スペインで活躍する日本人監督が提案するCL決勝の見方

スペインでも監督としての手腕や分析力が高く評価されている坪井健太郎氏

欧州ナンバーワンを決めるUEFAチャンピンズリーグ決勝のキックオフまでとうとう24時間を切った。ポルトガルのリスボンで5月24日(土)20時45分(日本時間27時45分)にキックオフとなる決勝のカードは、レアル・マドリー対アトレティコ・マドリーのマドリード・ダービーだ。この決勝の見どころ、展開予想についてスペインで監督として活躍する坪井健太郎氏に聞いた。

■”終焉節”が出るほどスペインサッカーは薄っぺらいものではない

――今年のCL決勝はマドリード・ダービーとなりました。

私は、ドイツ対決となった昨季から「”スペインサッカー終焉節”が出るほどスペインサッカーは薄っぺらいものではない」と言ってきました。スペインサッカーが作り上げてきた歴史、指導者、サッカー協会が積み重ねてきた努力というのは1年、2年の結果に左右されるほど薄っぺらいものではありません。その意味では、決勝がマドリード・ダービーとなったのは何の驚きでもないですし、特にシメオネ監督となってからのアトレティコ・マドリーの躍進はスペインサッカーの更なる進化を証明していると思います。

――決勝の展望は?

A・マドリーは、今一番勢いのあるチームです。この勢いに乗ってCL決勝も戦いたいところでしょう。展開予想に入る前に、やはり両チームにいるケガ人、R・マドリー側ではベンゼマ、C・ロナウド、ペペ、A・マドリー側ではジエゴ・コスタ、アルダの状態が気になるところです。基本的にA・マドリーがR・マドリーと戦う時の試合の入り方は、引いて守ってカウンターだと思います。準々決勝でバルセロナと対戦した時のようにまずは相手の様子、出方を見てから、流れに応じてプレッシングやボールの奪いどころの高低を調整していくでしょう。A・マドリーの守備のテーマとしては、「モドリッチをどのように抑えるか」。彼に真ん中で好き放題プレーされると、守備が真ん中に寄ってしまいますから、ベイル、C・ロナウドというサイドの速い選手の怖さがより増してしまいます。だから、まずはきちんと「フエゴ・インテリオール」と呼ばれる真ん中のプレーを抑えていきたいところです。対するR・マドリーは、先発出場したとしてもC・ロナウド、ベンゼマのコンディションは万全ではないので、できれば早めに仕掛けて得点を奪い、交代カードを早めに切って上手く逃げ切りたいところです。ゲームコントロールの点では、繰り返しになりますが、モドリッチがどれだけ中盤でプレーに直接的関与ができるか。今季、インサイドハーフに入ることの多いディ・マリアの調子もいいですから、中盤の構成力は問題なく発揮できるでしょう。

――展開としては、R・マドリーがポゼッション、A・マドリーがカウンターを狙う構図ということですか?

そうですね。

■カウンター一辺倒ではないR・マドリー

――R・マドリーはポゼッションよりもカウンターで破壊力を出すチームの印象ですが?

プレーモデルとしては「鋭い縦パスで縦に速い攻撃を得意とするサッカー」ではありますが、アンチェロッティ監督になってからはただ単にカウンター一辺倒ではなく、きちんとつないで両サイドのパスを散らしながらゲームメイクするもできるようになっています。その中心にいるのがモドリッチです。また、シーズン最後となるこの時期というのは、やろうとするサッカーもスタイルも固まってきている時期ですから、やりたいことははっきりしています。そういう時期の大一番で、何が勝敗を分けるかというと、私はメンタルとフィジカルのコンディションだと考えます。シーズンを通じてR・マドリーはパスをつなぎながらゲームを作るサッカーを熟成させてきていますから、ボールを持つ展開自体は全く問題ないと思います。

――R・マドリーはシャビ・アロンソが出場停止となりますが?

彼の持ち味であるサイドチェンジが攻撃のバリエーションから無くなるのは気がかりですが、こうした舞台で代役が予想されるMFイジャラメンディがどのようなリアクション(環境に対するリアクション)をするのかは注意深く見守りたいです。

――改めて、現在のモドリッチについての評価をお願いします。

彼の優れている部分は順応性です。12-13シーズンの夏にトッテナムからR・マドリーに移籍してきて2シーズンが経過しましたが、加入当初は出場機会もいいプレーも少なく、スペイン、R・マドリーのサッカーに慣れない印象でした。しかし、2年目となる今季の活躍は目覚ましいものがあります。現在のR・マドリーの攻撃においては、ほとんどが彼を経由しています。私が見てきた限り、この状態になるまで約半年かかりましたが、その順応のスピードは「非常に早い」と評価できるものです。それこそが彼の長所です。日本ではモドリッチのような選手は「巧い」と評価されがちですが、そもそも選手の評価というのはチームのプレーモデルとの相互依存の関係において行われるものです。例えば、彼はスペインに来てからボランチの1つ前のエリアに出て行ってミドルシュートを打つ、決める能力に磨きをかけましたが、それは「R・マドリーのプレーモデルがモドリッチを成長させた」と言うことができます。逆に、チームはエントレ・リネアス(相手守備組織のライン間のスペース利用)を実行してボールを受け、ボールを前進させてフィニッシュまでいけるMFモドリッチを活かすサッカーを実践して、それによってチームとしてのプレーモデルに変化が起き、今季はポゼッション面での成熟が生まれました。

――A・マドリー側から見た戦術ポイントは?

プレッシングです。プレッシングをどのゾーンで始めるのか。中盤で待ってかけるのか、前に出て行ってかけるのかという点です。

――決勝ということで、序盤は慎重に、中盤でセットしたプレッシングになりそうですか?

逆に、スタートは前から行くかもしれません。A・マドリーのチームの特徴はアグレッシブさであり、序盤で1点が取れればかなり有利な展開に持ち込めますから。序盤のハイプレスが上手くいかなかったとしても、彼らはすっと引くことができます。準々決勝のバルセロナ戦でもその使い分けが絶妙でした。

■A・マドリーの一番の変化は選手が”トラバハドール”になったこと

――A・マドリーのチームとしての特徴は?

まずはシメオネ監督が来てからチームカラーがガラッと変わりました。一番の変化は、選手が”トラバハドール(働き者)”になったことです。それが何よりの手腕です。シメオネ監督が就任する前のA・マドリーは、自信も運動量もないチームで、ある意味で「死にかけのチーム」でした。そんなチームに、シメオネ監督は規律と自信を植え付け、チームを一変させました。

――戦術的にチームの変化を説明すると?

上手く機能していないチームを立て直す鉄板のやり方ですが、まずは守備を整え、そこからのカウンターを浸透させていきました。今季については、シーズンを戦ううちに戦い方のバリエーションにも変化が出てきていて、システムもベースとなる1-4-4-2だけではなく、対戦相手によって1-4-1-4-1、1-4-2-3-1を使い分けています。つまり、ただ単に引いて守ってカウンターのチームではなくなってきているということです。前に出て行かなくてはいけない時にはきちんとオーガナイズされた状態でプレッシングをかけるので、自陣に引いて守備一辺倒でカウンターするチームでもありません。

――攻撃の特徴は?

バルサのように中盤、ボランチを経由してから前線にボールを運ぶのではなく、まずは前線にいるジエゴ・コスタにボールを入れてそこを起点に攻撃するパターンです。彼は足元にボールが収まるし、上背もあるので起点となりやすいフォワードです。また、彼にボールが入った時のセカンドボールへの意識やポジショニングもチームとしてトレーニングされています。コスタにボールが入った後、ビジャやアドリアン・ロペスが絡む、或いはサイドハーフのアルダ、コケがパスを受けてゲームを作るというのがA・マドリーの攻撃の特徴です。

――指導者目線でのシメオネ監督の評価、魅力は?

やはり、チームのマネージメント力です。プロ、トップレベルの選手にあれだけ言うことをきかせる、きちんとコントロールして、走らせることができる監督というのはなかなかいないと思います。それにはカリスマ性が必要ですし、発言内容に説得力がなくてはいけません。どちらかが欠けているのが普通で、両方を兼ね備えた監督というのはなかなかいません。そういった意味でも、素晴らしい監督だと思います。監督としての実績を見ても、過去どこのクラブでも結果を出しています。

――ジエゴ・コスタが欠場した場合の影響は?

それは大いにあると思います。前線で起点を作るのは彼ですし、彼こそが攻撃のパターンであり、ボールの収まりどころなので、いる・いないでは大きな差があります。

■トレンド追いではなくやり方の成熟度に注目を

――最後に、CL決勝のような試合から日本サッカーが学ぶべき点は?

世界のサッカーには、色々なやり方、プレーモデルがあります。グアルディオラ監督のバイエルン・ミュンヘンやバルセロナのようなボールを支配するサッカーもありますし、R・マドリーのような縦に速いサッカー、A・マドリーのように強固な守備をベースに走り、闘うスタイルなどチームの数だけやり方、プレーモデルがありますが、目に見える部分だけを評価したり、やり方に一喜一憂してはいけません。多少指導者目線になりますが、大切なことはどういう選手がいて、監督がどういう戦い方を選択肢、それを浸透させるためにどうメソッドを用いてアプローチするかです。シメオネ監督がなぜ凄いかというと、彼が選択したサッカーを彼のやり方で浸透させたからです。彼のやっているサッカー、戦術というのはある意味で当たり前のことばかりです。斬新な戦術や新たなキーワードばかりを探すのではなく、当たり前のことをどういうやり方で浸透させたのかを追求する視点をもっと持つべきでしょう。今だとどうしても縦に速いカウンター型のサッカーが欧州の舞台で結果を残していますから、「じゃあ、我々もそうしよう。世界のトレンドは縦に速いサッカーだ」となりがちなのですが、私はそうしたトレンド追いには賛同できません。そうではなく、トップレベルの舞台で監督たちが自分のやり方をどのように選手、組織に伝えて浸透・成熟させているのかに着目すべきですし、個人的には日本サッカーの更なるレベルアップのためにもそうした情報や視点を発信していきたいと思います。

(了)

【プロフィール】

坪井健太郎(つぼい・けんたろう)

1982年、静岡県生まれ。静岡学園卒業後、指導者の道へ進む。安芸FCや清水エスパルスの普及部で指導 経験を積み、2008年にスペインへ渡る。バルセロナのCEエウロパやUEコルネジャで育成年代のカテゴリーでコーチを務め、2012年には『PreSoccerTeam』を創設し、マネージャーとしてグローバルなサッカー指導者 の育成を目的にバルセロナへのサッカー指導者留学プログラムを展開中。また、 森亮太氏と共著で『誰にでもわかるサッカー説明書 ~スペインサッカーを日本 語に具現化~』を電子書籍出版。

坪井健太郎氏の新刊'''『サッカーの新しい教科書』(カンゼン)'''

画像