Yahoo!ニュース

連休への期待と消費税率引き上げ不安と…2019年2月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが(筆者撮影)。

現状は上昇、先行きは下落

内閣府は2019年3月8日付で2019年2月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、海外情勢等に対する懸念もある一方、改元や大型連休等への期待がみられる」と示された。

2019年2月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス1.9ポイントの47.5。

 →原数値では「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「よくなっている」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは46.7。

 →詳細項目は「非製造業」のみが下落。「小売関係」のプラス3.3ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」のみ。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.5ポイントの48.9。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「変わらない」が減少。原数値DIは49.9。

 →詳細項目では「小売関連」「飲食関連」「住宅関連」が下落。「飲食関連」のマイナス3.4ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「サービス関連」「雇用関連」。

今回先行き判断DIが下落した理由はいくつか考えられるが、例えば長期間の連休となるゴールデンウィークで近場の店舗への客足が遠のくことや、10月の消費税率引き上げを控えて買い物控えが生じるのではとの懸念が挙げられる。

昨今では現状判断DIにおいてやや低迷、ぬるま湯的な軟調さと表現できる動きにあるのが気になるところ。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

今回月は上昇したものの、今なお基準値以下なのが現状ではある。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2019年2月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2019年2月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは合計で前回月から1.9ポイントのプラス。詳細項目では「非製造業」以外で上昇。もっとも大きな上げ幅は「小売関連」による3.3ポイント。

景気の先行き判断DIでは詳細項目で「小売関連」「飲食関連」「住宅関連」が下落。下げ幅は「飲食関連」の3.4ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2019年2月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2019年2月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「サービ関連」と「雇用関連」のみ。

ゴールデンウィークと消費税と

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・春物衣料の動きがよい。気温が上がり、久しぶりにファッション衣料が売れている。また、春物靴下もよい(衣料品専門店)。

・バレンタイン商戦も、限定品などのアイテムが前年以上に好調に推移するとともに、春節などのインバウンドも、米中貿易問題や中国の電子商取引法の改正による売上の落ち込みが心配されたが、懸念するほどでもなく、売上も好調に推移し、店全体の売上を押し上げた(百貨店)。

・春休みやゴールデンウィークの10連休だけに限らず、全体的に販売が大きく増えている(旅行代理店)。

・テレビや冷蔵庫、洗濯機などの主力商品は順調に推移しているが、暖冬の影響により、エアーコンディショナーを含む暖房器具が苦戦しており、全体の売上を下げている(家電量販店)。

■先行き

・今後、地元で開催される大型イベントや、ゴールデンウィークの10連休も控え、この春は来客増が期待される(観光型ホテル)。

・原材料の価格高騰から商品の価格見直しが行われている。10月の消費税引上げを控え、買い控えの動きも予想される(コンビニ)。

・春の移動需要の時期に入っているが、前年と比較して動きが非常に鈍く、景気回復する要因が無い(家電量販店)。

・大型連休に入ることで、遠出をしたり、ショッピングモールへ買物に行く機会が増えるため、小さなスーパーにとっては客足が悪くなる(スーパー)。

今回月は前回月に続き暖冬の影響が生じているが、冬物商品が売れない話ばかりでなく、春物がよく売れるというポジティブな声も見受けられる。また、2019年1月1日から中国で施行された電子商取引法(電子商取引関連全般を適用対象としたもので、納税義務や販売禁止対象品の増加、営業許可証の取得義務など、大幅な規制強化が主な内容)によるインバウンドの売上減退も影響が小さかったとの話もある。

他方、ゴールデンウィークが10連休になることに関しては、旅行を当てにした需要への期待がある一方で、旅行に出かける人が増えるために地元店舗への客が減るのではとの懸念も見受けられる。

企業動向では人材不足や経費上昇への懸念もある一方で、状況の好転化の動きも確認できる。他方、ゴールデンウィークに関する期待も多々確認できる。

■現状

・海外も含めた取引先の動向は、何か突破口を広げようとしているのか、活発な動きがみられる。引き合いが増え、徐々に受注も増えている。幸い、海外取引では為替が円安気味に推移しているため、その点でも景況はよいと感じている(電気機械器具製造業)。

・受注量に変化のない中、人件費、燃料代が上昇し、残業時間等の問題が山積している(輸送業)。

■先行き

・5月のゴールデンウィークが10連休となったことで、それにあわせてスーパーでの販促が見込まれるため、今後の景気はややよくなる(食料品製造業)。

・改元や長期のゴールデンウィークに向けて、イベントを仕掛ける商業施設が多く、例年にない盛り上がりがみられる(広告代理店)。

人件費や燃料代などの経費の上昇は企業側からすれば頭の痛い話ではある。他方、ゴールデンウィークの10連休や改元に合わせて仕掛けるところが多々見受けられるのは興味深い。

雇用動向では人手不足の状況の雰囲気が変わって来た感を覚えさせる意見が確認できる。

■現状

・都内や他の市町村から「事業拡大、新規工場立ち上げのため、新たに求人募集をしたい」という問合せがある(職業安定所)。

■先行き

・東南アジアからの直行便が増加しているため、外国人観光客対応のための求人が、今後ますます増加することになる(求人情報誌製作会社)。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。人材プールそのものが枯渇しているのなら話は別だが、現状は多分に「適切な対価引き上げをしていないので人手が集まらない」状況に他ならない。一部で「人手不足だが賃金が上がらない」との意見もあるが、責任回避のための表現の差し替えに過ぎない。

今件のコメントで全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計34件、先行き計53件、合わせて87件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好13件、やや良好27件、不変98件、やや悪い23件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

コメントには人手不足の現象が、多分に労働環境の改善が求められているとの労働市場のシグナルであるにもかかわらず、雇用市場の変化に対応しようとしない、できない企業において、人手不足感が強いとの印象を受けるものが少なからず見受けられる。上記で触れているが、「人材不足は賃金不足」である(賃金だけに限らないが)。他方、現状を見据えた上で問題意識を明確にし、状況改善へとかじ取りをする企業の動きや状況認識もある。

なお消費税率引き上げに関しては先行きのコメントにおいて「消費税」だけで188件もの言及が確認できる。駆け込み需要や景況感対策の施策への期待の声もあるが、ネガティブな内容の方が多く、景況感の悪化が危惧される。「消費税再増税に対する恐怖感が尋常ではない」なるコメントもあるほど。どこぞで主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は見受けられず、これが現状なのだろう。むしろ「社会保障の財源が必要ならば所得税や法人税を上げるべき」との声すら見受けられる次第ではある。

■関連記事:

政府への要望の最上位は社会保障、次いで景気対策と高齢社会対策

2017年は2.2人で1人、2065年には? 何人の現役層が高齢者を支えるのかをさぐる

※DI

※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事