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「収入は増えても生活が楽にならない」その理由を探る

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 買い物の最中でも頭の中でお金のやり取りをしながら商品の出し入れをするように

大黒柱がいる世帯のお金の出入り

社会構造の高齢化で社会保険料が増え、生活は厳しさを増すばかり……との話はよく見聞きする。その実情を総務省統計局の数ある調査データの一つ、家計調査(家計収支編)で確認していく。

今件データは総世帯(全部の世帯)のうち勤労者世帯(勤労収入が無く蓄財や年金などで生活している世帯などは含まれない)の平均値を算出したもの。実収入は1年に得た各種収入(世帯主と配偶者収入)の合計を12で割った、一か月あたりの平均値。ボーナスなどは月単位で分散加算されている。そして「実収入」は「非消費支出(税金や社会保険料)」と「可処分所得」(自由に使えるお金)に分けられる。

・(実)収入……世帯主の収入(月収+ボーナス臨時収入)+配偶者収入など

・支出……消費支出(世帯を維持していくために必要な支出)

+非消費支出(税金・社会保険料など)

+黒字分(投資や貯金など)

※可処分所得=「収入」-「非消費支出」

まずは「実収入」と、「非消費支出」「可処分所得」の推移。

↑ 実収入と非消費支出・可処分所得の推移(円)(総世帯のうち勤労者世帯)(~2013年)
↑ 実収入と非消費支出・可処分所得の推移(円)(総世帯のうち勤労者世帯)(~2013年)

2000年以降減り続けた「実収入」。2004年~2005年を底値に上昇の兆しが見えていた。しかしリーマンショックの影響を受けて2009年で大きく下落。以降は小刻みな上下を繰り返しながら、低迷を続けている。

各世帯が自由に使えるお金「可処分所得」は、2000年と比べて3万円近く減ったまま2007年までほぼ横ばいを続けたあと、やはり2008~2009年で大きく下落。その後は低迷したまま。原因としては「実収入」が減ったのに加え、「非消費支出」が増加しており、この圧迫感が強い。2013年の可処分所得は38万0966円。2000年の値と比べると4万8000円強の減少。

圧迫感を増す社会保険料

これらの実状がより分かりやすくなるのが次のグラフ。「実収入」に占める「非消費支出」、つまり税金や社会保険料の割合の変化を示したものだが、実収入が減少を続けた2004年~2005年までが横ばいだったのに対し、2006年から急激に割合を増やしている。2012年から2013年は0.8%ポイントの増加。実収入は増加しているものの非消費支出も増加し、圧迫感は強まっている。

↑ 実収入に占める非消費支出の割合(総世帯のうち勤労者世帯)(~2013年)
↑ 実収入に占める非消費支出の割合(総世帯のうち勤労者世帯)(~2013年)
↑ 実収入に占める税金や社会保険料比率(~2013年)
↑ 実収入に占める税金や社会保険料比率(~2013年)

累進課税・上限値の設定などがあるため完全な比例関係ではないものの、概して収入が増えればその分税金や社会保険料も増加する。額が増えても収入に占める割合そのものはそれなりに定率になるはずなのだが(極端な値を示す世帯は少数)、この数年「平均的なモデルの世帯では」公租公課の負担「割合」が増えている。2000年~2005年までの安定期と比べると数%ポイントの増加。

この上昇分が、2008年位までの「収入が増えても使えるお金が増えない」、それ以降の「収入が減った以上に生活が厳しいように思える」「収入は増えても生活が楽にならない」との事態を招く主要因である。要は「実入りが多くなっても、それ以上に出ていくものが増えるので、手元に残る額は少なくなる」次第。特に2008年以降は実収入の減少もあり、直接税が占める比率は横ばい、あるいは漸減しているものの、それ以上に社会保険(額・)比率が増加の一途をたどり、結果として非消費支出が増えている。

なお物価の動向は2013年後半期以降の資源価格の高騰、そして何よりも光熱費の上昇に伴いやや上向きになる徴候を示しているものの、総じて安定している。可処分所得の額面変化と物価との関係は事実上無視して構わない。

社会保険料の額、比率が増加しているのは、ひとえに社会構造の高齢化に伴う医療をはじめとした社会保障負担の増加が主要因。医療技術の発達に伴うコストの増加もあるが、高齢化の影響に比べれば微々たるものである。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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