicTokやSNOWなどの動画・画像型のSNS、ゲーム型SNS、LINEを多用しています。家のみならず、学校の教室でもずっとです。実際に教室にいる先生や友達より長く、オンライン上で出会った同じ趣味を持つ、遠い場所にいる友達とコミュニケーションしている10代も多い。スマホさえあれば、実際に自分がいる空間は関係なく楽しめます。西日本豪雨の後訪れた避難所でも、動画サイトやゲームにハマっている子どもたちを目にしました。やることが限られている状態だったこともあり、寝る時以外スマホを手放さず、「もう18時間くらい使ってる」と言う中学生もいました。

■親の知らないネット・コミュニケーション

写真:NPOカタリバ
写真:NPOカタリバ

中野:

スマホに依存してしまうのは、高校生がネット利用するサービスにはコミュニケーション要素が介在することが多いからかもしれませんね。約半数が「ネット(SNS)上で知り合った同年代の友人がいる」と回答していますし、自分より年上の友人がいる10代も44%もいます(グラフ3)。私たちの生活からも実感できますが、スマホがない時代は友達と直接会っておしゃべりしていた時間が、ネット利用時間に置き換わっています。また、SNS利用状況を見ると、ツイッター利用者の約半数が「裏アカ(身近な友達に公開していない匿名のアカウント)」を利用していることがわかりました。裏アカ利用の理由は、「リア友(身近な友達)には知られたくない自分の趣味・本音・悩みを投稿したい」ということが挙げられています(グラフ4)

(グラフ3【家族以外との交流実態】P18)

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(グラフ4【SNSの利用状況】P15)

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今村:

データを見るとネット上の友人とは、SNS上でのメッセージのやりとりのみで、直接会っているわけではないんですね。以前流行った「学校裏掲示板」は、サイバーパトロールで発見可能でした。けれどLINEのような承認制のSNS内の会話は、検索できず、まわりの大人が子どもたちの人間関係を把握しづらい。また知らない人とのコミュニケーションや、軽い気持ちの動画投稿にどんな危険なリスクがあるのか、よくわからずハマっていく子も目にしてきました。最近は学校でも「ネットリテラシー教育」を行うことが増えていますが、そういったことが得意な先生方ばかりではありません。研修などで「SNSはコミュニケーション難易度が高い」と知識を得ても、すぐに新しいツールが出回り、子どもたちのトレンドに追いつけないのが現状です。

2006年くらいに、東京のある女子高生から「何でも話せる一番大切な友達は、まだ会ったことのない福岡の人。クラスでは誰にも分かってもらえないアニメのキャラの話をいつもしている」と聞いたことがあります。「モバゲー」など、アバター機能のあるオンラインゲームが出てきたのもその頃で、この辺りから10代の人間関係の幅に「リアル」以外の選択肢が増えてきたように思えます。この女子高校生は、自分のアバターに「モバ彼」や「モバ家族」を持たせており、「昨日、モバ彼と別れて別の人と付き合いだした」と言っていました。

いつの時代の思春期も悩みが多いもの。「思い通りの自分」ではいられないし悩みもある。けれども自分の夢や理想を託したスマホ内のアバターでなら、「リア充」にもなれて自信が持てる。リアルとは別の「見せたい自分」「なりたい自分」になれるのが良くも悪くもネット世界で、そこに救われている子も多くいるとは思います。この心理が、現在のSNS「裏アカ」利用にもつながっている気もします。

■SNS前提時代のつながり方

中野:

確かに10代のほとんどがリアル世界での悩みを抱えていることがわかります。悩みの中身は、自分の能力や将来、身体的特徴に関するものが多くなっており(グラフ5)、悩みの項目自体は従来の思春期と大きく変わっていない印象です。能力や身体的特徴などの悩みは、「努力で変えられるものは変え、変えられないものは時間をかけて受け入れていく」ものだと思いますが、解決までには時間がかかる。しかし今は、SNSやゲームなどネット上の世界において、なりたい自分を手軽に表現・演出することができます。ネット上でコミュニケーションしている時間は、自分の悩みを忘れていられる時間なのかもしれません。

(グラフ5【悩み実態】P20)

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今村:

従来の10代の人間関係は、学校や街という「ガラスの壁」の範囲の中にありました。その壁の中でトラブルが起きると、それと向き合い乗り越える方法を大人も提示し、試行錯誤することを学んでいきました。ですが現在はスマホの出現により、「壁」が意味をなさなくなった。例えばクラス内で人間関係のトラブルが起きたとする。でも、教室を越えたどこかに自分を分かってくれる人が見つけられるのであれば、無理して解決に向き合い心をすり減らさなくてもいい。実際、「自分の悩みはクラスの友達には知られたくない。ネットの中の人ならわかってくれる」という話も聞きました。 それを「若者の打たれ弱さは、乗り越えるべきことから逃げてきたから」と捉えるか、「逃げたければ逃げられる可能性が広がったんだから自由に生きればいい」と捉えるかは、意見が分かれるところですよね。

写真:NPOカタリバ
写真:NPOカタリバ

今村:

私は地方出身で、まさに自転車圏内が行動範囲の「ガラスの壁」の中育ち。選択肢が少なくてつまらなかったし、狭い世界の同調圧力にも悩んだこともありました。だからガラスの壁があった昔が良かったとは、一概に言えないという気持ちもあります。学校では自分のマニアックな趣味を誰もわかってくれず寂しい、でも日本のどこかにはわかり合えてつながれる人がいると感じられることは、10代にとっては救いにもなります。

もはや「SNS前提時代」。子どもたちを導く役割を持つべき私たち大人にも、リアル、バーチャルに限らず人とどうつながっていくのが適切なのかを、子どもたちと共に考える機会が必要ですね。

■10代を悩ます「リア充」呪縛

中野:

ネットにつながり、親や友人以外の色々な人ともコミュニケーションしているはずなのに、高校生の悩みは解決されていないという実態がありそうです。彼らの約4割は「漠然と感じる生きづらさや息苦しさについて」も悩んでいます(グラフ5)。しかしその悩みを持つ高校生の7割が、「人に相談をしていない」と回答(グラフ6)。漠然とした閉塞感のようなものは、身近な人にほど相談できない気持ちはなんとなくわかります。自分の学生時代を振り返っても、「何のために生きているのか」「大人はみんな何が楽しくて生きているのか」ということが頭から離れず、毎日が息苦しい時期がありました。誰にも相談できず、テレビを観ても本を読んでも答えは見つからず、何をどう考えたら良いのかわからず、八方塞がりでした。今の高校生はネット上の情報やコミュニケーションに、そんな息苦しさを解決する答えやヒントを見出そうとしているのかもしれません。

一方で、ネット上のコミュニケーションが、痛ましい悲劇につながることも。例えば、孤独を抱えた若者が孤独感を埋めるコミュニケーションをSNSに求め、それをきっかけに事件に巻き込まれてしまう。SNSのユーザーが増えれば増えるほど、その危険性も高まるということを実感しています。

(グラフ6【悩みの対処方法】P22)

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今村:

いつの時代も変わらない世代特有の悩みに、SNS前提時代ならではの孤独感がかけあわさって、さらに簡単に「わかってくれる誰か」とつながれてしまう。確かに、そんなスマホのツール特性は事件を引き起こす危険もはらんでいますね。

「生きづらさ」に関して言えば、SNSやネットにはつながれる楽しさがある一方、「他人の幸せが見え過ぎることで感じる不幸せ」もあると思います。私が高校生の頃は田舎の本屋にも売っていた『週刊ストリートニュース』というイケてる東京の高校生を取り上げた雑誌を読んで、「おしゃれで素敵な人もいるもんだなあ」なんて、芸能人を見るような感覚で読んでいたのを覚えています。一番近くの都市だった富山市も特急電車で1時間。交通費も高いしなかなか行けなくて、ダサいカッコしてました。だから彼らがいくらカッコよくても、それは自分とは違う別世界の人たちだと、比較する気も起きなかった。

けれども今はSNSで簡単に、身近な感覚で、リアルに充実していてびっくりするくらい楽しそうな全国の同世代の様子を、見ることができてしまう。様々な比較対象が見え過ぎてしまうことで、「自分がいかにつまらない人間か」という孤独感を感じやすい仕組みができてしまったとも言えます。それも、今の時代の10代の「生きづらさ」につながっているのかもしれません。

写真:NPOカタリバ
写真:NPOカタリバ

中野:

さらに比較対象が日本にとどまらず、今やグローバル。「隣の芝生が青く見える」という状況が加速しています。「幸せテロ」という言葉があるように、充実感がない人にとって他人の幸せは破壊力がありますよね。私も自分が落ち込んでいる時はSNSを見なかったですし、人の幸せを喜べない自分に自己嫌悪してさらに落ち込みました。大人でさえ揺るがない自分を手にするのが難しい時代ですから、多感な10代が感じている生きづらさや息苦しさは、もっと深刻かもしれません。

これからを生きる子どもたちは、どのようにして「自分は自分であっていいんだ」という気持ちを手にしていけば良いのでしょうね。実は昨年12月に初めての子どもが産まれまして新米パパになったのですが、父親として子どもをきちんと導けるのか不安になってきました…。

今村:

実は私も小さな息子の親です。スマホ利用のルールは各家庭様々で、何が正解なのかわからないのが現実なのですが…。私たち親世代よりもリテラシーが高い子ども世代の欲求を満たすサービスが、大人の目をすり抜けて、今後もどんどん出現していくんでしょうね。そんな時代において10代になった息子に、「スマホ禁止!」と頭ごなしに言っても意味を持たないと思います。もはやスマホを使うことは前提に、どう認め、可能性を信じて向き合うべきかを考えていく必要があると覚悟し始めています。

ひとつには、子どもたちをネット上のコミュニケーションから、リアル社会の人と人との関係性の喜びや複雑さを感じる機会に、どう誘い出していくかという仕掛け作りが大切だと思います。次回は、10代に必要なものをリアル世界でどう提供していけばいいのか、我々大人には何ができるのかについて考えていきたいと思います。

後編につづく

認定NPO法人カタリバ代表理事

2001年にNPOカタリバを設立。高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。著書に「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」(ダイヤモンド社、2023年)」

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