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高齢者の「何でもかんで食べることができる人」と歯の数の関係をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 自分の歯でかんで食べることは健康にプラスとなる。高齢者の実情は。(写真:sakai000/イメージマート)

食べ物をよくかんで食べることは健康に大いに貢献するが、自分の歯が減ってくると、それも難しいものとなる。高齢者の「何でもかんで食べることができる人」と歯の数の関係を、厚生労働省から2020年12月に発表された定期調査「国民健康・栄養調査」(※)の最新版となる2019年分における報告書の公開値などから確認する。

最初に示すのは、回答者における歯の本数(親知らず、入れ歯、ブリッジ、インプラントは含まない。さし歯は含む。なお厚生労働省と日本歯科医師会が推奨している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動「8020運動」では、残存歯数が約20本あれば食品の咀嚼が容易であるとされている)と、「何でもかんで食べることができる」人、つまり咀嚼良好者との関係をグラフにしたもの。

↑ 「何でもかんで食べることができる」人と歯の保有状況(男女計・年齢階層別)(2019年)
↑ 「何でもかんで食べることができる」人と歯の保有状況(男女計・年齢階層別)(2019年)

20本以上歯を持つ人の割合は40代までは95%を超えているが、50代では9割近くにまで減り、60代で7割近く、70歳以上では5割足らずに減ってしまう。残りの5割強は20本を割り込み、咀嚼良好者には成り難い状態となる。実際、割合そのものは違いがあるが、年とともに20本以上の歯を持つ人の割合と、咀嚼良好者の割合は似たような減少カーブを描いて減っていく。

「何でもかんで食べること」ができない人、具体的には回答者自身がかんで食べる時の状態について「一部かめない食べ物がある」「かめない食べ物が多い」「かんで食べることはできない」と答えた人においては、 「何でもかんで食べること」ができる人と比べて、低栄養傾向(国民健康・栄養調査ではBMI≦20kg/平方メートルと定義され「やせの者」と表現される)の人が多い実情が確認されている(今件項目は今回調査では調査対象となっておらず、2017年調査分が最新の値となっている)。

↑ 低栄養傾向の人(BMI≦20kg/)の割合(65歳以上、男性、年齢階層別)(2017年)
↑ 低栄養傾向の人(BMI≦20kg/)の割合(65歳以上、男性、年齢階層別)(2017年)

↑ 低栄養傾向の人(BMI≦20kg/)の割合(65歳以上、女性、年齢階層別)(2017年)
↑ 低栄養傾向の人(BMI≦20kg/)の割合(65歳以上、女性、年齢階層別)(2017年)

よくかんで食事ができないから低栄養傾向となるのか、低栄養傾向だからよくかんで食事ができなくなるような状態になってしまっているのか、因果・相関関係までは今項目だけでは明らかにできないが、よくかんで食事ができない高齢者は、何でもかんで食べることができる高齢者よりも、低栄養傾向の人が多い実情が確認できる。さらに女性と比べて男性の方が、何でもかんで食べることができる人・できない人の差異が大きく、歯が失われることで生じ得る「食事をかんで食べるのに難儀している状態」が、栄養状態にもより大きな影響を与える可能性を示唆していると解釈ができる。

自分でかんで食事ができないと食事そのものに難儀を覚える、美味しさを体感し難くなるので食事そのものを敬遠する・十分な量を口にしなくなるなど、食との距離が広がってしまう可能性は多分に考えられる。その結果、低栄養傾向となってしまうという推論は、あながち的外れなものでもないだろう。

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※国民健康・栄養調査

健康増進法に基づき、国民の身体の状況、栄養素など摂取量および生活習慣の状況を明らかにし、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基礎資料を得ることを目的とした調査。2019年調査分における調査時期は2019年11月中、調査実施世帯数は2836世帯で、調査方法は調査票方式。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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