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コミュニティ密着型の地方紙だからできること 西日本新聞が中村哲医師の活動を支援し続ける特別サイト開設

古田大輔ジャーナリスト/ メディアコラボ代表
西日本新聞の特別サイト「一隅を照らす」

アフガニスタンで殺害された中村哲医師の故郷・福岡を中心とする地元紙「西日本新聞」が、中村医師を追悼し、その活動の継続を支援する特別サイト「一隅を照らす」をオープンしました。

中村哲医師特別サイト「一隅を照らす」

中村医師の足跡を本人の寄稿や連載で記す

中村医師は九州大医学部を卒業、福岡で医師として勤務したのち、1984年にハンセン病患者の治療のためにパキスタン北西部に赴任。その後、戦乱と飢餓で混乱の極地にあったアフガニスタンに本拠を移し、医療支援だけでなく、井戸掘削による水資源の確保、用水路整備による農地の復活へと活動を広げてきました。

西日本新聞は地元紙として、その活動を長年にわたり報じ、中村医師自身も「アフガンの地で」と題した記事を寄稿し続けてきました。サイトにはそれらの記事や連載、中村医師の足跡が写真や動画とともに掲載されています。

ペシャワール会への支援も

サイトからは、中村医師が現地代表を勤めていたNGO「ペシャワール会」への応援メッセージを送れる他、ペシャワール会公式サイトへのリンクから会員登録や寄付に繋げることもできます。

サイト名「一隅を照らす」は、中村医師が講演などで口にしていた言葉です。「誰も気がつかないような社会の片隅に光をあてる。そこに尊さがある」という意味です。

戦乱と飢餓のアフガンにさらに空爆を加えたアメリカを中心とする国際社会。それを支持した日本。そんな状況でもアフガンの人々と共に生きた中村医師の活動を端的に表現しています。

共に生きる地域メディアの力と可能性

ここからは個人的な感想です。

インターネットが広がり、紙媒体を読む人は減り、現在、新聞業界は世界的に不況に陥っています。特に地方紙などのローカルメディアは、全国紙に比べてもデジタル化が遅れ、資金力に欠けるために厳しい状況に追い込まれています。地域に根ざし、地域のニュースを伝えるローカルメディアがどう生き残っていくのか。世界的な課題です。

昨年、アメリカで参加した国際的なメディアの会議でも、このことが話題になりました。参加者の一人がこんな発言をしていました。

「ローカルメディアは地域コミュニティの一員だ。これは全国的なメディアにはない強み。コミュニティと共に生きていること自体がパワーだ。ジャーナリズムの客観性は大切だけど、同時に私達はそのコミュニティの一員であり、コミュニティを良くしていくんだ」

ペシャワール会は福岡に根ざした組織です。西日本新聞はその活動をどのメディアよりも身近なところで見てきた。だからこそ、こういうサイトを作ることができる。地域と共に生きるローカルメディアの力と可能性を示しています。

その意味で、中村医師の活動だけでなく、西日本新聞のこの特設サイトもまさに「一隅を照らす」ものだと感じます。

ジャーナリスト/ メディアコラボ代表

早稲田大政経学部卒。朝日新聞社会部、アジア総局、シンガポール支局長などを経て、デジタル版担当。2015年に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年に独立し、株式会社メディアコラボを設立。2020年-2022年にGoogle News Labティーチングフェロー。同年9月に日本ファクトチェックセンター(JFC)発足とともに編集長に。その他、デジタル・ジャーナリスト育成機構事務局長、ファクトチェック・イニシアティブ理事など。USJLP2021-2022、ニューヨーク市立大ジャーナリズムスクール News Innovation and Leadership2021修了

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