フリーライドカルチャーの広めかた【ヤフー宮坂社長・FWT ニコラCEO対談】

宮坂社長(写真左)とニコラCEO(同右)

1月に長野県白馬村で実施される予定だった*、世界で唯一最大のフリーライドスキー・スノーボードの大会Freeride World Tour(FWT)の開幕戦、「Freeride World Tour Hakuba, Japan 2018」。

*2月6日にカナダのキッキングホースに場所を移し、繰り越し開催された

「フリーライド」とは、圧雪された斜面ではなく、自然のままの山の斜面をスキーやスノーボードで滑る遊びであり、スポーツのことで、ギアの進化やデジタルメディアの普及で近年急速に人気が増している。日本の雪は世界のフリーライドコミュニティにおいて「JAPOW」(Japanese Powder Snow)と呼ばれ、熱狂的な人気を博している。

筆者も大会実行委員として関わったこのイベントを、いち白馬村民として、そしていちフリーライドファンとしてサポートしてきたヤフーの宮坂学社長が、大会期間中に白馬村を訪れた。

FWTのCEO、ニコラ・ハレウッズ氏は1996年にスイスのスキーリゾート、ヴェルビエでFWTを立ち上げ、20年かけて世界中に「フリーライド」のカルチャーを広めてきた。(詳しいプロフィールはこちら

日本のパウダースノーがインバウンド観光の文脈から国内でも注目され始めているなか、100年を超えるウィンタースポーツの歴史を持つ日本で、この新しいスポーツ/カルチャーをどのように広めていくべきなのか。

2人の対談にはそのヒントが多く潜んでいた。

白馬とFreeride World Tour

ニコラ:2017年に初めて日本で、テストイベントとしてFreeride Hakuba FWQ2スター(予選大会)を、2018年は最高峰の5大会のひとつ、FWTを実施することが出来ました。

特に昨年のイベント立ち上げのときには、地元のキーパーソンの紹介をしてもらったり、白馬にあるヤフーの施設、ヤフー白馬ベースを実行委員会オフィスとして使わせてもらったうえに、ヤフーからは有志でボランティアがたくさん来てくれました。宮坂さんのサポートがなければとてもイベントは実施できなかったですね。

今年、こうやってまた白馬に戻ってきて、大会としてグレードアップしただけでなく、運営や地元との連携という意味でも昨年よりずっと良くなっているのがとても嬉しいです。白馬は間違いなく世界でもトップクラスの雪山がありますし、日本におけるフリーライドの未来も、明るいのではないかと私は思っています。

こうやって座ってゆっくりお話をさせて頂く時間がこれまで無かったのですが、改めて、あの時、日本ではまだFWTが無名で、スポーツとしてもフリーライドというカテゴリがほぼ存在しない状態だったのに、信じてサポートをして頂けた理由を教えてもらえますか?

宮坂:こんな素晴らしいイベントをサポートすることができて本当に光栄です。

そうですね、それは私の白馬でのバックグラウンドと非常に関係が深いと思っています。

10年前に亡くなった私の父は、白馬の近くで生まれ育ったあと、大阪に移住して大きな工場で働いていました。でも、ずっと父がやりたかったのは、工場ではなくて山で働くことだったらしく、私が大学を卒業した後に、父は山岳地域に移住してきて、セカンドキャリアとして山小屋で働くことを決めたんですよね。

父の生き方にすごく感銘を受けて、山というもの価値に気づいて、自分自身でも頻繁に白馬に来るようになって、もう20年くらいになりますね。

白馬に来て、いろんな人と話せば話すほど、「白馬って凄いなあ」と思うようになって、このものすごい山や土地の魅力を世界や日本のたくさんの人に届けるためには、どうしたらいいんだろうか、と考えるようになったんです。

私は、今の時代においては、そのやり方はオリンピックを開くことではないと思うんですよね。オリンピックは極論すれば、ジャンプ台を作ってしまえば誰でもできるイベントですから。

でも、フリーライドというのは、自分で山と斜面を決めて滑るし、FWTもスタートとゴールだけ決めたら、あとは選手自身が自分で滑るラインを決めて滑るじゃないですか。山とか、雪とか土地のパワーがないと絶対に出来ないイベントですよね。

白馬でしかできないイベントだから、これはやるべきだ、と思ったんですよね。

斜面を視察する選手たち
斜面を視察する選手たち

ニコラ:白馬は本当に特別な場所だと思います。

もちろん、これほど素晴らしい山に、常に雪がある環境も世界にはほとんどありませんが、それだけじゃなくて、その山が広大な範囲に渡っていて、無限に滑る場所があります。

例えば今回のFWT開催に向けて、過去2年間、地元のガイドたちと検討を重ねて、事前に6つか7つくらいの斜面を大会の候補としてリストアップしていましたが、今日、選手たちが山を滑っていて私が気づかなかった新しい候補斜面を見つけて報告してくれました。

トップ選手の中にも、今回初めて来日した選手がたくさんいますが、何日か白馬で滑って、みな本当に白馬の事を気に入ってますし、世界中の山を滑った彼らから見ても、間違いなく世界でトップクラスだと言っていました。

ちなみに、白馬の山の中で宮坂さんのお気に入りはどれですか?

宮坂:唐松岳ですかねぇ。(笑)

ニコラ:八方尾根から上がった一番上のところですね。まだ私自身はそこまで高いところまで登ったことがないのですが、いつか是非一緒に行きましょう。

宮坂:もう20年、週末を利用して白馬に通っていますけど、1月に唐松岳まで行けるような天気だったことは過去に……そうですね、3回ぐらいしかなかったです。(笑)

ニコラ:確かに、白馬の冬に、あれだけ標高の高い所に行くためには本当に良い天気の日を選ばないと。

でも、私たちはスイスのヴェルビエというリゾートともう23年間一緒にイベントをやっています。昨年、FWTは白馬と2020年まで3年間イベントを開催するパートナーシップ結びましたし、白馬とは5年、10年、20年と、長く一緒にやっていきたいと思っているので、いつかは宮坂さんと私で唐松岳まで行ってスキーができると思いますよ。(笑)

宮坂:八方の裏に、蓮華温泉というすごくいい温泉があるんですけど、冬に行こうと思ったらスキーかスノーボードを持っていかないと行けないんですよ。ぜひ一緒に行って温泉に入りましょう。

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フリーライドと雪山のリスク

ニコラ:今、フリーライドが海外で急速に人気が高まってきていて、それに伴って広い範囲に大量の降雪がある日本の雪山の評価が高まってきています。日本人の間でもフリーライドを楽しむ人は増えてきてますが、これから5年間、日本でのフリーライドカルチャーはどのようになっていくと考えていますか?

宮坂:もちろん、大きなPRをして、急激に広めていくやり方もあるんだとは思いますが、フリーライドというのは、山のある場所に住んで、天気を見て、滑りに行く、という一つのライフスタイルだと思うので、「こういう生き方をしたい」という人たちが集まったコミュニティを作って、似たような価値観を持つ人たちの間で、ちょっとずつ広げていくほうがいいんじゃないかなと思います。

ニコラ:なるほど。

日本に対する海外の注目度がどんどん高まって、日本人にもフリーライドのカルチャーの魅力が広まっていくにあたって、私が懸念しているのは、日本のスキー場がその変化のスピードについていけるのかどうかというところです。

フリーライドが日本で大きなポテンシャルを持っていることは私の目から見ると明らかなのですが、多くの日本のスキー場は、様々な理由が原因で、まだそれに対応するノウハウを構築するためのアクションを起こせないでいるような気がしています。

今後、例えば海外のスキー場が行っているように、雪崩のコントロールをスキー場がするとか、スキー場の外のエリアに対してスキーパトロールや山岳ガイド組織などの団体が救助を出すといった、何かしらのやり方で、スキー場がフリーライドやバックカントリーに対応していくためにはどういうステップを踏んでいく必要があると思いますか?

宮坂:とても難しい問題なので、ジャストアイデアにはなってしまいますが。

フリーライドを広めていくにあたっては、滑る人が自分自身の身を守る方法だけではなくて、滑る場所を提供するスキー場や山の管理・運営、雪崩のコントロールといった仕事に従事している人にも新しい知識やスキルが求められるようになりますよね。

そういった、フリーライドカルチャーの広がりに伴って、新しい知識を身に着けていく必要がある人たちが集まってシンポジウムを開くというのはどうでしょうか。

もちろん、スキルを身につけるのには、フィールドで技術を学ぶことも大事なんですけど、みんなで頭を使って、日本のスキー場が一緒に雪崩に関する科学的な知識を高めていくという活動も大事だと思います。

ニコラ:とても良いアイデアですね。

宮坂:それから、私は日本にロードバイクのカルチャーを根付かせたいと思っています。ヤフーでは東日本大震災の復興支援のため、サイクリングイベントである「ツール・ド・東北」を2013年に東北地方の新聞社である河北新報社と共同主催で立ち上げました。今年で6回目を向かえ、日本最大級の規模になってきました。

サイクリングイベントでも、事故が起こらないように運営をするだけでなく、「安全に運営された大会だということ」を地元の人にもきちんと理解してもらうことが必要で、これはとても大きなチャレンジです。

地元の人とコミュニケーションをしていくにあたって、ローカルのメディアの影響力はとても強力です。ツール・ド・東北では昨年11月、河北新報社と一緒に宮城県でシンポジウムを開いたりして、地元の人たちにサイクリングの魅力や観光産業に与える影響などを伝える努力をしてきました。

フリーライドが盛んな地域、例えば長野県とか、北海道とか、東北とか、そういった場所のローカルメディアと良い関係を築いて、彼らを通して「世界ではスキー産業はどうなっていて、スキー場はこういうふうに変わっていっている」といったようなことを発信してもらうのが良いかもしれません。

ニコラ:過去3年ぐらい、どのようにすれば日本にフリーライドカルチャーが広まるのか、いろいろな方と意見交換をしながら考えてきましたが、一番重要なのは、スキー場や自治体の方に理解を得て、マインドセットを変えてもらい、アクションを起こしてもらうことなのではないか、と考えています。

世界のスキー産業の潮流がどんどんフリーライドやバックカントリー寄りに加速しているのを見ると、これはフリーライド関係者だけではなく、日本のスキー産業全体にとっても非常に重要なことなのではないかと思っています。

スキー関係者の方々が知識やスキルをアップデートしていくのもそうですが、スキー場の管理エリアの境界線を引き直したり、人工的に雪崩を起こすデイジーベルという機械の導入を検討したり、といった実際のアクションを誰かがリードしてやっていくことが必要なのではないでしょうか。

誰も、何もアクションを起こさない状態は、後退を意味します。待っている間に事故が起こってしまったら、その場所やスキー場、そしてバックカントリーやフリーライドというカルチャーに対するネガティブな情報だけが流れ、一方的に疑問と懸念の目がフリーライドに向けられてしまいます。

素晴らしい雪山が果てしなく広がっている日本という国において、そうなってしまうことは非常に大きな経済的機会損失に繋がると思います。

FWTはこれまで、10年以上かけて世界中のいろんなリゾートと関係を築いてきました。私たちの持っているコミュニティと、その中にある情報を日本のスキー界ともシェアし、日本のフリーライドカルチャーやスキー産業の発展に協力していきたいですね。

宮坂:私に支援できることがあったら、言ってください。

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スポーツコンテンツのマネタイズ

宮坂:フリーライドワールドツアーが始まって20年の間に、メディアの環境はデジタルに大きく変わっていますが、エクストリームスポーツのコンテンツホルダーとしてどんな変化がありましたか?

ニコラ:ものすごく大きな変化がありました。

20年前は、FWTの放送はスイスの国営放送しかなく、映像の制作から、コンテンツの配信まで、私たちはお金を払って放送局に全てお願いするしかありませんでした。

放送されたコンテンツの内容、誰が、いつ、どのチャンネルでそれを見るか、に対しては全く自分たちのコントロールが及びませんし、放送が終わると私たちのところには何も残りませんでした。 コンテンツホルダーの立場がメディアに対してすごく弱かったと言えます。

でも、デジタルメディアの時代には、FWT自身がコンテンツを100%コントロールして、自分たちのウェブサイトでライブ配信をして、自ら放送のチャンネルになっており、スポンサーも、そのことに価値を感じてFWTをサポートしてくれています。

もう一つの大きな変化は、マスメディアの時代には視聴者の中にはそのコンテンツが何であるかすら全く理解してない人たちもたくさんいました。

でもデジタルメディアの時代のオーディエンスは皆、コンテンツを見たいと思って自らの意思で見に来てくれています。 なのでファンとのエンゲージメントはマスメディアの視聴者よりもずっと強いと思います。

いま、エクストリームスポーツのコンテンツホルダーにとって最も大きな課題は、「デジタルメディアの時代にマネタイズできるのか」というところです。ワールドサーフィンリーグ(WSL)など、いろんなコンテンツホルダーとディスカッションしてきましたが、ペイパービューなのか、月額課金なのか、無料配信と広告モデルなのか......。どういった方法が私達のようなコンテンツホルダーの収益モデルとしてベストなのか。まだ誰もその答えは持っていないように思います。

これはぜひ宮坂さんにも意見を伺いたいですね。(笑)

宮坂:難しいですね。正直言って私にも分かりません。

ただFWTにはとても熱量の高いファンがいるので、少数のスポンサーから大きなお金をもらうというよりは、ファンから少額のお金を月額課金で集めていく、といったやり方の方がいいのかもしれませんね。

ニコラ:なるほど。この20年で時代の変化のスピードもずっと速くなりました。

一つだけ言えるのは、コンテンツホルダーがコントロールできる範囲が増える方向に変化が加速しているということだと思っていて、これから、全く新しいビジネスチャンスも来ると信じています。