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卒業後1年の間に正社員になれなかった人の最大の理由は「正社員に就活したが不採用」(2020年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ どのような理由で卒業後アルバイトなどで働いていたのだろうか。(写真:アフロ)

非正社員として働いている人がその立場にいる理由としては、自らその立ち位置を望んだ場合もあれば、病気やけがでフルタイムの就業が難しかった、また正社員としての就職を望んだが果たせなかったなど、多様なパターンがある。そこで厚生労働省が2019年12月に発表した、2018年時点における若年層(15~34歳)の雇用実態を調査した「若年者雇用実態調査」(※)の結果を基に、現在働いている若年層のうち、卒業してから1年の間は非正社員として働いていた人が、どのような理由でその立ち位置にいたのを確認していく。

今調査対象母集団のうち最後の学校を卒業してから1年間において(「新卒」扱いされる期間)、正社員として勤務した人は70.5%、非正社員としては24.0%の人が該当する。卒業後1年間は無職だった人も4.5%確認できる(他に「不明」が1.0%)。調査対象母集団は現在就業している人なので、その無職期間の後に就業を果たしたことになる。

↑ 最終学校卒業から1年間の状況(調査時点で在学していない人のみ)(2018年)
↑ 最終学校卒業から1年間の状況(調査時点で在学していない人のみ)(2018年)

そこで非正社員の24.0%の人に、非正社員として就職した理由を1つ挙げてもらったところ、もっとも多かった回答は「正社員求人に応募するも採用されず」だった。次いで「元々正社員を希望していなかった」「希望する企業で正社員の募集が無かった」が続いている。

↑ 最終学校卒業から1年間、正社員以外の労働者として就職した若年就業者の非正社員として就業した理由別割合(調査時点で在学していない人限定)(2018年)
↑ 最終学校卒業から1年間、正社員以外の労働者として就職した若年就業者の非正社員として就業した理由別割合(調査時点で在学していない人限定)(2018年)

「元々正社員を希望していなかった」とは、あきらめた・何か別の目的があって身動きしやすい非正社員の道を選んだ・非正社員の方が自分のやろうとしている仕事に合っているからなど、さまざまな理由が考えられるため、一概に「やる気が無い」と断じることはできない。いずれにせよ、働き人としての立ち位置としては非正社員よりはるかに優遇される正社員にならなかった理由は多様。そしてそれぞれの理由の割合の多い少ないが、現在の就労市場の状況を表しているともいえる。

「就職活動はした」「しかし色々な事情で結局正社員にはならなかった」に該当する項目を合わせると23.4%+11.2%+10.7%=45.3%。終身雇用制が形骸化しつつはあるが正社員として雇用された以上、長期間同一企業に就労をすることになる企業へのアプローチなのだから、慎重に選ぶのは当たり前の話ではある。とはいえ、その結果として「正社員になれなかった・ならなかった人」の4割強が「正社員としての就活に失敗した結果」というのは少々辛いデータと見ることもできる。

これを各階層別にみると、それぞれの属性別の事情が見えてくる。

↑ 最終学校卒業から1年間、正社員以外の労働者として就職した若年労働者の非正社員として就業した理由別割合(調査時点で在学していない人限定、属性別)(2018年)
↑ 最終学校卒業から1年間、正社員以外の労働者として就職した若年労働者の非正社員として就業した理由別割合(調査時点で在学していない人限定、属性別)(2018年)

男女の差異はあまり無い。やや女性の方が「元々正社員を希望していなかった」「希望する会社で正社員の募集が無かった」が多く、男性の方が「正社員求人に応募するも採用されず」が多い程度。大きな違いが見られるのは最終学歴別の部分。大まかに実情を箇条書きにすると、

・高学歴ほど「就職活動はしたが採用されなかった」割合が増える

・大学院修了に限ると「希望する企業で正社員求人が無かった」が1/4を超える。大学院修了レベルの技能を持つ人材を受け入れる企業で求人枠が少ないことがうかがえる

・「家庭の事情」は中学卒や高校卒、高専・短大卒に多い

・「希望条件に合わなかったので正社員として就職しなかった」は高学歴ほど値が小さくなるが、どの学歴でも一定率はいる

などが挙げられる。

中学卒、高校卒までは、家庭の事情による正社員就業を果たせない場合も多い。具体的にどのような事情までかは資料には無いものの、厳しい状態に置かれていたことが想像できよう。

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※若年者雇用実態調査

厚生労働省が5年おきに実施している調査で、直近分は2018年9月22日から10月15日(個人調査は10月11日から11月30日まで)の間に調査票郵送配布・郵送返信方式にて行われたもので、有効回答数は事務所調査が9455事務所、個人調査が1万9889人。現時点では2018年実施・2019年発表のものが最新となる。

用語定義は次の通り。

「若年就業者」…15~34歳の就業者

「常用就業者」…期間を定めずに雇われているか1か月を超える期間を定めて雇われている就業者

「正社員」…直接雇用関係のある雇用期間の定めのない就業者のうち、正社員・正職員など

「非正社員(元資料上の表記では正社員以外の労働者)」…直接雇用関係のある就業者のうち、正社員・正職員などとされている”以外”の人(例 パート・アルバイト、契約社員など)

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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