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総売上1兆4621億円、コミックは大きな売上増…出版物の分類別売上推移(2021年版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
日々多彩な出版物が発売されるが、分類別で売上に違いは?(写真:アフロ)

シェア動向では雑誌は落ち、コミックは上がる

インターネットの普及とともに出版物の販売状況は大きな変化の中にある。しかし雑誌もコミックも一様に同じ変化を示しているわけではない。その実情を日販の「出版物販売額の実態」最新版(2021年版)を基に確認する。

「出版物販売額の実態」には主要分類別の売上高構成比と、総売上が記載されている。そこでこの2項目を掛け合わせれば、概算による推計値ではあるが分類別の売上高が算出できる(分類別売上構成は1月から12月の暦年、総売上高は4月から翌年3月までの年度での値のため、3か月のずれが生じることになるが、ここは妥協する)。

一方出品物の分類においては、「出版物販売額の実態」では過去2回変更が行われており、これを放置すると計算が非常に複雑なものとなる。そこで変更対象となった「学参」「辞典」「実用」「旅行地図」「専門」「ビジネス」はすべて「その他」扱いとし、変更とは無関係の「雑誌」「コミック」「文庫」「新書」「児童書」「文芸」のみ今回の精査対象とする。

各分類の各年の売上、そして総売上に対する構成比の推移を算出した結果が次のグラフ。

↑ 出版物分類別売上(億円)
↑ 出版物分類別売上(億円)

↑ 出版物分類別売上(一部、億円)
↑ 出版物分類別売上(一部、億円)

↑ 出版物分類別売上構成比
↑ 出版物分類別売上構成比

出版物の総売上は減少傾向にある。その減少過程で少しずつ分類毎の構成比に変化が生じているのも確認できる。手元のデータで一番古い2000年から最新の2020年に至る構成比の変化を見ると、増えたのは「コミック」と「児童書」のみ(「文庫」はプラスマイナスゼロ)。一方、「雑誌」「新書」「文芸」「その他」は値を減らしている。

総額そのものも落ちていることから、構成比が減った「雑誌」「新書」「文芸」はもちろんだが、構成比上では増えた分類の多くも売上そのものは減少してしまっている。売上そのものにおいて一番大きな減少を示しているのは「雑誌」で、2006年比では実に5割を超えてしまっている。他方「コミック」は根強いファンがいるためか、あるいは定価が漸次引き上げられている影響もあるのか、ヒット作にけん引される部分もあり、減少率は1割足らずで済んでいる。

直近の2020年では「コミック」でイレギュラーな動きが確認できる。金額では前年比で909億円のプラス、構成比では前年比6.0%ポイントもの増加が生じている。これは新型コロナウイルス流行で在宅時間が長くなったことによるコミックの需要拡大に加え、「鬼滅の刃」の大ヒットによるところが大きいものと思われる(単行本の最終巻23巻は2020年12月4日に発売)。

唯一セールスを伸ばす児童書

構成比動向で目にとまるのは「児童書」。総売上に対する構成比は大きくないものの、わずかながらも構成比・売上ともに増加しているようすがうかがえる。

実際、2006年から2020年の売上の変化を算出すると、唯一プラスの値を示していることが分かる。

↑ 出版物分類別売上(2006年から2020年における変移)
↑ 出版物分類別売上(2006年から2020年における変移)

「児童書」の2020年における売上は推計で965億円、総売上に占める構成比は6.6%。しかし唯一伸びを示している分類として、注目に値する。

元々一定量の需要は常に存在する児童書だが、ひそかに需要、そして供給ともに増加を示している。この事実(少なくとも売上の面で)は、注目すべき動きに違いない。

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(C)日販 営業推進室 出版流通学院「出版物販売額の実態2021」

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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