中国の積極的な拡張政策の実力行使に強い懸念を抱く周辺アジア諸国の実情
今世紀初頭以降、中国の覇権主義的な対外政策は外交面のみならず、実力行使の上でも目立つ形となり、周辺諸国からは大きな懸念が寄せられている。この現状に各国の国民はどのような想いを抱いているのか。アメリカ合衆国の民間調査会社PewResearchCenterが2015年9月に発表した、太平洋・アジア方面に関する国民感情に係わる調査結果「How Asia-Pacific Publics See Each Other and Their National Leaders」から、その実情を確認していくことにする。
次に示すのは、中国が現在も積極的に行っている、近隣諸国との国境線に係わる数々の紛争行為など覇権主義的な実力行動に、どの程度の懸念を持っているかとの設問の回答。「大いに懸念」「懸念」「あまり懸念は無い」「全く懸念は無い」(、「分からない」)の4選択肢を挙げ、回答してもらっている。なお前者2つを懸念派、後者2つを非懸念派としてカウントしている。
懸念派は青系統の色で着色しているが、大よその国で大きな懸念が抱かれている。もっともパキスタンやインドネシアのような親中国では「分からない・無回答」の回答率も高めで、微妙な心境にあることが分かる(インドも同様に「分からない・無回答」が高いのは不思議なところ)。
複数の調査で中国に対し強い敬愛の念を持つ結果が出ている韓国だが、国境紛争に絡んだ話はまた別で、8割近くが懸念。ベトナムやフィリピン、日本とさほど変わらない懸念を抱いている。なお中国自身は設問内容の事情から、質問自身が行われていないようで、報告書にも数字は記載されていない。
懸念派のみを抽出して再構築したのが次のグラフだが、中国の実力行使による被害が相次ぎ報じられているフィリピンやベトナム、東シナ海のガス田問題を筆頭に尖閣諸島などでも問題が報じられている日本が高い値を示し、韓国がそれに続いている。やはりマレーシアやパキスタン、インドネシアなどの親中国は値が一段階低い状態に留まっている。
とりわけベトナムの危機感は強く、大いに懸念するとの回答が6割に達してしまっている。先日の安倍晋三首相とベトナム最高指導者のグエン・フー・チョン共産党書記長による首脳会談で、中国の南シナ海における実力行使に関して、「深刻な懸念」を共有していることを表明するのも理解はできる。
今件に関しては報告書の図解が、位置関係の上での理解に大きな助けとなる。
距離的に近い国、実力行使を受けている国ほど高い値が出ている。そして「分からない・無回答」をのぞけば今回回答対象となったすべての国で懸念派が非懸念派を上回っている。
今件はあくまでも国民ベースの意志の結果。各国の国政レベルの動きとは必ずしも連動しない。しかし同時に該当国はすべて民主主義国家であることから、国民の懸念事項が少なからぬ範囲で国政に影響することは否定できまい。
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