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日本の子どもたちは自己肯定感が低い、小学3年生と中学1年生に特に注意を

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

学校では2学期が始まり1カ月が経ちました。夏休み明けは子どもの自殺が多いことで知られ、8月末には多くのメディアで辛い状況にある子どもたちへの励ましのメッセージが掲載されていました。しかし、残念ながら今年もいくつかの自殺の記事を見ることになりました。

今年の夏休み明けとなる9月2日(月)には東京都内で江戸川区の中学2年生と品川区の中学1年生の自殺の事件が同時に報じられました。また、他のエリアでも中学生や高校生が自ら命を絶ったと思われる事件が複数報道されました。

日本において10代の自殺率は増え続けています。辛い状況にある子どもたちのセーフティネットをますます整備していく必要があります。そしてさらにこのような状況が起きる背景に「日本の子どもたちの自己肯定感の低さ」という課題を感じます。

〇自己肯定感とは

「自己肯定感とは、自らの在り方を積極的に評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情などを意味する言葉」とあります。(Wikipediaより)

専門的には色々な解釈がありますが、総じて「今の自分でいい」「自分はここにいていい」と思える感覚のことを指しています。自ら命を絶つようなことはまさにこの逆の感覚で「自分はダメだ」「自分の居場所がない」という状態であるので、自己肯定感を高めていくことは、まさにこの社会問題への解決策になります。

〇世界的に見て自己肯定感が低い日本の子どもたち

内閣府が行っている「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」は、13歳から29歳までを対象に7か国を比較した調査で、本年度5年ぶりにその結果が発表されています。

まず最初に「自分自身に満足している」という調査については下記の結果となっています。

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残念ながらこの調査では日本が7か国中最も満足度が低い結果になりました。特に「そう思う」という最も肯定的な回答は10%しかなく、他の国の3分の1~6分の1程度です。日本人の控えめな国民性を割り引いて考える必要はあるのでしょうが、それでも同様の調査のほとんどが「日本の若者の自己肯定感の低さ」を指摘している現状は見逃せないと感じます。

同じ質問の5年前との比較のデータもありました。

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「そう思う」・「どちらかといえばそう思う」の合計は前回5年前(46%)⇒今回(45%)と少々後退しました。日本の若者の自己肯定感の低さは、改善していないか、むしろ後退気味であることにさらに危機感を感じます。

自己肯定感にとって重要な「自分には長所がある」という質問は下記の結果でした。

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こちらも残念ながら日本はこの7か国では肯定的な返答が最低の結果になっています。アメリカ・フランスと比べると肯定的な返答は30%ほど低い水準です。日本の若者だけ長所がないわけではないでしょうから、自分で感じられていない状況があります。

この質問の前回5年前との比較データは下記になります。

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こちらも「そう思う」・「どちらかといえばそう思う」の合計は前回5年前(69%)⇒今回(62%)と後退しました。

〇自己肯定感が下がるのは小学3年生と中学1年生という指摘

それでは自己肯定感はいつ下がるのでしょうか。幼稚園や保育園などの小さい子どもは、結構高そうに見えますが、いつからこんなに下がるのでしょうか。

東京都教職員研修センターによる「自尊感情や自己肯定感に関する研究」に下記の調査結果がありました。この調査によると「小学3年生」・「中学1年生」において自尊感情に大きめの落差が見られることが指摘されています。

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小中学生の不登校数は増え続け14万人を超える水準となっていますが、下記の通り、中学1年生で激増します。

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小学3年生と中学1年生が特に課題が大きい点は現場で子どもたちを見ている私たちの経験的にもうなずけるものがあります。

小学3年生といえば、学習面がグッと難しくなります。まず生活科が理科・社会に分かれます。算数でも小数・分数・不等号などが登場し、つまずき始める子が増えてきます。そうなると勉強が分からない⇒学校がつまらない⇒イラつきが始まる、という負のスパイラルも起きてきます。また小学3年生は早期化する中学受験を始める子が出てくる年です。塾に通い始めて大量の宿題に向き合い思うようにいかなくなることの影響もあるのかもしれません。

また、中学1年生は「中1ギャップ」と呼ばれるもっと大きな変化が子どもたちに訪れます。通いなれた小学校から中学校になり、メンバーも大きく変わり、制服になり、定期試験、校則、先輩―後輩関係などが一気に訪れます。

このような中で自己肯定感を落としていき、先ほどのような結果になっていることが考えられます。

〇学校・保護者はどうすべきか

このような現状に対して、「子どもの良いところを認めて褒めましょう」「ありのままのその子を認めましょう」などと色々な指摘がされています。それぞれその通りだな、と思うのですが、「そうはいってもなかなかできない」という学校現場、保護者の声が聞こえます。今の学校システム、また忙しい家庭の環境においてうまくいかないことが多いのではないかと思います。

簡単な解決策はなかなかないのですが、私は拙著の「自己肯定感 育成入門」にも書かせていただいた具体的な考え方を3つだけご紹介させていただきます。私たちが15年で5万人以上の小学生を見てきた経験からの実効策です。

(1)「ほめる」より「気づく」

これは言い換えると、成果や結果だけで褒めるのではなく、子どもたちの小さな変化や成長のプロセスに注目し、そこを気づいて子どもに伝えるということです。子どもの自己肯定感を支えるのは、無条件で自分の存在を受け入れてくれる「安全基地」の存在です。ですので、どんな結果であるかよりも、親や学校の先生にしか分からない小さな変化や努力をぜひ見つけてあげてほしいと思います。子どもたちはそういう存在が多くいればいるほど心の安全基地が堅牢なものになります。チャレンジする子ほど心に安全基地を持っていると感じます。

(2)「未来」ではなく「過去」を語る

子育てや教育において、つい未来を語ってしまいがちです。またその未来への不安から「こんなんでどうする!」という叱責にもなってしまいます。そんな見えない未来への懸念だけが強調されてしまうと子どもも不安が大きくなってしまいます。心の安全基地を表現するためには、その子の産まれたころの写真や映像を見たり、そのことを話題にしたり、親子のスタート地点を確認することをお勧めしています。また学校でも、入学時や春からの成長を思い起こすことが良いと考えます。現時点で出来ないことより、過去から「出来るようになってきたこと」にぜひ注目をしてほしいと思います。

(3)子どもの好きなものを追いかけて興味を持つ

子どもにとっても大人にとっても好きなものは重要です。好きなものがあることで辛い時にも心の救いが出来るし、そこから仲間が広がったり、道が拓けたりもします。子どもたちにとって自分が好きなものに大人が興味を持ってくれる、というのは嬉しいものです。仲間が増えたような感覚です。電車でもスポーツでもゲームでも芸能人でも、子どもが好きになっているものに親や先生が興味を意識的に持ってみて話しかけていくと良いと思います。どのジャンルも知れば面白いもので、直感的に大人が興味は持てなくても、知れば面白いし、分からないことは子どもに聞くと喜んで教えてくれます。子どもに聞くのもお勧めの方法です。

課題が指摘され続ける日本の若者の自己肯定感を社会全体で改善できるように心から願っています。

「子どもは社会の鏡」と言われますので、私たち大人がイキイキとしている姿も見せていかないとなかなか希望が持てないことにもなりますので、子どもたちのためにも大人もまたやりがいを持って頑張っていきたいと思います。

<参考図書>

子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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