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音楽・映像収録済メディアの購入性向をさぐる(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 音楽CDなどは世帯単位でどれほど買われているのか。(写真:アフロ)

音楽・映像業界ではCDやDVD、BD(ブルーレイディスク)などの物理媒体の販売が落ち込み、市場規模の縮小が大きな懸念材料となっている。世帯単位での購入性向はどのような実情なのだろうか。総務省統計局の家計調査の結果から確認する。

次に示すのは総世帯(単身世帯と二人以上世帯の合算、つまり全部の世帯)における年単位の、音楽や映像に関する収録済みのメディア(音楽や映像ソフト。録画用の内容未収録なCDやDVD、BD媒体は含まず)購入の傾向を、支出金額と世帯購入頻度(※)の点から見たもの。

家計調査では2004年以前は「音楽・映像収録済メディア」項目は「オーディオ・ビデオ収録済テープ」「オーディオ・ビデオディスク」に分散して収録されていたが、今回はその双方を合算して計算に加える(厳密には世帯購入頻度の部分を単純加算するのは、やや問題があるのだが)。

さらに2002年より前の値は、二人以上世帯のみのデータしか存在しないこと、世帯購入頻度の値が無いこと、音楽や映像ソフトに関する概念が随分と異なることを考慮し、連続性の高い2002年以降の動向についてのみ精査を行う。

↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位)
↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位)

2002年以降に限れば2004年がピーク。世帯あたり年間6780円を音楽や映像ソフトに費やしていた(インターネット通販で購入しても対象が物理媒体ならば該当する。デジタルデータ系は該当しない)。100世帯あたりの世帯購入頻度は205なので、おおよそ1世帯あたり2回ほど購入している計算になる。単純試算だが、1購入あたりの金額は3300円ほど。一度に複数本のタイトルを購入することもあれば、この位の額はすぐに達する。また「年間7000円足らずではシリーズもののソフトは買えない」との意見もあるだろうが、今件はあくまでも全世帯の平均値。毎年数万円も映像ソフトに投資する世帯もあれば、まったく購入しない世帯も多分にある。

支出金額、世帯購入頻度はともに2004年をピークに漸減。一時盛り上がりを見せる場面もあったが、結局減少に歯止めはかからない状態だった。2015年においては支出金額は2700円足らず、世帯購入頻度は年間で5世帯に4世帯が1回購入する程度にまで縮小してしまった。

2019年では世帯購入頻度は精査期間内では最低値の70を示し、支出金額も2015年の値を下回る2465円となり、過去最低値を更新。凋落というフレーズが想起される。

なお2016年においては前年比で世帯購入頻度こそ6ポイントの増加(84)に留まっているが、支出金額は1004円もの増加(3673円)を見せ、明らかにイレギュラーな流れを示している。総世帯では世帯主年齢階層別のデータは無いので精査は不可能だが、たとえば単身世帯などで過去のデータをさかのぼると、2016年では全般的に、特に高齢層の支出金額の増加が著しい。

↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額(単身世帯、世帯主年齢階層別、円)
↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額(単身世帯、世帯主年齢階層別、円)

【日本レコード協会のミリオン認定数推移】で確認すると、2016年は珍しく多数のミリオンセラーが生まれている。また、社会現象でも某アイドルグループの解散事案に伴い、関連CDを購入しようとの運動も生じており、それが2016年におけるイレギュラー的な動きをもたらした可能性は十分に考えられる。

↑ 年次ミリオン認定作品(日本レコード協会の公開資料から抜粋)(2016年分)
↑ 年次ミリオン認定作品(日本レコード協会の公開資料から抜粋)(2016年分)

しかしながら2017年以降においてはそのような現象は発生しておらず、支出金額と世帯購入頻度はともに下落を示す形となっている。

今件につき、減少度合いが分かりやすいように、比率の動きで確認する。一番古い値となる2002年における値を基準値の1.00とし、各項目の相対値を算出する。これなら支出金額や世帯購入頻度の大きさの違い、グラフの描写上発生しうる誤認を極力避けることができる。

↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位、2002年=1.00とした時の比率)
↑ 音楽・映像収録済メディアの支出金額と世帯購入頻度(総世帯、年単位、2002年=1.00とした時の比率)

2002年から2015年までの10年強の間に、世帯単位での音楽・映像ソフトの支出金額・世帯購入頻度はともに4割ぐらいにまで落ち込んでいる。どれほどまでがデジタル系媒体で補完されているかについて、今件家計調査では確認ができないが、少なくとも音楽・映像業界を支える一般的な世帯において、半分程度に資金投入が減ってしまったことは間違いない。

音楽・映像メディアは一般的な世帯のみに限らず、企業や団体単位でも購入されるため、今件の購入性向の変化がそのまま業界全体の需要に一致するわけではない。しかし大きな影響力を持ち、市場の多分を支える一般的な世帯において、その購入意欲・支出金額が減っている実態は認識しておく必要がある。同時に2016年の特殊な環境下における挙動にも注目をしておきたい。

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※世帯購入頻度

世帯単位での該当期間の購入頻度。例えば特定の世帯において該当期間に誰かが2回冷凍食品を購入すれば、その世帯における冷凍食品の世帯購入頻度は200%(100世帯あたり200)になる。非購入世帯も含めての計算であることに注意。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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