Yahoo!ニュース

一次エネルギー利用量トップは中国…世界主要国のエネルギー源をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 様々な場面で使われるエネルギー。その実態は(ペイレスイメージズ/アフロ)

一次エネルギーを世界で一番使うのは中国

世界各国のエネルギー政策、エネルギー事情を知るためには、多種多様な視点からその動向を眺める必要がある。その視点の一つが、エネルギーの源としてどのような一次エネルギー(石油や石炭など)(※)を利用しているかについて。今回はイギリスに本拠地を構える国際石油資本BP社が毎年発行しているエネルギー白書「Statistical Review of World Energy」を元に、状況を確認していく。

まずは一次エネルギーの消費量の比較。最新のものは2016年分。前年2015年分なども併記し、変化も確認できるようにした。なお序列は直近年で消費量の多い順となっている。

↑ 主要国一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2012~2016年)
↑ 主要国一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2012~2016年)

2016年に至る動向だが、多くの国でエネルギー消費量は増加を示している。これは曲がりなりにも景況感の回復により、エネルギー消費量が増加したことを意味する。無論景気だけがエネルギー消費を左右するわけではないが、大きな要素であることには違いない。

特に中国は前年比で1.6%、インドは5.7%の増加が確認されており、新興国の伸び具合が大いに注目される状況となっている。とりわけ中国は今資料の限りでは世界最大の一次エネルギー消費量を示し、さらに大きな増加の動きを止めていない(米中間の順位はすでに2009年時点で逆転している)。他方、同じ新興国ながらブラジルの上昇ぶりが止まり、直近年では前年比でむしろマイナスに転じているのがやや気になる。同国では政情の不安定化と経済の低迷が伝えられているが、それがエネルギー消費量にも表れたと見て良いのだろう。

数字の上では中国、アメリカ合衆国から大きく差をつけられる形ではあるが、インドとロシアが続き、そして日本がようやく入ってくる。もっとも日本は今回上位入りした10か国の中では、唯一5年連続しての減少傾向を示している(ロシアは2011年から2012年にかけてわずかに増加している)。これは元々日本が省エネ型のエネルギー消費スタイルであったのに加え、多分に震災の影響に伴う発電エネルギーバランスのひずみによるところが大きい。

世界全体では石油と石炭で約2/3

続いて各国の一次エネルギー源分布。石油や天然ガスなどに区分し、どの一次エネルギーをどのくらいの割合で用いているかを示している。「再生可能」項目は太陽光や風力その他をすべてまとめたもので、「自然エネルギー」とも呼ばれる類の総計。こちらも上記のグラフと同じく、直近年における総消費量上位10位の国のもの+αについてまとめてある。

↑ 主要国の一次エネルギー消費量(エネルギー供給元別)(2016年)
↑ 主要国の一次エネルギー消費量(エネルギー供給元別)(2016年)

特徴的なところを挙げると次の通り。

・中国は6割強が石炭

・ロシアは5割強が天然ガス

・インドは中国に次いで石炭使用率が高い

・日本は2016年時点で原子力が1%(整数四捨五入のため、厳密には0.898%)

・イランでは石油と天然ガスでほぼすべてがまかなわれている

なお今件グラフには含まれていない、つまり総消費量上位10位からもれてしまったイタリアだが、2016年の時点でも(前年同様)原子力によるエネルギー消費は無い。これは1987年に「脱原発政策」が国民投票で決定してから、原発ゼロを貫いているため。ただし厳密に考えると、原子力発電によって他国に輸出できる余力を持つフランスからのエネルギー輸入は、間接的に原子力によるエネルギーの消費と考えることもできるため、状況は複雑である。

そしてそのフランスだが、今回年は消費量で上位10位に入らなかったが特別にグラフに収めている。同国ではエネルギー面でも独立独歩的な政策を現実のものとするため、そして電力の他国への販売を一大ビジネスとしているため、他国に関与されにくい原発を促進している。ちなみに2016年におけるフランスの総消費エネルギーのうち39%は原発起因であり、今回取り上げた諸国では最大の比率を計上している。

中国は一次エネルギー源の6割強が石炭。石炭は安価で経済性に優れているものの、「適切」で比較的「高い技術力」による処理をしないと、二酸化炭素の排出量など環境面での負担も大きい。中国の二酸化炭素排出量がアメリカ合衆国を超えて世界一となっているのも、石炭によるエネルギー確保がメインの構造が大きな要因と考えて問題無い。

日本の場合は石油への依存度がかなり高い。しかもそのほぼすべてを輸入に頼っている。エネルギー戦略上決して好ましい状況では無いのは言うまでもない。さらに2011年の震災を経て、エネルギー政策上多種多様なハードルが積み重なった関係で、昨今の情勢は多分にひずみが生じている。

↑ 日本の一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2011~2016年)
↑ 日本の一次エネルギー消費量(石油換算・億トン)(2011~2016年)

問題点の多い石油を用いる火力発電がセーブされていることもあり、2013年以降は減退傾向にあるが、天然ガス、そして石炭は高い水準にあり、いびつなバランス関係がさらに進行しつつある。再生可能エネルギーも漸増しているものの、状況の変化に追いつかない状態。

各国共に国民の生活を支えるエネルギーは、それぞれの国共に、国が有する事情を考慮した上で、その国々にもっとも適切で、他国の動向に振り回されることの無い、中長期的かつ正しい戦略の構築が必要不可欠となる。その場しのぎで無い、安心して日々が過ごせる、バランスのとれたエネルギー戦略の実現を願いたいものだ。

■関連記事:

世界各国の石炭埋蔵・採掘・輸出入量などをグラフ化してみる

世界中からお世話になってます…日本の石油・石炭・LNGの輸入元をグラフ化してみる

※一次エネルギー

自然界に存在するそのままの形を用い、エネルギー源に使われているものを指す。化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)、ウラン、そして水力、火力、さらには太陽熱・太陽光・地熱などの再生可能エネルギーが該当する。他方「二次エネルギー」も存在するが、これには電気やガソリンなど、一次エネルギーに手を加えて得られるエネルギーなどが対象となる。今回は「一次エネルギー」を対象にしているため、要は「国内外を問わず、どのような自然の恵みをどれだけ用い、エネルギーを取得しているか」を確認している。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事