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表向きはプロアマを楽しむアマチュア、実は要人たちが秘密交渉!? #ゴルフ

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 ゴルフ界で今、起こっている現実の話が、まるでドラマか映画の中のストーリーのように感じられる。

 今週、英国で開催されている欧州男子ツアーのDPワールドツアーの大会、アルフレッド・ダンヒル・リンクス・チャンピオンシップ(10月5日~8日)は、セント・アンドリュース、カーヌスティ、キングスバーンズという3つの名門コースを日替わりで回るプロアマ形式の賑やかなトーナメントだ。

 米ゴルフウィーク誌によると、その大会に、アマチュアとして出場している「アンドリュー・ウォーターマン」なる人物は、実を言えば、一昨年から世界のゴルフ界を騒がせているリブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」のヤセル・ルマイヤン会長だという。

 ルマイヤン会長とペアを組んでプレーしているプロゴルファーは、PGAツアーからリブゴルフへ移籍したピーター・ユーライン。そして、驚くなかれ、この2人のペアが初日を通算8アンダーで回り、首位タイ発進した。

 その初日に、ルマイヤン会長&ユーライン組と同組で回ったアマチュア選手は、欧州ゴルフの総本山「R&A」を率いるマーチン・スランバーズ会長だった。

 そして、これから始まる第2ラウンドで、ルマイヤン会長&ユーライン組と同組で回ろうとしているのは、世界ランキングを統括するOWGRのトップ、ピーター・ドーソン会長なのだ。

 米スポーツイラストレイテッド誌によると、ユーラインは本来ならDPワールドツアーに出る資格を逸しているリブゴルフ選手だが、今回はノンメンバーとして大会から招待されて出場という形になっているという。そして、3名の会長らは、いずれもアマチュアとして高額な参加費を支払って大会に参加している形を取っている。

 だが、「渦中」にある重要人物たちが、これだけ見事にこの大会に集結し、しかも初日と2日目に同組になっていることは、もちろん、そうなるような仕掛けがあらかじめ施されていたと考えられる。

 言い換えれば、表向きはプロアマ形式の大会を楽しむゴルファー。だが、その陰で、物議を醸し、注目されている「事柄」に対する秘密交渉が行われようとしている様子なのだ。

 注目されている「事柄」とは、OWGRが世界ランキングのポイントを付与する対象ツアーとしてリブゴルフを承認するか、しないかという、あの問題である。

 リブゴルフが「世界ランキングのポイントを授けてほしい」と申請したのは昨年6月のこと。しかし、OWGRは審査・決定を延ばし続け、いまなお結論は出されていない。

 世界ランキングの対象となっているツアーの数は、現在「25」を数えている。どうしたら対象ツアーとして認められるのかと言えば、その正式な基準は明かされておらず、参考として「予選カットがあること」「オープン・クォリファイのシステム(予選会やマンデー予選など)があること」などがガイドラインに含まれている。

 しかし、こうした条件を満たしたとしても、最終的にはOWGRを構成するメンバーが頷かなければ、承認はされないことになる。その構成メンバーとは、メジャー4大会の主催者(オーガスタ・ナショナルなど)の代表者各1名(合計4名)とPGAツアーのジェイ・モナハン会長、DPワールドツアーのキース・ペリー会長など3名だが、後出の3名はリブゴルフ関連での承認審査からは辞退しているため、最後のカギを握っているのは、前出の4名。

 その中でも、OWGRのトップを務めるドーソン会長の存在と影響力は多大である。

 今年6月にPGAツアーのモナハン会長がPIFとの統合合意を発表したことで、リブゴルフやルマイヤン会長に対する世界のゴルフ界の意識や見方は、軟化されつつあると言っていい。

 リブゴルフを支援するPIFのルマイヤン会長が、わざわざ偽名を使ってまで、欧州ツアーのプロアマ形式の大会に参加しているのは、そんな絶好のタイミングを逃すことなく、最大のキーマンであるドーソン会長と直接会って、世界ランキングの一件を交渉するためであることは、想像に難くない。

 ドーソン会長も、そうなることを承知の上で出場しているに違いない。英国のゴルフ関連のウエブサイトには、ドーソン会長のこんな言葉が記されている。

 「ルマイヤン会長とは、まだ言葉を交わしたこともないので、(大会2日目に)会うのが楽しみだ」「結論を出す日は、近づきつつある」

 明るい太陽の下、緑の芝の上で、堂々とプロアマ戦を楽しみながら、笑顔の下ではゴルフ界の未来を左右する重大決定に向けて秘密交渉にいそしむ会長たち。

 今週のアルフレッド・ダンヒル・リンクス・チャンピオンシップは、そんな「秘密交渉」の場となりつつある。

 果たして、どんな成果が得られるのか。「乞う、ご期待!」である。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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